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ある令嬢のお話

作者: 癒華

稚拙な文章です。読みにくいです。はじめて投稿します!

貴族に生まれた女の子は綺麗なドレスとお菓子に囲まれていつも可愛らしくあればいいの、と言われて令嬢たちは育つ。

私も例外なく綺麗なものに囲まれて育ってきた。だが、未来の王妃になる私は家を継ぐ兄と同じように学問を学ばなくてはいけない。王の妃に学がなければ国の恥になってしまうからだ。

それを渋る私に美しい母は、将来この国は貴女のものになるのよ、と言って聞かせた。私もそれを信じたし、周りも私が未来の王妃になることを疑わなかった。その言葉を信じたからこそ勉強の時間を蔑ろにはしなくなった。

幸い、私の顔つきはいい方だったし、自慢のブロンドと青の瞳、人より高い魔力、それに将来の王妃という立場も相まって、令嬢方には羨ましがられ、常に私のご機嫌とり状態だった。

すっかり自分に自信を持った私は定期的にお茶会と称して令嬢たちを呼び、私の婚約者兼将来の王であるエドモンドさまからの贈り物や魔法がかけられた絵本などを見せびらかし、自慢していた。そんなことが続き、私は高い立場にいれば皆に注目されることを幼いながらよく知っていた。



そんなある日、定期的に開かれる国主催のパーティーに出席することになり、私は初めて王城にむかうことになった。

城は様々な装飾がされており、何においても屋敷のものなど比べものにならない。まるで別世界のようだった。

ふと、会場の奥のいちばん兵が多いところに自然と目がいった。そこにはふたりの男女が座っている。

それが王と王妃であるということは、すぐに気がついた。会場には、沢山の綺麗な人がいたけれど王妃さまの美しさに敵うものはなかったように思えた。

そんな私の様子に気づいた母は、私の耳元でそっと囁いた。いずれ、あの席は貴女のものになるの、貴女はここにある全てのものを手にする権利をもっているの、と。

母の言葉を聞きながら、ぼんやりと玉座を見つめていると王妃さまと私よりも少しだけ背が高い男の子がやって来ていた。

王妃さまは柔らかく微笑み、隣の男の子の背中を優しく押した。


「お会いできて嬉しく思います、エリシア嬢。パーシブル=エドモンドです」


はにかんだように笑う男の子は、私が焦がれたエドモンドさまだった。金色の髪と翡翠の瞳は今まで出会った人の中でもいちばんに美しかった。


「私もお会いできて光栄です、エドモンドさま」


緊張して声が小さくなってしまったが、エドモンドさまにはしっかり届いたようで、ええ、と微笑んでくださった。

そこでやっと私は、会場の人たちの視線が私たちに集まっていることに気がついた。


「あれが、時期王妃さまとなられるスペンサー家のエリシアさま」「エドモンドさまとエリシアさまが並ぶとまるでお人形のよう」「エリシアさまにはもう既に気品がありますわね」


全て私たちを評価するものだった。その後、パーティーが終わるまで名のある貴族たちが揃って私の元へ挨拶に来て、私に称賛の言葉を残していった。あまりのその言葉の数々に私はただ驚き、一言の感謝を述べることしかできなかったが、隣にいる母は自慢気に胸を張っていたのを覚えている。


やっと落ち着いた帰りの馬車の中で私は今日のことを振り返った。

あんなにも大勢の人々に囲まれ褒められたことはなかったし、注目されたこともなかった。私は特別な存在であるという優越感がとても心地いい。もし、王妃になった時は今回以上の優越感に浸れる。それに、パーティーの時だけでなく常に人々の注目の的であり続けられる。私はその権利を持っているという事実が私の心に更に大きな自信を与えた。


あのパーティー以来、勉強が本格的になってきた。そんな時、母が女の子を産んだ。私にも妹ができたのだと喜んだが、妹にはそれから何日しても会えなかった。

使用人のリリィに聞いても、悲しそうな顔をして大丈夫だ、としか言わない。幼い私の頭ではそれについて深く考えたりすることはできなかった。


それから数日がたったが、以前、妹には会えなかった。その代わり、母と久しぶりに会うことができた。


「お母さまっ、お母さまっ!今日は、ルーカス先生とお兄さまがほめてくださいました!」


そう言うといつもは、偉いわ流石だわ、と頭を撫でてくれるのに今日はいくら待っても撫でてはくれなかった。その代わり、肩を強く掴まれ何を恨んでいるのか憎しみのこもった目で私に迫った。

