ヴォルクさんにお願いと提案があるのですが
「おお。やったのか? やったのか、兄者?」
アクセラレイトの光が消え、アクセとアクセラレイトが分離されてアクセが姿を現す。
ヴォルクはただの短剣と戻ったアクセラレイトをアクセに投げ返すと、ドラゴンバクが消えた場所に向かって歩きながらこう言った。
「いいや。逃げられたな、これは」
その場に残されていたのは、ドラゴンバクの足跡。
おそらく、あの黒煙の中、ドラゴンバクは足跡を残すほどに勢いでなりふりかまわずこの場から逃げ去っていったのだろう。
ナギサがヴォルクに近づいていく。
「足跡は続いていますね。……追いますか?」
ナギサの見るモニターでの映像には、さらに足跡が強調され表示されている。
「いや、やめておく。それこそ、ハイキング程度の装備しか持ち合わせていないしな」
「そうですか。――ところでヴォルクさん。たった今、ヴォルクさん好みの面白い話が出来そうになりましたが、見ますか?」
そう言ってナギサのアバターがヴォルクにタブレットの画面を見せた。
タブレットの画面を見て、ヴォルクが突然笑い声を上げだした。
「こりゃ、たしかに面白いな。……そうかそうか。お前のその道具にはそんなことまで映っちまうんだなぁ」
どこまで詳しく表示されているのかはナギサにはわからない。
だが、ヴォルクの反応を見れば、ナギサが言いたかったこと――イミテーションブレイクによりヴォルクの名前表記が「エクレア」になっているということは伝わっているだろう。
「ところで、ヴォルクさんにお願いと提案があるのですが――」
呆けていたスレイが我を取り戻す。
そして、そんなスレイの耳に入ってきた言葉はルフィアの謝罪の言葉だった。
「ゴメンね」
そう言いながらルフィアは先端の魔力増幅部が砕けてなくなった杖をスレイに返した。
「あ、杖はきちんと弁償するから。私が昔使っていた杖が集会所に仕舞ってあるから、それで許して、ね」
ルフィアはそう言いながら笑みを浮かべた。寛容な態度で許してほしいという懇願の意味を込めて。
スレイに、壊れてしまった杖をどうこう言うつもりはなかった。ただそれより――
「それよりルフィアさん。さっきのはいったいなんなんですか? アクセちゃんが短剣を投げ渡したとおもったら、短剣の中に吸い込まれていって――」
先程のヴォルクとアクセのことが気になっていた。
「それは本人に聞いた方が早いんじゃないかなぁ? ――ほら」
ルフィアに言われてスレイが振り返ると、そこには――
「見たか、スレイ。兄者の実力。兄者、つえーだろ? さいきょーだろ?」
……アクセがいた。
(いやいや。ここはヴォルクさんじゃないの?)
いやぁ。しばらくバトル展開でおざなりになっていたスレイくんの心の中のツッコミがきましたねぇ。
でも、一応聞いてみることに。
「さっきのアクセちゃん、その剣の中に吸い込まれていったみたいだったけど、いったいその剣はなんなの?」
アクセが手に持つ剣を指し、スレイがアクセに問いかける。
「これか? これはオレ自身だ」 アクセが一言、そう返してきた。
「アクセちゃん、自身? それは、それくらい大切なモノってことかな?」
「『モノ』じゃないっ!」 アクセは声を荒げてスレイの言葉を否定した。
「? ?」 スレイは益々わからなくなっていた。
そんな会話に入ってきたのは、先程までなにやらナギサと話し込んでいたヴォルクだった。
「ちょっといいか、スレイ。さっきナギサと話してたんだけどなぁ――」
スレイにはなにやら嫌な予感しかしない切り出しだ。
「お前、ウチのコミュに入れ」 ヴォルクは突然にそんなことを口にした。
「はぁ?」 突然の申し出に困惑するスレイ。
「ちょ、ちょっと待ってください。何がどうなってそういう話になっているんですか?」
スレイにとって、予想もできていなかった展開。
ヴォルクはそんなスレイの反応を見てみぬように言葉を続ける。
「アクセ。お前もスレイは気に入っているんだろ?」
「おう。スレイはいい下僕になる」 アクセの屈託のない一言。
生き生きとした表情でさらりとそんな言葉を言われても、スレイの脳裏にはアクセの子守り役にされる未来しか浮かばない。
答えを言いよどんでいるスレイに、ナギサが語りかける。
「スレイくん。なにもこれは強制ってわけじゃないよ? 嫌なら申し出を断ればいいだけじゃないかな」
ヴォルクを擁護するようなナギサの言葉に、スレイは――
「! ちょっと待ってください。……ナギサさんはこの話に乗ったんですか?」
「ええ。俺の方からお願いしましたがね」
さっきナギサの言っていた『お願い』というのはこのことだったのだろう。
じゃあ『提案』というのは?