あんちゃんたちに少し無茶な頼みごとをしてもいいか?
「おお。なあなあ、兄者。これなんだ? この草、変なカタチしてんぞ?」
ぜんまいらしき野草に興奮するアクセ。初めての山道に大はしゃぎのアクセだった。
今、EasyGoingの三人とスレイとナギサ、それにゲンゴロウの六人はキサラギ地区と隣のヤヨイ地区の区域境にあるキサラギ山に来ていた。
もちろん、その理由はゲンゴロウからの救援要請を引き受けたからである。
『すまないが力を貸してくれないか?』 ゲンゴロウが必死の表情でヴォルクたちに頼み込む。
『どうしたおっさん? そんなに慌てて?』 ただごとではないゲンゴロウの様子を見て、ヴォルクが問い返す。
『すまない。ちとトラブルが発生してな。クエスト依頼を出そうにも、とてもじゃないが間に合わない。とにかく、腕に覚えがある者の助力がほしい』
『ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ゲンゴロウさん』
スレイが話に割ってはいる。
『いったいなにがあったっていうんですか? ・・・・・・さっき席を外したのは、なにかあったからなんでしょう?』
スレイの言葉を聞いて、ナギサが端末を操作して情報を表示させる。
[キャラクター名「ゲンゴロウ」レベル「48」職業「森林警備隊員」]
『森林警備隊・・・・・・レンジャー、か。ということは、森か山でなにかしらのトラブルがあったってことでいいのかな?』 ナギサはゲンゴロウがレンジャーというのを確認してそう言った。
『キサラギ山は知っているな? そこでトラブルが発生している』
ゲンゴロウのいうキサラギ山というのはこの区域の境にある、さっき説明した場所だ。
そして、スレイが山と聞いて真っ先に思い浮かんだことを口にする。
『山火事、ですか?』
それを否定したのはヴォルクだった。
『山火事なら腕利きに問わずとにかく人を集めるだろう? 腕利きが必要だってことは、テット絡みか?』
テットというのは、この世界での人間以外の生物のことを言うのだが、それを知らないナギサが疑問をぶつける。
『?』 まずは疑問符のリアクション。
『テットというのは何のことですか?』 そして率直に質問。
『? テットはテットだろ? それ以外になんて言えばいい?』 ヴォルクはそう返してきた。
すかざずゲンゴロウが言葉を拾う。
『テットって言うのは人外生物のことだ。・・・・・・あんちゃんの言うとおり、トラブルはテット絡みだ』
息をつくと、ゲンゴロウが言葉を続ける。
『本来、山の奥で暮らしている凶暴なテットたちが麓の街道近くまで降りてきやがっている。それも、迷い込んで偶然数匹が降りてきたわけじゃなく、集団で降りてきてやがる。今は街道を封鎖したが、このままだと甚大な被害がでちまう』
「で、おっさんからの依頼は麓に降りてきたテットの駆除でいいのか?」
山道を進みながら、ヴォルクがゲンゴロウに尋ねた。
「兄者、兄者。おれも戦う、戦う」 それにアクセが割り込んでくる。
そういうと、アクセは腰の短剣を抜いた。
子供のアクセに短剣を携帯させていることにも驚いたが、その短剣を見てさらに驚かされる。
その短剣に、豪勢な宝飾があるわけではない。だが、それがただの短剣ではないことくらいは誰にでもわかる。柄が、鍔が、そして刀身すべてが物語っていた。その短剣が、たぐいまれな業物の逸品だと。
ナギサが自分のタブレット端末――ステータスウィンドウを開いてアクセの短剣の情報を写し出す。
[短剣『アクセラレイト』別名「加速神剣」。自らの意思を持ち、持ち主を選ぶという伝説の武器のひとつ。持ち主に――]
ナギサはメッセージを最後まで読まずにウィンドウを閉じた。なぜ彼女がそんな剣を持っているのかはわからない。わからないが、これは他の者が知るべき情報ではないと判断してのことだった。
(これは、下手に口にしない方がよさそうだ)
ナギサはヴォルクとルフィアの武器も確認してみる。
[短剣『サバイバルナイフ』野草や山菜を採るのに便利な構造になっている市販のナイフ]
[杖『硝子球の杖』杖の先端の魔力増幅球に安価なガラス球を用いた市販の杖]
どちらも安物の市販品だった。
ヴォルクがアクセの手を持ち、アクセラレイトを鞘に納めさせる。
「まだ、お前は剣を抜かなくていいぞ。なにせお前は俺のとっておきの秘密兵器なんだからな」
「おぉ。おれ、秘密兵器か? 秘密兵器か?」
きっとゲンゴロウやスレイは、子供をおだてるための冗談としか思っていないだろう。だが、アクセの武器を覗き見たナギサにはそれが冗談とは思えないでいた。
他のレンジャー隊員たちがこちらにやって来る。
ひとりがまた、ゲンゴロウに耳打ちをする。……ゲンゴロウの表情から察するに、あまりよくない報告か。
少し考え込んだあと、ゲンゴロウがヴォルクたちに話しかけてきた。
「……なぁ、あんちゃん。あんちゃんたちに少し無茶な頼みごとをしてもいいか?」
無茶な頼みごと。はっきりとモノを言うように見えるゲンゴロウが言葉をにごして言っている。
「なんだ? やっかいごとか? 別に俺らはかまわんぜ?」 ヴォルクはあえて追求はしなかった。
「すまんな。本来は俺がやる予定の役割だったんだが、どうも、麓の街道の状況がかなりやばいみたいでな」