あなたの友達、本当に人間ですか?
MMORPGというモノをご存じだろうか?
いや、この作品を読んでくれようとしている方に対しては、あまりにも失礼な質問だっただろうか。
MMORPG=Massively(大規模な) Multiplayer(多くの参加者) Online RolePlayingGame(役を演じるゲーム)、つまりは大規模で多くの参加者たちが役を演じて遊ぶオンラインゲームのことである。
MMORPGがありふれている昨今、ここにまた、新たなるMMORPGが誕生しようとしていた。
そのMMORPGのタイトルは「Verbal Communication」
その言葉の意味は「意思疎通」
誰もが、どこにでもあるMMORPGがまた生まれるのかと思っていた。
このゲームの衝撃的なキャッチコピーを耳にするまでは。
このゲームのキャッチコピー、それは――
「あなたの友達、本当に人間ですか?」
このフレーズの何が衝撃的なのか?
それは、このゲームのタイトルが意味するものがわかれば、理解するであろう。
物語は、このMMORPGのサービスが始まる前のVerbal Communicationの世界から始まる。
12のエリアに分かれている、この世界の居住区の一つに、『キサラギ』という街がある。
この街の冒険者ギルドの扉を、ひとりの青年がくぐっていく。
青年の名は『スレイ』。……なんか、地味でパっとしない『補助魔法師』という職業の青年だ。
「……パっとしないって、ひどい言われようだなぁ」
おや? 傷ついちゃいましたか? いやぁ、失礼失礼。――では、改めまして。
[キャラクターデータ:キャラ名『スレイ』性別『男』年齢『19』職業『補助魔法師』] なにもない空中に、テロップが浮かび上がった。
ギルドの中に入ると、受付をしている女性が、スレイの姿を確認するなり急に声をかけてきた。
「あ、スレイくん。ちょうどよかった」
このタイミングでの『ちょうどよかった』は、嫌な予感しかしない。
「実は、スレイくんにちょっと頼みたい事があるのよ」
本来アンタは頼みごとを引き受ける側の人間じゃないのかよ、ってツッコミは心の中だけにしておこう。
「頼みたいこと、ですか? 僕にできることなんて、あんまりないですよ?」 形式だけの謙遜。やっかいな頼みごとをすぐ断れるようにするための予防策だ。
「いえね、たいしたことじゃないのよ。ただ、コミュニティに所属している人だと頼みづらいって言うか」
[キャラクターデータ:キャラ名『スレイ』……所属コミュニティ『無所属』]
「コミュ無所属でないと頼みにくいこと?」
スレイは話が見えず、首を傾げた。
くわしい話を聞くために、スレイは受付カウンターに近づいていく。
「で、なんなんです? その頼みにくいことってのは?」
嫌みったらしく『頼みにくいこと』という言葉を強調する。
「……なんか、スレイくんがいやらしい」 スレイの言葉に、受付嬢はわざとらしい拗ね顔を見せる。
「はいはい。拗ねたって話が進まないだけですよ」
『似合ってないんですから』という言葉が口から出るのは抑えられたようだ。
受付嬢が話を切り出す前に、受付カウンターの上に一枚の封筒を置いた。
その封筒の宛先は『EasyGoing所属 ヴォルク様』と書かれていた。
「? この封筒が、なにか?」 いまいち話が見えてこない。
「この宛名のEasyGoingってコミュニティなんだけど、ここね、最近にこのキサラギ地区に登録されたコミュニティなんだけどね、ちょっとギルドに提出された登録証について確認したいところがあるのよ」
「登録証の確認、ですか? それがいったい僕に頼みたいこととどうつながるって言うんですか? だって、登録証の不備の調査なら、ギルドの仕事でしょ?」
「登録証に不備はないのよ。それに、登録されたのは一月以上も前の話だし」
不備がないのなら、なんで確認が? そう考えを頭の中に巡らせているスレイに受付嬢が言葉を続ける。
「コミュニティ登録自体はまったく問題はないんだけど、どうも気になるところが多くてね。けど、それを確認するために私たちが動くと、問題になりかねないのよ。だって、正規の手順でコミュ登録を終えているところに対して、『ここが気になって』って聞きに行くのってどう?」
「だから、それで何で僕なんですか?」
「他のコミュニティに所属している人が聞きになんか行ったら、それこそコミュ同士の喧嘩になりかねないじゃない? ……このギルドによく顔を出す人で、コミュニティ無所属の信頼の置ける人って、スレイくんくらいしかいないのよ」
「はぁ。わかりました、話だけは聞きましょう。ただ、引き受けるかどうかは話の内容次第ですよ?」