見たこともない母の姿に思わず後ずさりしてしまうが、掴まれた肩が離されることはなく、虚げに母は言った。


「エリシアちゃん、貴女はもう王妃にはなれないの。だから、勉強なんか必要ないの」


私の反応を待たずまくし立てるように母は続ける。


「貴女の妹が王妃になるの。もう決まったの。」


突然のことに意味が理解できない。だが、母の怖い顔とリリィのすすり泣く声が聞こえてようやく漠然と理解した。

私は王妃にはなれない。

今までのことが、全てひっくり返されたようで呆然とした。


「エリシアちゃん、貴女は王妃にはなれないのよ、可哀想なエリシアちゃん、まだ6歳なのに、大丈夫よ、お母様が守ってあげるからね。もう嫌いなお勉強もしなくていいの、貴女はただ綺麗なドレスを着て、何も知らず笑っていればいいのよ、エリシアちゃん、エリシアちゃん」


狂ったように喋り出す母をリリィが私から離した。

どうして。それだけだった。何故、いきなりそんなことになってしまったのか。もうあの人々の注目の的ではいられないのか。ぐるぐると感情がまわる。母の喚く声などその時の私には聞こえてこなかった。


私が王妃にはなれないと決まってから、数日後、リリィがそっと私に耳打ちしてくれてた。

それは、王妃になるのは先日生まれた私の妹で、同じ日に生まれた王もいるということだった。何でも、それは神の御意志なのだとか。それにその2人は黒髪で黒い瞳を持つらしい。

神に選ばれた妹。神に選ばれなかった私。私からあの王妃という立場を奪ったのが実の妹だという事実に絶望に近い何かを感じていた。

だが、この話には続きがあった。王は以前見つかっていないというのだ。王が、いなければ王妃という立場も意味をなさない。私にもまだチャンスはあったのだ。


妹が生まれてから、母はおかしくなってしまった。 王が見つからないせいで母は呪いの子を生んだとされ、社交場に顔を出すとヒソヒソと陰口をたたかれる。それに耐えられなくなった母は、ついには屋敷から出なくなってしまった。それは、妹が生まれた日から11年経ってもだ。時は母を癒すには無力だった。

母は、私が王妃になれなくなってしまったのは、自分のせいだと負い目を感じているのか、元々甘かった母は更に私を甘やかした。どんな無理な我儘を言っても必ず叶えてくれた。そのおかげで、私の部屋には貴重な宝石や数えきれないほどのドレスと靴で埋め尽くされていた。そんな私と母を見る、兄や数人の使用人の目が冷めていたことも気づいていた。だが、我儘をやめることはできなかった。それが、ただの我儘なのか母の罪を償わせてあげるための我儘なのかはよく分からなかった。


あれから、11年がたったある日、妹がこの屋敷に来ることになった。見つかっていなかった王の行方が分かった為だという。


妹は話に聞いていた通り、黒髪で黒い瞳を持っていた。使用人たちは、初めて見る黒の美しさに息をのんだが、私は妹をみてただ、恨めしいという感情しか抱けなかった。それは母も同じようで妹に対してはひどく冷たく接していた。


夕食での妹はそわそわと辺りを見回し、おどおどしていた。それに、魔力だってあまり感じられない。そんな様子で、王妃になれるのか。妹をみていると腹が立って仕方がない。たまに目があった時も、期待を向けてくるものだから呆れてしまう。多分、この子は何も知らずに育ってきたのだろう。傷つくこともなく守られて王妃になる。それは、どんなに幸せなことだろう。

生まれてきたことが罪とは妹のことをいうのではないだろうか、とぼんやり沈思した。


行方が分かったといわれていた王はどうやらまだ見つけることができないらしく、妹は思っていたよりも長く屋敷に滞在した。その間、やはり私と母の妹に対する態度は日に日に冷たくなっていったが、反対に兄は甲斐甲斐しく妹の面倒をみて、深く愛した。

私から一つ一つ奪っていく妹に何かあるたびに突っかかり、酷い言葉を何度も浴びせた。その度に、言い返さず堪えるように俯く姿にも腹が立っていた。まるで、私は絵本に出てくる意地悪な悪役のお姉さまだ。

