すっんませんでしたぁぁぁぁぁぁ
なんなんだ、この子は?
スレイは突如現れた、この蝙蝠羽の少女に戸惑っていた。
少女がスレイの手を取り、スレイを倉庫の外へと連れ出す。
「ちょ、ちょっとキミ――」
「おっと。お前だけ逃げようったてそうはいかないぞ? ……こいつを突き出せばあの女だって――」
後半の一言は小声で呟いていた。おそらく、スレイに聞こえてはいけない一言なのだろうが……しっかりとスレイには聞こえていた。
スレイはため息をつく。そして、諦めたかのようになりゆきに身を任すことにしたのだった。
――EasyGoing、ログハウス集会所。
ログハウスに設置してある大テーブルでは、ヴォルクとナギサが話しながらナギサの弓をいじっている。
アクセはナギサが余らせたであろう部品や端材で遊んでいる。
そして、そんな光景をルフィアが少し離れた場所で見守っている。
ナギサとスレイがEasyGoingにやってきてからはちょくちょく見かける光景だ。
「ほぅ、変わった仕掛けだな? そいつにはどんな効果があるんだ?」
ナギサが作り出す、見たこともないハンドルの付いた謎の道具を興味津々に見つめるヴォルク。
「これは『クインクレイン』というモノです。これを弓に取り付けてハンドルを回せば、さらに弓の弦を強く引けるようになるという補助器具ですよ」
ヴォルクの問いにナギサは素直に答える。……文化や常識が違うのに、ナギサが言葉を選ばずに返答できる。そんなヴォルクの人柄に惹かれてナギサがここにやってきたということがこの光景からは感じ取ることが出来た。
「フレアー、出てこいっ」 表から少女の大声が聞こえてきた。
その声に真っ先に反応を示したのはアクセだった。
「兄者、この声って……」
ヴォルクがアクセの問いに答えるよりも早く、ルフィアが立ち上がった。
「こめん、えっくん。ちょっと行ってくる」
立ち上がり、表に向かうルフィアにヴォルクは一言声をかけた。「ほどほどにな」と。
ルフィアが入り口の戸を閉めた後、ナギサがヴォルクに問いかけた。
「なんなんですか、いったい?」
「ああ。あれはな――」
と、ナギサの問いに答えようとしたヴォルクに、アクセが割り込んできた。
「『フェルノ』、出てきたね。兄者」
「そうみたいだな」
ヴォルクとアクセ。二人だけが状況を理解していた。
……ナギサはひとり、置いてけぼりにされた気分だった。
集会所の表では、蝙蝠羽の少女とスレイが呼び出したルフィアが来るのを待ち受けていた。
「よーやく現れたな、フレア。アタシにあんなことをしてただで済むとは思ってないよな?」
ルフィアに対し啖呵を切る。
そんな少女をスレイは「どうしたものかな」という表情を浮かべながら黙って見守っている。
そんな光景を見て、ルフィアは察した。……スレイがあの箱を開けたのだと。
少女がスレイに向かって小声で話しかけてくる。
「お前、得意な魔法でもなんでも使っていいから、とにかくアタシが突っ込んだらあの女の動きを一瞬でもいいから止めろ。そこにアタシがキッツい一撃をお見舞いしてやる」
乗り気じゃない表情を見せるスレイ。そんなスレイを見て、さらに言葉を続ける。
「いいか? お前が盗人だってバレたら、お前はあの女にただでは済まないような仕打ちを受けるんだぞ? そんなことになりたくなければ、アタシに協力しろ」
少女が自らの両拳に炎を纏わせた。その姿を見て、ルフィアが少女に話しかける。
「……きちんと外に私を呼び出したところを見ると、反省はしているようね? けど、誠意ある謝罪はまだしてもらってないけど?」
「うるさいっ。いつまでそんな態度でいられるか、試してやるっ」
少女が低空飛行でルフィアに突っ込んでいく。……背中の羽は飾りではないようだ。
そして、少女とルフィアが激突する。
「すっんませんでしたぁぁぁぁぁぁ」
今、スレイの目の前で広げられている光景は、ボロボロな姿になった蝙蝠羽の少女が、ルフィアに向かって誠心誠意の謝罪の意を込めた土下座をしている姿だった。