鬼と人と
巷を騒がす物の化を退治するために、町同心は丑三つ時の江戸の町を提灯片手に油断なく歩いていた。
「お、お助けー」
叫び声の聞こえる側へと目を向けると、赤ら顔をして酔っ払った町人が川辺りの柳の木の下に立つ同心の下へと走ってきて、四つん這いになりながら同心の足元にすがり付く。
「ふむ、向こうか」
未だにアワアワと慌てる町人を足蹴にして、走り来た方へと目を向けた。
「こんな時間に出歩くと、噂の鬼に食われるぞ?」
笑いながら同心が町人を見ると、先程まで情けない表情をしていた町人の顔に表情は無かった。
ふと、腹に熱さを感じて見ると、合口が根本まで深々と刺さっていた。
「鬼はあんた達だ」
意識の薄れてゆく同心が町人の顔を良く良く見てみると、その顔は先日捕獲して罪を白状させる為に拷問にかけた娘の兄だった。
「妹はやっちゃいねぇ、あれは隣組の奴の仕業たと訴えたのに聞きゃあしねぇ、挙げ句妹を拷問で殺しやがった!」
既に意識の無い同心に向かい怨み言を続ける。
「地獄で鬼に喰われちまえ!」
果たして、人が鬼か鬼が人か。