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 ――ひしひしと感じる、闇の気配。それは酷く覚えがあると同時に……辛い感覚だ。空間を震わせて――覚えのある暗い声が響く。

《闇を捨て我が敵となるか。再び我が手を取れば、その存在、保つことさえ出来るぞ》

 一度だけ、眼を閉じる。俺は――。

「俺はもう、俺にとっての本当の敵を見誤ったりしない……!」

 三人の視線を受けて、俺は闇に向かって剣を構える。 俺は、怖いのか? 自分の足元を崩す事が。剣の柄を握る手も、足も、微かに震えている。それでも、俺は――そいつの手がなければ生きられなかった自分が酷く惨めで……嫌いだった。『今』でなければ――きっと選べない。だからもう――止まらない。

『――ソラ』

「うん――行くぞ!」

 そして――全員が動いた。フィアレスとアル、二人の力が周囲の闇を蹴散らし、俺の前に道を作る。だから俺のやる事は一つだ。俺なら――奴の心臓部に飛び込める。

『例えこれがどんな結果を生もうとも』――賢者の声が聞こえた気がした。

 俺は闇を避けながら皆が作ってくれた道を辿り、中奥に飛び込むと、闇の中心、人間で言う心臓部に全力で刃を突き立てた。

――全てが白に染まる。これが『俺』が選んだ答えだ。

 闇の本体が言いようのない苦悶の声を上げて消えて行く。同時に俺を包んでいた二人の力も尽きてしまったように消えた。

 勝った……? 終わった、のか? 息をつく俺の耳に、薄れ行く闇の声が聞こえた。

《再び光に縋り、そこの奴を契約主と成せば、その姿保てるだろうな。闇が光に支配が替わるだけのこと》

 だが俺にはその気はない。繰り返したくないから、ただ沈黙を返した。

《『お前』が生きる術はとうに消えているのだからな》

『「くっ!」』

 アルとフィアレスの声が重なる。そう、悔しいけど――奴の言う通りだ。

 その時、ここにいる誰でもない、だけどどこかで聞いたことがあるような心声が響いた。

『アル! あんたまた向こう行ってんのか?』

 幼い少年らしき心声に、フィアレスとアルがハッとした様子で顔を上げる。

「この声は――」

『レック!』

 もしかして、こいつがアルの『小さな相棒』か?

 その時小さな金属音と共に、赤い、小さな破片がアルの目の前に現れた。

『これは! 火の……』

「ああ、あいつが持っていた守護石の欠片か……!」

 そう、アルとフィアレスの言う通り、それは火の守護石の欠片だった。

 二人を押しのける勢いで賢者が前に出た。

「アル、それを私に!」

 アルから石を受け取った賢者は、そのまま言葉を続ける。

「火の守護石よ、我と彼の世界をつなぎ、全ての力をここへ導け! 我はリセルの名を冠する者、全ての理(ことわり)を精算する存在なり。彼の闇との契約全てを破砕し、清算する!」

 鳥の咆哮と同時に『俺』を繋ぎ止めていた何かが弾けた。『俺』の存在自体が、急速に薄れて行く。その時、アルの必死な呼び声が聞こえた。

『ソラ!』

 アルが俺に向かって手を伸ばす。

『時空よ! 私の時空を渡る存在としての『存在』と引き替えに『ソラ』の存続を望む!』

 アルの手が、俺の手首を掴んだ。

 その瞬間、ガシッと強い力で『俺の存在』が掴まれ、引き留められたのを感じた。

「アル……」

 俺はアルから受け継いだ時空を渡る存在になった。賢者の清算により、運命の戦士の秘術で甦った人としての存在はそのままで。同時に俺からアルの実体が抜け出し、精神体に重なるように戻って行った。そう、ただの『異世界の人間』にアルは戻ってしまったのだ。それでもアルの顔に後悔は見られず、ほっとしたような穏やかな微笑みを浮かべている。

「――行きなよ、かつて見捨てた『自分』を助けに」

「えっ?」

 アルの言葉を賢者が継いだ。

「闇との契約を無効化し、新たに時空を渡る力を継いでも、それで真にお前の存在が助かった訳ではない。お前の属する時空に飛べるのはもはやお前のみ。後はお前の行動次第だ」

 俺次第?

「私は……二人を元の世界に送った後ここに残る。相棒と共にこの時空の狭間に」

「リセルさん?」

 賢者の急な言葉にアルが驚いたように振り返る。

「我が相棒は完全に消滅した訳ではない。私の存在を共にすれば、いつか再び、どこかの時空が運命の戦士を喚ぶような事態が起きた時に、復活出来る可能性がある。だから私は……その時までここで眠りにつく。異世界の存在を喚ぶ事態が起こるのを望まなければならないのは、心苦しいのだが」

「でも……いつか、きっと来ると思う」

 アルの真剣な眼差しを受け止めて、賢者もそれを肯定した。

「ああ、再びまみえるかも知れぬ、その時まで」

 フィアレスが俺の背中を押すように口を開いた。

「お前はいいから行け。俺がお前を殺したくなる前にな。お前が『宙』を継ぐ存在ならば」

「……そう言えば、あんたは最初から、俺をそう呼んだな」

「お前がアルだったとしても、俺は驚かん。だが、違う世界の気配が判らない程、鈍くは無い」

「そっか」

 俺は微かに微笑ってうなずき、三人に向かって告げる。

「――忘れないよ。敵として戦ったことも、味方として戦ったことも全部」

――そう、今だから――飛べる。


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