涙の熱
久良町メインストリート
「おお…にぎやか」
やっぱり、南の人は明るい人が多い
「本当ですね…」
商売をしている人たちの活気あふれる声に自分の声が小さく聞こえる
「あそこの宿じゃない?」
「え、えーっと、アクマリンってとこです」
目がいいから、ニワトリよりかは見えた
「あそこだ、行こう」
アットホームな木の宿があった
うん…いい感じ
「こんにちわー」
「はーい」
元気のよさそうなおばさんがでてきた
「五日泊まりたいんですが、広めの一人部屋にダブルベット空いてますか?」
「空いてるよ、お姉ちゃん観光かい?」
そうだったここは綺麗な山があったんだった
「はい、まあ、そんなとこです」
「楽しんでってね、はいこれ鍵、お姉ちゃんの部屋二階だから窓あけたら風と光入ってくるから」
おばさんがキラキラと笑う
「ありがとうございます」
おじぎをする
「なんか困ったことあったら言ってね」
「はい」
少し狭い階段をのぼっていくと一つドアがあった
どうやら二階はこの部屋だけのようだ
開けて入ると木の床を踏むのが心地いいログハウスのような部屋だった
「バーちゃんでてきていいよ」
「ぷはッ…」
やっぱりニワトリの姿は不審に見えるから、バーちゃんには隠れてもらった
「大丈夫?苦しかったでしょ?」
「これぐらいなら大丈夫です!」
「そう?」
絶対苦しかったでしょ
「バーちゃん、これから食材とか買ってこようと思うんだけど、お金とかも足りなくなってくると思うんだ」
「だから、布とかフリル、ボタンとかあとチェーンとか買ってきていいかな?」
「はい、いいですけど、どうしてそういうものを買うんですか?」
「服やアクセサリーを作るの、子供用なら少し手間がかかるけど、布が少なくてすむし、凝ったデザインなら高く売れるし、女の子の食いつきもいいから」
「優秀ですねえ…」
「ありがと、すぐ帰ってくるからバーちゃんはお留守番ね」
「すいません、何もできなくて」
せめてもっといてもおかしくないような動物に…
「いいの」
「でもニワトリじゃ不便だし、猫とか犬になってみるのは?」
「そうですね!待っている間少し練習してみます!」
「わかった、あとで山に入るからそのときはついてきてね」
「はい!」
チリンチリン
「「いらっしゃいませー」」
おお、さすが商業が盛んなだけあってデザインが豊富だ
自分がいた田舎の星河町とは比べものにならない
じっくり見て、服の材料とアクセサリーの材料をたくさん買った
その後食材も買って宿に戻った
「ただいまー」
「おかえりー」
ニワトリに言われる日がくるとは
「!?たくさん買いましたね!?」
「うん、これでお金にはしばらく困らないでしょ」
「ぜんぶ売れる保証があるんですか?」
バーちゃんが心配そうに布をみる
「少しね、固定のファンがいるし」
「服を売り始めてからしばらくたった日、中央都市の貴族が観光で星河町にきたとき私の服を気に入って全部買ってくれたの」
「そこから、評判が広まっていって、値段も幅広くしてみたら、いつのまにか隠れたブランドになってた」
「もし、売れなくても中央都市の貴族の奥様方に売ればいいだろうし」
貴族の奥様なんて服が何着あっても困らないだろう
金持ちの考えることはわからない
「すごいですね…ここまでいくともはや才能ですね…」
「まあ、小さい頃から作ってるからね」
これしかなかったのだ
才能というより経験値が高いだけだと思う
「バーちゃん、次は山に入ってここの山にしかはえていないナツメグリユリをとりたいんだけど、たくさんはえてないから見つけるの難しいんだ」
「それで、山についたあとバーちゃんにナツメグリユリの匂いを私のところに引っ張ってきてほしいの」
「ナツメグリって…香りでやられるじゃないですか!?」
ナツメグリユリは毒がある
植物だが、香りで人を惑わし、毒を飲んで倒れた人を食らう
「大丈夫だよ、私に毒は効かない」
「ああ…そうでした、あなたは佐々木の人間でしたね」
