君と歩む道
まぶしい朝日がはいってきて、目を開ける
となりのベットでリルがまだ眠っていた
気持ちよさそうに寝ていて安心して頭を撫でた
「お婆ちゃん…」
微笑んでリルはそう言った
この子に何があったかわからないが、一人ぼっち寂しさにおぼれていた自分とかさなってならない
どうしても放っておけなかった
「リル、起きて、もう朝だよ」
そう言うと目がゆっくり開いて、眠そうに目を擦って起き上がった
「おはよう、お姉ちゃん」
「おはよう、今日はリルの服と売り物の服を作るからね」
「お姉ちゃんは服を作る人なの?」
「そうだよ、だからリルに素敵なお洋服作ってあげる」
「ありがと!」
リルがガバっと私に抱き着いてくる
昨日私に抱きしめられたのが安心したのか、ハグが好きになったのか…
私の顔色も窺わなくなってきて、本来のリルが見えてきた
「じゃあ、リルにお願いしていいかな?」
「うん!」
「あそこのニワトリさん、いつも寝起きが悪くて、困ってるの」
「リルの可愛い笑顔で起こしてきてもらえるかな」
「うん!わかった」
キラキラとした笑顔がまぶしい
なんだかんだ、バーちゃんを起こすのが一番大変だ
私は荷造りのときにバーちゃんに小さくしてもらったミシンを魔法の本を見ながら大きくした
ミシンを部屋の机に置く
うん、いい感じだ
イスに座って、紙袋からいくつか布をひっぱりだす
ううん…リルに何色が似合うだろう…
何色にしようか悩んでいたら、なにやら笑い声が聞こえてきた
「ひゃっうっははは」
「ニワトリさんー、起きてー」
「うひゃあはは、もう起きてますからっひゃはは」
リルがバーちゃんをくすぐっていた
その手があったか…
賢いな…
「お姉ちゃんー!ニワトリさん起こしたよー」
リルが走ってよってくる
「うん、リルは偉いねー、私にその手は思いつかなかったよ」
「ありがと!」
笑顔が可愛い…
「日奈美さん……」
バーちゃんがジリっと睨んできた気がするけど無視した
「リルは何が好き?あと何色が好き?」
「僕、鳥さんが好き、あんなに広くて、高い空で飛んでいるの気持ちよさそうー」
「空も好き!だから青と白が好き!」
「いいね」
「バーちゃん、服の色にいいと思わない?」
バーちゃんに意見というか同意を求めた
「そうですねー目や髪の色にあっていると思います」
私もそう思った
茶髪に青い目のリルに目の色と同じ青も似合うし、白もバッチリ似合う
「決-めた」
「だいだい想像できましたか?」
「うん」
私は袋から、小さい本を大きくして、取り出した
[君と歩む道]
小さい頃両親によく読んでもらった本だ
「これ、リルに読んであげて」
バーちゃんに渡す
「わかりました」
「リル、今から私の大切な本の物語をニワトリさんが読んでくれるから」
「うん!」
「本は好き?」
「うん、お婆ちゃんもよく僕に読んでくれた」
リルの顔が一瞬曇った
「そう、ならよかった」
この本は誰にも見せないと思ってたんだけどな
まさか見せる日がくるなんて
何がおきるかわからない
バーちゃんとリルがベットにいった
さて、私も作業を進めないと
私は手を動かしながら[君と歩む道]の話を思い出していた
主人公は普通の家の男の子だった
ある日主人公は寝つきが悪くベットから出て、リビングにいった
そこで両親が焦ったような様子で話しをしている
あまりにも空気が重くて、主人公はリビングに入れず、耳を傾けて話を聞いた
そこで聞いたのは、「あの子は血のつながった子ではない、最初から売り出す予定だったろ」
そこにいたのは、主人公の知るお母さん、お父さんではなかった
いつも優しくしてくれた両親はいつ売り出すか話し合ってたのだ
主人公は家を出る
傷つけられた心はボロボロになって、悪の道にはしる
金のためによってくる相手に容赦しなくなった、人を傷つけるようになった
しばらくそんな生活を過ごしていると、一人の女が現れた
こんな自分に近づく女は金目当てだと、その女を殴った
その女は殴っても懲りずに主人公に近づいた
その女は笑いながら言った
「なんでそんなに悲しい顔してるの?涙がでちゃうよ?悲しいなら私が君を笑顔にしてあげる!」
ああ、コイツは違うと思った、その瞬間熱い雫が目から溢れ出た
「怖かったね、私の胸でいっぱい泣きなさい!」
その女は思い切り自分を抱きしめた
自分よりもずっと小さい背中に腕をまわし、誰かもわからないその女に安心感を感じ、子供のように泣いた
それから、主人公は悪いことをやめ、その女につけた傷を一生かけて償うこと、その女のために生きると決めた
愛する君と歩む道をこれから守っていく、君を愛している
二人は幸せに暮らすだろう
めでたし、めでたし
母さんがなぜこの本を選んだかいまいち分からない
というか、母さんが何を考えているかわからなかった、いつもいきなり事を進めるものだから
「日奈美ーこの本は魔法の本なのよー、ひなみが困ったときに役に立つようにお母さんの愛をいっぱいいれたからね」
そう言いながら、満面の笑みで笑っていた気がする
ほんとに明るい人だった、思い出す母さんは笑顔の母さんばかりだ
「あ”あぁ、終わったあー」
売り物の服とリルの服ができた
さすがに疲れる
ベットの方を見てみると本は読み終わったのか、二人はカードゲームをしている
「リルー、できたよー」
リルを呼ぶと、まぶしい笑顔をこちらに向ける
「んー、サイズ合ってるか確かめたいから、着て見てくれる?」
「うん!ありがと、お姉ちゃん」
こんなに喜んでもらえるなら、いくらでも作れる
「着たよ!」
「おお、すごいですね、ぴったりですね!」
「うん、よく似合ってる」
トップスは形にこだわったシンプルな白Tシャツ、胸にポケットがついている
ボトムスは紺色の動きやすいふくらはぎまでの丈のズボン
「最後にこれね」
リルの目と同じ色の石をうめこんだネックレスを作った
白いトップスによく合う
リルが申し訳なさそうな顔をした
「僕だけいいの?こんなに…」
「いいの、私がしたくて勝手にやってるんだから」
「うん…」
「あ、バーちゃんにも作ったんだよ、これ」
「ほんとですか!?ありがとうございます」
「って靴下ですか!?器用ですね!」
「鳥の足の靴下は作ったことがなかったけど、まあまあ上手くできたと思う」
鳥の靴下を作ったことがないなんて当たり前だけど
これでまた経験が増えたのか?
「リル、本はどうだった?」
「最初は悲しかったけど、最後は愛する人を見つけて、よかった」
「なるほど、やっぱりリルはわかってるねー」
どうしよう、この子私の子にしたい
まだ私は母親という年齢ではないけど
今日は売り物とリルのファッションショーで終わった
「お姉ちゃん、僕…」
リルが私の服の裾を引っ張っていた
顔を歪め、口から言葉を無理やり出そうとしていた
「リル言いたくないなら、無理に言わなくていいんだよ」
「でもっ…」
「落ち着いたら、話したい時に話して」
「わかった…」
こんな子供でもいろいろ胸に抱えて、いろいろ考えて生きている
この子だけじゃないだろうけど、今目の前にいるリルの不安が少しでもなくなればいい
その日は震える小さな体を抱きしめて眠った