憎い。何も知らずに生きるこの子が。憎い。私を冷めた目で見る兄が。憎い。美しくて弱い母が。憎い。私を選んでくれなかった神が。


*****


王城の広い庭の先にはひっそりと佇む東屋がある。

そこに、凛とした後ろ姿の女性がひとり。優雅にお茶を楽しんでいた。その女性のもつ流れるような黒髪はいつみても美しかった。


「おひとりですか、殿下」


微笑みの貴公子と令嬢たちの間で噂されるこの笑みも彼女には通用しない。姉の方は通用したというのに、この姉妹はつくづく似ていない。


「あら、エドモンドさま。いらしていたのですね」


「ええ。まったく、閣下は人使いが荒く毎日、王城と屋敷の往復ですよ」


「ふふ、閣下がエドモンドさまは優秀な方だと仰られていましたもの」


顔では笑っているが、彼女は決して人に隙を見せることはなく、いつも一線を置く。

そんな彼女の態度に悪戯心が騒いだ。


「エリシアは元気ですよ」


一瞬、目を見開き驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み、そうですか、とだけ返された。


「ずっと会っていないのではないですか?失礼なことを申し上げますが、殿下の甥も、もう2歳ですから、どうぞ会ってやってください」


「ふふ、私も可愛い甥に会いたくてしかたがないですわ。」


「殿下にそう思って頂けるなんて光栄ですあの子も。」


談笑しながら、彼女を最も憎む妻の顔が浮かんだ。

この姉妹の仲の悪さは貴族たちの間では有名だ。いや、仲が悪いなんて言葉で済まされるようなものではない。エリシアは彼女によって、人生が大きく変わってしまった。勿論、自分も例に漏れずだが。そして、彼女もまたエリシアによって荒んだ時代を送っていた。

互いに不幸だと思う。誰のせいかと問われれば神の御意志のせいだ。だが、そんなことを呟いてはどんな罰が下されるかわからないから胸の内でしか思わない。きっと、こう思っているのは自分だけではないはずだ。

神の御意志によって、2人がどれほど傷つき、苦しんだことか。自分も彼女を恨んだことはあった。だが、どんな時も気丈に振る舞う姿やその胸中を思うと恨みなど持てるはずがなかった。


「もう、日が沈みますわね」


ぽつりと呟かれた一言に我にかえった。

見ると、太陽がどっぷりと浸かってしまいそうでオレンジ色の光を放っていた。


「長居を失礼いたしました、殿下」


「いえ、久しぶりにお話できて楽しかったです。ぜひ、次回来る時は甥に会わせてください。約束ですからね」


振り向いた彼女の笑みは今までと違い、悪戯を思いついたような悪い顔だった。

エリシアにばれずに息子をこの城に連れてくるなんて不可能だ。もし、連れてこれたとしてもきっと後々にバレて彼女に会わせたことを憤怒するに違いない。

その憤怒を分かっていて、彼女は約束を迫った。王妃との約束を違える訳にはいかない。

次、この城に来るのは明後日だ。それまでにどうにか息子を連れ去る方法を考えねば。

自分が先ほど仕掛けたちょっとした、意地悪を心底後悔した。

そんな私の心を見透かしたように彼女は自慢の黒髪を払い、子どものように笑った。


こういう、笑い方はエリシアにそっくりで思わず苦笑してしまう。


「殿下」


「はい」


「エリシアは貴女をひどく憎んでいる。今も。」


今更何を、といった顔をした彼女はすぐにその意味を理解したのかうっとりと微笑んだ。


「痛いのは嫌だ、と伝えてくださいませ。」


つくづく喰えない方だ。折角の忠告も簡単に流してしまう。そんな様子ではいつ、暗殺されてもおかしくはない。


3週間後に控えるあの人たちの命日が近づいた最近、エリシアが何やら怪しげな薬を他国から仕入れたことは使用人から報告されていた。

何に使うのかは、だいたい見当がつく。そんなことをしては我が家は身分を奪われてしまうだろう。だが自分にあの狂った妻を止める力なんてない。それに、歴史あるパーシブル家を潰してでも、この姉妹の行方を見届けたいという思いもある。爆発寸前の妻に油を注ぐように明後日は息子を彼女に会わせる。その結果がどんなことになるかなんて簡単に想像つく。相当、自分も狂っているな、と感じながら、城を後にした。

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