佐々木家は大昔から薬草学を研究をしていた
そのせいか佐々木の人間には毒に対して特殊な免疫がある
そして、どういうものか判別するための嗅覚もあった
白衣のお父さんが目に浮かぶ
「それじゃあ、行こうか、山にいくまでリュックね」
「う、わかりました」
バーちゃんをリュックにいれて、宿を出る
「あれ?お姉ちゃんどこにいくの?」
「山に綺麗な景色を見に行こうと思って」
「そうなの?気を付けていってらっしゃい」
「はい、いってきます」
チャリン
ドアのベルが鳴る
「バーちゃん、走るよ」
「え?は、はい」
できるだけ人目は避けたい
「うわあああああああ!!揺れま、すよ!」
意味なかったかも…
「着いたよー」
「ちょっと気持ち悪いです…」
「大丈夫?」
やっぱり、久良町の山は観光スポットだけあって綺麗に整備されていた
綺麗な超が私の周りをふわふわと飛んでいる
「準備オーケー?」
「はい…」
まだ気持ち悪いのかぐったりしたままバーちゃんが魔法をかける
ヒュンッ
しばらくすると…変わった甘い香りがふわっと鼻をかすめた
ああ…これだ、嗅ぐと気持ち悪くなるような甘さと酔わせるようななんともいえない香りがする
「わかりますか?」
「うん…こっち」
匂いをたどっていく
整備されていない細い道を草をかき分けてはいっていく
しばらく、歩くとひらけた場所にでた
男の子が立っていた
そのとなりには薄紫の花からシャボン玉のようなピンクの泡が空にぷかぷか浮いていた
とてつもなく嫌な予感がする…
「バーちゃん、その子毒にやられてるから」
「はい、気を付けます」
ゆらゆらと下を向いていた頭がいきなり起きた
「ッ!?…」
「お姉ちゃんにニワトリさんどうしたの?」
くりくりとした目で満面の笑みをうかべる
「ふう…日奈美さん普通の男の子じゃないですか…」
そう言ってバーちゃんは男の子に近づいていく
「ダメ!!!!」
「え?」
男の子が消えて、バーちゃんの目の前に一瞬で現れる
「ねえ…食べてもいいよねえ?」
そこにいたのは笑顔が可愛い男の子ではなかった
狂気にみちた顔で笑う恐ろしい”何か”だった
ポケットからナイフをとりだしている
ヤバッ…
ガシュッッ!
赤い血が自分の頬にとんだ
「日奈美さん!!?」
刺されたのは私だった
「まだ近づかないで!!!次はあなたがやられるでしょ!!!」
バーちゃんは恐怖に怯えた顔をしていた
大丈夫…死なないって父さんと約束したんだから
幸い、刺されたのは腕だったからそこまで…でも時間がない
「バーちゃん、その子魔法で抑えてて!!」
「は、はい!」
素早く花の根元を切ったら…
「お姉ちゃん…まだおいていけないよ…」
「日奈美まだあなたをおいていけない…」
「ッ!?」
いきなり目から熱い何かがこぼれそうになる
ダメだ…これは幻聴だ、耳を貸してはいけない…
男の子に睡眠薬を打った
瞼が閉じてすっと眠りに落ちていく
「はぁ…はあ」
息切れしながら花に近づく
「悪さはもうやめなさい…私が大切に使ってあげるから」
ブチっ
ナツメグリユリを切った
「日奈美さん!!大丈夫ですか!?」
バーちゃんがかけよってくる
「大丈夫…」
自分の体が冷えていくのがわかる
早く止血しないと…
「リュック持ってきて」
「はい!」
ヒュンッ
水で傷口を洗い流して、包帯で圧迫して止血した
「応急処置は一応できた…なんとか大丈夫そう」
男の子をみると、痙攣していた
「バーちゃん、リュックからポーチだして!!」
「はい!」
あった…これだ
運が良かった…悪い気がするけど
薬草で作った解毒剤あった
男の子の口にいれて、無理やり飲ませる
「お願い…」
腕の痛みをわすれて男の子の手を握る
痙攣がだんだんと止まって男の子が目をあいた
「僕…なにして…」
「何があったか、覚えてる?」
「ぼ…僕…うっひぐっ…」
何か思い出したのかいきなり男の子が泣きはじめた
「つらかったね…泣いていいよ」
自分より小さな子供を引き寄せ抱きしめた
腕のなかで熱い涙が肌におちた