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Easy Going  作者: 以龍 渚
Episode”β”
17/31

さてはお前、盗人だな?

スレイは今、EasyGoingの集会場の離れにある倉庫の中にいた。


ドラゴンバクでの騒動の時にルフィアがスレイの杖を壊してしまったことは覚えているだろうか?


そして、ルフィアは杖を弁償すると言っていたことを覚えているだろうか?



『ゴメンね、スレイくん。……それで、杖のことなんだけど、私の使い古した杖じゃダメ?』


ルフィアはスレイに謝りながらそう提案してきた。


『使い古した杖、ですか?』


壊された杖は新品とは言えないものの、まだ購入してからそんなには使用していなかった杖だ。それを使い古しで弁償すると言われれば、あまりいい気分ではないだろう。


『そんな顔をしないでよ。……使い古しって言っても、そこらの市販の杖よりはいい杖だから。――! そうだ。だったら一度見てきてよ。それでもし、スレイくんが満足いかなかったらまた別の弁償方法を考えるから』



倉庫の奥に何本もの杖が立てかけられている一角を見つける。


「これのことかな? たしか、この中からなら好きなものを選んでいいってことだったけど――」


正直期待はしていない。次の杖を買うまでの繋ぎとなるモノさえあればいいとスレイは思っていた。


薄暗い倉庫の中、スレイは立てかけられている杖を一つずつ手に取って調べてみる。


ここにある杖は、魔力の増幅器部分が欠けてしまっているものや杖の柄の一部が焦げてしまっているモノばかりで、お世辞にも状態がいいとはいえない。


……杖を調べるために伸ばしたスレイの手が震える。


状態の悪い杖を押し付けられる怒り、ではない。


「……なにを考えているんですか、あの人は。どう考えても僕の杖と釣り合う杖なんてないじゃないですか。――どの杖もレアドロップや上位クエストの報酬でもないかぎり手に入らないような希少品ばかりじゃないですか」


忘れていた。あの人は八英傑の一人「フレア」だってことを。


少し考えれば分かることだった。あの人が使い古した杖というものがどういうものなのか。


だって、考えてみればわかることだが、並みの杖をあの人が使えばどうなるか。……そりゃ、使い古す前に壊れてしまうでしょうね。


壊れずに残る杖があるとすれば、それはとてつもない逸品だということになる。


「この中の杖を一つ売るだけで、どれだけの杖が買えると思っているんですか?」


誰もいない空間で、スレイはひとりツッコんでいた。


そして、考える。こんな杖を本当に自分ごときがもらっていいのだろうかと。


「……れか、……るのか……」


「え?」 スレイは辺りを見渡す。


声が聞こえたような気がした。だが、倉庫内にはスレイ以外誰もいない。


「気のせい、か?」


スレイは再び杖を見繕いはじめた。


「――誰かいるのか?」


「!」 今度ははっきりと聞こえた。


女性――いや、少女のような声。


スレイは杖を置き、辺りを見渡す。――誰もいない。


倉庫の壁際に設置してある棚が音を立てて揺れ始める。


スレイは警戒しながらその揺れる棚に近づいていく。


問題の棚を調べてみる。――棚の下段にそれはあった。


木箱だ。それも、やたらと細長い木箱だった。


「箱? ……この大きさは、杖か?」


細長い木箱だからといって、中身が杖と限ったわけではないが、スレイはなんとなく杖が入っていると感じていた。


スレイは木箱のフタに手をかける。……フタにはなにやら紙のようなモノで封がしてあった。


少し力をいれて木箱のフタを持ち上げると、封となっていた紙は簡単に破れ、箱の中身が姿を見せる。


入っていたのは、スレイが予想していた通り杖だった。


だが、ただの杖ではなかった。


本来、魔導師が使う杖には杖先に魔力を増幅させる増幅器として、なにかしらの石が埋められている。


市販品の杖の場合は硝子ガラス水晶クリスタルを使用していることが多い。……さっきまでスレイが見繕っていたルフィアの杖にも、希少な宝石や特殊な結晶が使われている。


だが、この杖にはそれがない。杖先の魔力増幅器部分はさかずき状に細工されており、ところどころ不思議な装飾が施されている。


「なんだ、この杖? ……けど、この杖の不思議な感じ、どこかで? ……たしか――」


スレイがなにかを思い出そうとしていた時、背後に気配を感じた。


咄嗟に振り替えるスレイ。


そこにいたのは、背中に蝙蝠コウモリのような小さな羽を生やした女の子だった。


蝙蝠羽の少女は、スレイの姿と床に散らばるスレイが見繕っていた杖を見て不敵な笑みを浮かべる。そして、スレイに話しかけてきた。


「そうかそうか。さてはお前、盗人ぬすっとだな? ……その杖の持ち主の怖さも知らずに、よくもまぁ」


少女の声はさっきから聞こえていた声だ。


「まあいい。お前のおかげでようやく表に出られたんだ。――あの女、よくもアタシをこんなところに閉じ込めやがって。いいだろう、ここまでするんだったらあの女に見せてやろうじゃないか。――おい、盗人。おまえも来い。お前だって同罪だ、お前もあの女に目にモノ見せてやろうぜ」


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