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カインドクロン  作者: 日和日向
5/12

私の過去


歩きながら日奈美は思った


「思ったんだけど、どこに行くの?」


「そうですね…」


決めてなかったんだ…


「でも、日奈美さんのことは調べてあるんですよ」


え?


「生きる意味を見つける…」


「日奈美さんのルーツ、過去を知る、振り返る、そうすれば自分の存在を知ることができますね」


「あ、うん」


「十年前に亡くなったご両親を覚えていますか?」


こんな質問されたのは久しぶりだ

それどころか自分の両親を覚えている人などいるのか


心に穴がじわじわ開いていく気分だ


あんなに大好きな両親が死んだとき

悲しすぎて涙がでなかった

だただた私の胸にずっと寂しさが粘りつくようにある


十年経つと不思議なことにアルバムを見ないと両親の顔が思い出せない

時は残酷だ


固まったままの私を見てバーちゃんが声をかけた


「大丈夫ですか?」


「うん…大丈夫」


歩くのをやめて

リュックをそっとおろし、袋をとりだす


「バーちゃん、暗い赤色してて、紺色と緑のチェック模様のしおりが挟んである本とれる?」


この中から何かを選んで取り出すのは難しい

数が多いし、小さいから何がなんだかわからない


「はい、手出しててくださいね」


袋の中から小さな本がでふわふわでてきて、大きくなって私の手の中におちる


「なんですか?これ?」


「これね家族のアルバムなの、ほらここに両親の写真があるでしょ?」


懐かしい…

しばらくこのアルバムを見ていなかった

両親が死んだあと、もともと家にたくさんあった本を毎日、毎日読んだ

このアルバムも本棚で見つけた

きっと、母さんが作ったんだと思う


「優しそうな人たちですね」


「優しかったよ…」


髪が黒くて目が金色で不愛想な顔をして照れているのがお父さんその隣でお父さんの腕をつかんでいるのが母さん

母さんは緩くカールのかかった栗色の長い髪をゆらして、やわらかい緑の瞳で笑っていた

両親が死ぬ理由なんてなかった

すごくいい人だったのに


最後のページをめくると鏡がはさんであった


「なんで鏡なんかはさんであるんですか」


「多分母さんの鏡だと思う」


「母さんは小物を作るのが好きだったから」


鏡をのぞくと母さんの目と同じ目が鏡にうつる

母さんを思い出す


家には母さんが作った小物でいっぱいだった

今、小さな本がたくさん入っている袋も母さんが作ったものだった

小さい私によく服を作ってくれたっけ


「ご両親の出身地、ゆかりの地、親戚、親しい友人何か知りませんか?」


「何も知らないんだよね…」


それが分かれば私だって苦労していない

両親が死んだあと、誰にも引き取られず

ひとりになった私は家にあった、薬草学や農業や服の作り方、小物の作り方の本を読んで見よう見まねで始め

独学で学び、主に薬を売り、作物、服、小物を売りさばいた

両親が残した本が私の生きる術になった


「そんなときの私です!」


自信満々でバーちゃんは言う


「ちゃんと事前に調べましたよ」


その情報はいったいどこからくるのか…


「南東の子音村にあなたのお母さん凛さんを知っているひと見つけました」


「ここからちょっと距離あるね」


「はい!だから今日は暗くなる前に南の久良町にある宿で泊まりましょう」


星河町が南寄りで助かった


「そこで五日ほど準備のために滞在しましょう」


「わかった」


目的地が決まった


「バーちゃん、行こうか」


「はい!」


また小さくなったアルバムを袋に入れて地図を取り出す

可愛らしいバーちゃんの足がリュックに近づいてくる


「はーい」


バーちゃんをだっこしてリュックに入れる


そっとリュックをかついで歩き出す





「バーちゃんからもらった本面白かったよ、今度使ってみるね」


「そうですか!喜んでもらえてよかったです!」



バーちゃんと他愛のない話をしながら道を歩いていく

いつぶりだろうか、こんなことは

なんだか懐かしい感じがする


いいかもしれないな、そう思いながら新しい明日に期待する





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