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Easy Going  作者: 以龍 渚
Episode”β”
2/31

やっぱり引き受けるんじゃなかったかな?

 しばらくして、キサラギ地区のギルドコミュニティ街にあるEasyGoingの集会所となっている小さなログハウス風の建物の前にスレイは来ていた。


 ここでスレイは、ギルドで頼まれたことを振り返ってみる。



『スレイくんにはね、ここに書かれている内容が本当かどうか、実際にこのコミュの人たちに会って、それとなく確認してきてもらいたいのよ』 受付嬢は、封筒を指さしながらそう言った。


『それとなく、ですか? ……この封筒の中は見せてもらってもいいんですか?』


『どうぞ』


 スレイは封筒を手に取った。封筒は封のされていない状態だ。スレイは中に入っている紙を取り出した。


 そこに書かれていたのは、コミュニティリーダーの名前と、そのメンバーたちの名前。そして、コミュニティの開設に必要な、推薦者の名前だった。


 スレイが一目その内容を見て気になったのは、登録メンバー数が極端に少ないことだった。


『登録人数、3名!? ……これで、よくコミュニティ開設が認められましたね?』


『コミュニティ設立を推薦した人がスゴいのよ。ほら、ここ。――LightningGeniusのレイっていったら、スレイくんでも聞いたことくらいはあるんじゃないかしら?』


『え? ライトニングジーニアス!? それって、たしか超難度クエストの神々の黄昏を攻略した八英傑の一人が開設した、超大手コミュニティじゃないですか? ――って、そこのレイっていったら、八英傑の一人――光の英傑のレイ本人じゃないですか!?』


『そういうことなのよ。そんな大物が推薦しているコミュに、私たちギルドスタッフが必要以上に干渉することになれば、大事になりかねないのよ』


『ちょっと待ってくださいよ。そもそも、なんでここのコミュに必要以上干渉しなければならないことになっているんです? コミュメンバーが極端に少ないものの、このコミュはきちんと推薦人を立てて正式な手続きを――』


 スレイが、手に持っていた封筒の紙をめくろうとした時に、その手が止まった。


 二枚目の内容を確認しようとしたのだが、紙が一枚しかなかったのだ。


『気づいた? そのコミュから提出された情報って、それだけなのよ。手続き上は問題ないんだけど、新しくこの街に来た人たちの情報が名前だけってのはねぇ』



 回想を終えて、スレイがため息をつく。


「はぁ。やっぱり引き受けるんじゃなかったかな?」


 そう思うのは当然だろう。なにせ、いまスレイは名前しか知らない人物に会いにこの場所まで来ているのだから。


「ま、会って話したらいい人だったってのもよくある事」


 スレイは意を決し、集会所の入り口の扉に向かって歩き始める。


 ……全く逆の可能性もあるという事は、スレイくんの気力を奪わないためにも言わないでおこう。


 スレイは集会所の扉を叩いた。……反応はない。


 今度は扉を叩いた後に呼びかけてみる。


「すみません、キサラギギルドの方から来た者なんですが――」


 嘘は言っていない。まぁ、『~の方から来た』などというあいまいな言葉は、やましい人間が使う言葉なのだ。やましくなければ、はっきりと『ギルドの者』という風にはっきりと言えるだろう。


 もっとも、はたから見ればスレイだってこの上なく怪しい人間にしか見えないのだろうが。


 少し待ってみる。


 すると、扉がゆっくりと少しだけ開いていく。


 本当に怪しい訪問者ならば、扉の隙間に足を入れて強引に中に入るのだろが、当然ながらスレイはそんなことはしない。


 扉の隙間から、こちらをのぞき込むように少女が顔を出す。


 見た感じ、5、6歳くらいの少女だ。少女というよりは幼女と言った方がしっくりくる。


 スレイが声をかけようと扉に近づこうとしたとき、幼女の方が先に声を上げていた。


「や、やんのか、コラ」


 いきなり初対面の幼女に喧嘩を売られた。


「は?」 スレイのこの一文字は意識せずに口から出たものだ。


「やんのか、コラ」 幼女が扉から出て、スレイの前で身構える。


「ちょ、ちょっと?」 まさか、喧嘩を買うわけにもいかず、対応に困るスレイだった。


 スレイが戸惑っていると、再び集会所の扉が開いた。


 姿を見せたのは、スレイよりも年上の、落ち着いた大人の感じの女性だった。


「どうしたの、『アクセ』ちゃん?」


 彼女は、スレイの前にたちはだかる幼女を『アクセ』と呼んだ。


 話のわかる人が出てきた――スレイはそう思っていた。


「姉御ぉ」 アクセが出てきた女性に甘えるように抱きつく。


 これで話ができると思い、スレイは二人に近づいていく。


 が、次のアクセの一言でそれは一変した。


「姉御、あいつ兄者の敵」


 おもわず『は?』っと大声が出るところだった。兄者? 誰だよ、それ? 敵ってなんだよ?


 いろいろな考えを巡らせるスレイだが、あきらかに空気が変わった人間がひとり。


 先ほどまでやわらかな、落ち着いた感じがしていた女性が、まるで親の仇でも見ているような目でスレイを睨みつけてきた。


[キャラクターデータ:キャラ名『ルフィア』性別『女』年齢『24』職業『火炎魔法師』]


 いや、待て待て待て。なぜ今このタイミングでテロップを出す? 何? 火炎魔法師? 燃やされるの、僕?


「えっくんの敵が、うちに何の用?」 ルフィアは依然冷たい目線でスレイを睨みつける。


 だから、えっくんって誰? いや、そんなことよりも――


「待った待った。僕はあなた方の敵なんかじゃありませんよ。僕は――」


 スレイは自分が『ギルドの方から来た者』と言いかけて言葉を止めた。


 当然だ。ここでもう一度あいまいな言葉を使えば、その『えっくん』とやらの敵として認識されてしまう。


 だが、言葉を止めたのはまずかった。


 ルフィアがスレイの目を見つめる。怒りとも虚無ともとれる、病んだ瞳で。


「そこで黙るってことは、やっぱりアナタ、えっくんの敵なんだぁ」


 まずいまずい。この人まともじゃない。


 スレイの脳裏を巡ったのは、『この人、病んでる』の一言だった。


「ねぇ? アナタ、本当は何の目的でここにきたの?」


 ルフィアはスレイの目を見つめたまま詰め寄ってくる。


「ま、待ってください、僕は聞きたいことがあってギルドの方から――」


 この人、全然話を聞いてはくれていませんよぉ。


 それはルフィアの変わらない表情が物語っていた。


 彼女の顔がスレイの真正面の位置に来たとき、それはスレイの背後から聞こえてきた。


「おいおいお前ら、こんなところで何を騒いでいやがる?」


 姿は確認しなくとも、スレイは理解した。……えっくんが帰ってきたことを。


 そして、心の中で泣きそうな声で叫んでいた。


 おかえりなさぁい、えっくぅん、と。



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