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Easy Going  作者: 以龍 渚
Episode”β”
4/31

こっちにきて一緒に飲まないか?

 そんな受付でのやりとりを、ギルドの飲食所の一席で見ていた一人の男……まぁ、おっさんと言い換えた方がその容姿が伝わりやすいかな。


「やれやれ。容姿端麗なお兄さんをおっさん呼ばわりですかい」


 誰がどこからどう見たって熊のような毛深いおっさんである。


 そのおっさんが、席も立たずに受付に集まっているスレイたちに声をかけてきた。


「よう。なに揉めてんだ、スレイの坊やは?」


[キャラクターデータ:キャラ名「ゲンゴロウ」年齢「32」職業:「森林警備隊員レンジャー」……外見「熊」]


 だから、このテロップいつもひとこと多いって。


 スレイはゲンゴロウに呼ばれたことより先に、キャラクターデータのテロップに心の中でツッコミを入れていた。


 その直後、スレイはゲンゴロウの座っている席に近づいていく。


「ゲンさんはまた昼間っから始まっているんですか?」


 スレイがそういうゲンゴロウの座る席のテーブルにはジョッキに入った泡立つ飲み物が置かれている。


「まぁまぁ、坊や。細かい事は言いっこなしにしようや。――しっかし、坊やが連れ持ちとは珍しいな?」


 そう言って、ジョッキに入った飲み物を一気に飲み干す。そして、ゲンゴロウは声を上げる。


「どうだい、アンタらも一緒に? もちろん、俺のおごりだ」


 このおっさんは幼い子供を連れた人になんつうことを言い出す?


「おぉ。兄者兄者。おごりってなんだ?」 アクセが反応した。


「おごりってのはな――」 そう言いながらヴォルクがゲンゴロウとスレイのいる場所に近づいてくる。


 テーブルの皿に山盛りとなっていた、細切り芋の揚げ物に手を伸ばす。そしてそれをそのまま口に放り投げた。


「うん、いい塩加減だ。――おごりってのは、ここの机の上のメシなら勝手に食ってもいいってことだ。このクマのおっさんがご馳走してくれるってわけだ」


「がはは。まぁ、俺がご馳走を出すわけじゃねぇが、そういうこった。ちっこいあんちゃん、酒はいけるか?」


 ちょ、クマのおっさんにちっこいあんちゃんって……


 双方の性格を知るスレイに、すさまじい胃痛が襲い掛かる。


 だがヴォルクは『ちっこい』と言われたにもかかわらず、そのまま会話を続けていた。


「悪いな。どうにも俺は酒にうまさを感じれなくてな。ただ苦いだけの飲み物より、甘味料たっぷりの炭酸水の方が好みなんだ」


 ヴォルクは声を上げ、炭酸水を注文する。ちゃっかり勘定はゲンゴロウ持ちと告げていた。


 気がつくと、いつのまにかルフィアがヴォルクの隣に座っていた。・・・・・・この人、本当に何者なんだろ?


「兄者兄者。おれ、酒いける」 スレイの隣でアクセが手を振り上げながら、


「お、ちっこいの、いけるクチか?」


 いけるわけがないでしょうがっ!


 酔っ払いと幼女の会話にツッコむのもどうかと思うが、スレイは心の中でツッコまずにはいられなかった。


 どう考えても、アクセがその場のノリで言ってるだけだのこと。さすがに誰かが否定するかと思われていたが、ヴァルクの対応は違っていた。


「おいおい。ほんとにいけんのか? そいつはえらくまずいぞ?」


「まずい? まずいのか、クマ?」 アクセまでゲンゴロウを『クマ』呼ばわりだ。


「はははは。そうだな、ちっこいのにはまだこの味は早いか?」


 注文した炭酸水がテーブルに置かれた。 


「そういうこった。味だけならこっちの方が断然にうまい。こっち飲むか?」


 ヴォルクはアクセを止めるのではなく、誘導していた。


 もし、スレイが必死になって止めに入っていたとして、果たしてアクセはそれで納得したのだろうか?


 ヴォルクが声を上げる。もうひとつ、アクセにあげた炭酸水の代わりの自分の炭酸水を注文した。


 その直後、ヴォルクがゲンゴロウに話しかける。それはまったく想定ができなかったことだった。


「なぁ、おっさん。もうひとり席に呼んでもいいか?」


 席に呼んでいいか? これは注文せずに座っているルフィアやまだ椅子に座っていないスレイやアクセに向けた言葉ではない。


 では、誰のことを言っている? 知り合いでもいた? ……それはないだろう。このギルドに知り合いがいるのであれば、スレイにEasygoingの様子見などは頼みはしないだろう。


「ん? なんだ? あんちゃんの連れにもなにか注文させてやりたいってことか?」


 ゲンゴロウがそう思うのは無理もない。この状況では、席についていながら何も頼んでいないルフィアのことと思うだろう。


 まさか、見ず知らずの男を席に招くとは夢にも思わないだろう。――ルフィア以外は。


「……はぁ。また、えっくんの悪い癖が始まりましたか」 ため息まじりにそう呟く。


 そんなルフィアを横目に、ヴォルクが声を上げた。


「おい、そこの柱で妙な道具をいじっている奴。こっちにきて一緒に飲まないか?」


 ヴォルクが呼んだのは、飲食所の脇の柱の影で、板みたいな道具をいじっている男だった。


 ヴォルクには、彼が何者で、なにをいじっているのかなんて知る術はない。


 ただ、後に彼に聞いて帰ってきた答えは――「面白そうなにおいがした」とのことだった。


 そして、彼のその鼻は決して間違ってはいなかった。


 なぜなら、その男が手にしていた道具こそ、この世界では決して目にすることのない『タブレット端末』だったからである。


 そして、この出会いこそがこの物語の始まりを告げる出来事となる。


 MMORPGのNPCとそのプレイヤーが意思疎通できるという、この物語の始まりを。



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