そろそろ俺が行った方がよさそうだな?
さて。今しがたスレイの目の前でいったいなにが起こったのか? ……少しだけ説明が必要ですよねぇ。
蝙蝠羽の少女が拳に炎を纏わせてルフィアに向かって突撃をした直後、スレイはルフィアの動きを止めずにただ事の顛末を傍観していたのだ。
それでもルフィアを殴りに行った少女を待ち受けていたのは、強烈なルフィアの後ろ回し蹴りだった。
少女はきりもみ状に蹴り飛ばされ、集会所の庭にある大樹に背中から激突する。
そこからは見るも無残な光景だった。
磔にされた少女が、少しでも手足を動かそうとしようものなら、ルフィアの拳が少女の腹部を強打する。
それが、少女が抵抗の意思をなくすまで繰り返されていたのだ。
崩れ落ちるように磔から解放された少女は、そのまま前のめりに倒れ込み、土下座のようなカタチで誠心誠意の謝罪の言葉を口にしたのだった。
その光景を見ていたスレイにとってはとても他人事とは思えなかった。……いや、彼女の言う盗人というのはルフィアも少女の虚言とうすうす気づいているだろう。そのことを言っているのではない。
覚えているだろうか? スレイが初めてこの集会所を訪れた時に向けられたルフィアの目を。
あのまま誤解が解けていなければ――、そう思った時、磔にされた彼女と自分の姿が重なって見えたのだ。
「それは何に対する謝罪?」
ルフィアが土下座謝罪の意味を問う。ただ謝ればいいという考えが見え隠れすれば、更なる追撃も辞さないだろう。
「……生意気な態度を取って、すんませんでした」
「それだけ?」 まだ冷たく突き放す。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そもそもはフレ――姉御がアタシをあんなところに閉じ込めたのが――」
「つまり、なんで閉じ込められたかをわかっていないってこと?」
ルフィアがゆっくりと少女との距離を詰め始める。――足が届くところまで近づいたら、再び攻撃を開始するとの意思表示だろう。
「そ、そうだ姉御。こいつ、姉御の杖を盗もうとした不届き者なんだよ。アタシが捕まえたんだ、こいつを差し出すから――」
……最悪だ。彼女はスレイを売ろうとしている。
「あなたのそういうところが――」
にじり寄るルフィアが少女へ攻撃できる距離まで詰め寄った。そして――
……話を少しだけ戻そう。
ルフィアが表に出た後のログハウス内。
「すっんませんでしたぁぁぁぁぁぁ」
ログハウスの外からそんな声が聞こえてきた。
その声を聞いて、今度はヴォルクが立ち上がった。
「そろそろ俺が行った方がよさそうだな?」
「兄者。このままだと、フェルノ殺される」
殺される? 聞き捨てのならない単語をアクセが口にした。
「ったく、あいつも素直に謝れば許してもらえるのになぁ」
ヴォルクが入口の扉に向かう。それにアクセが続いた。
「いったいさっきから何の話をしているんですか?」
ナギサからの問いかけ。今度はすぐに答えれくれた。
「そうだな……お前も一緒にこい。その不思議な道具で状況を確認すれば、お前ならすぐに理解できるさ」
「そこまでにしてやれ、フレア」
ルフィアが蝙蝠羽の少女を蹴り上げようとしたタイミングで、この場にヴォルクが現れた。
「あ、兄者ぁぁぁぁぁ」
蝙蝠羽の少女がヴォルクのいる場所へ泣きながら飛んでいく。
アクセが彼女を受け止め、抱きしめると、「もう泣くな」といった感じで彼女の頭をなでていた。
泣きじゃくる少女。あまりの不憫さに、スレイがルフィアに問いかけた。
「……いったい彼女はなにをしたんですか? ルフィアさんに襲いかかったのだって、倉庫に閉じ込められていた仕返しだって言ってたし」
ルフィアが少し考え込む。そして答える。
「……本当はその子が自分のしたことを反省して謝ればここまでするつもりはなかったんです。けど、その子――」
泣きじゃくる少女を慰めているアクセのそばにいたナギサが言葉を放つ。
「そもそも、この子はいったい何者なんですか?」
すると、その問いに答えたのはアクセだった。
「こいつはフェルノって言って、オレと同じ存在だよ」
アクセと同じ存在? ……と、いうことは――
「スレイくん、悪いけどこの子が入っていた箱とその中身を持ってきてもらえるかしら? その方が説明しやすいから」