吉野君と斉藤君の語り部屋・その1。
登場人物の心情描写・心理描写はあえて入れてません。
吉野と斉藤の語り部屋・その1。
とある喫茶店での一時。
「なぁ吉野。生きる意味なってなんだと思う?」
「何だよやぶから棒に。しかも生きる意味だと?」
「まぁ良いじゃん。いつものように答えてくれよ」
「んーそうだなぁ、どの生物でも子孫繁栄の為じゃないか?」
「僕も子孫繁栄ってのは間違いないと考えている。だったら吉野、お前個人としての生きる意味って何だ? 何かあるか?」
「俺の生きる意味? んー難しいこと聞くなぁ……恋愛して、SEXして、趣味に時間を費やしたりして楽しむ為と言うか、結婚して子供作って老後を楽しむと言うか、そんなところ? と言うか、これだと意味ではなく目的だな」
「この際、生きる意味も目的も同じ意味さ。なるほど。まぁ普通の人間はそうだろうな」
「普通って……だったら斉藤、お前の考えている生きる意味って何なんだ?」
「僕か? 僕もお前と同じ考えだよ」
「おまっ、俺と同じかよ。ふーん。だったら何故俺にそんなこと聞いたんだ? いつものように何かの確認の為か?」
「まぁな。少し僕以外の考えも聞いて確認してみたかった」
「生きる意味をってことをか……。で、その心は?」
「もしかして、この世で生きることに意味があったとしても、死ぬことには意味がないのではないかと考えてる」
「はっ、相変わらずぶっ飛んだ考え方だな。死ぬ意味がないか……。その根拠は?」
「根拠か……。根拠の前に一つお前に聞きたい。吉野が考えるは死ぬ意味とは?」
「死ぬ意味だと? また極端なことを聞く奴だな。そうだな、それは細胞分裂の限界が来て、細胞が老化現象と呼ばれる現象を起こして死ぬからだろ?」
「細胞分裂の限界……それはただの結果だろ? 死ぬ意味の直接的な理由ではない」
「まぁ言われたらそうだけど……、だったら増えすぎるから淘汰されるって事か?」
「それもただの結果だろ? 自然淘汰以外で、よっぽどのことがない限り誰だって死にたくないと思うのが普通じゃないか? もちろん例外はあるだろうがな」
「そりゃそうだとは思うが……だが、死ぬことに意味が無いとなると、色々問題が出てこないか? エネルギー問題や土地の問題なんかが問題になってくると思うが……特に犯罪者の扱いとか」
「人はその気になれば人さえ食える生き物。実際カニバルと言うのは存在するからな。食料と言う点で見れば人もまた食料と言うことになる。それに土地に関してはまだまだ余剰はある。その気になれば人は海の上にだって都市を建設できる」
「まぁ、仮に土地問題はそれで解決できるとして、食糧問題で共食いって答えはな……」
「実際問題、食糧問題はこれが一番の解決方法だと考えている。仮に人が死ななくなった場合の間引きとしても有効じゃないか? それに、好き勝手食料にする人を選ぶのではなく、ある年齢以上の犯罪者だけが食料にされる……これだったら一石二鳥だろ?」
「相変わらずの極論だな。人権や倫理的観念から問題だらけだが……、ようするに共食い以外で人は死なないって事になるのか?」
「極論すればそういうことになるな。まぁ他にも考えはあるがな」
「はぁ……倫理的観念からすればアウトだろうが、解決策としてはギリギリセーフってところか……でも色々問題は山済みだがな。で、他の考えとは?」
「生まれ変わりだ」
「なるほど。それだと今のような寿命があり、そしていつか死ぬが、同じ記憶を持った人が生まれてくるってところか?」
「まぁそんなところだ」
「そっちのほうが人道的な考えではあるし、賛成もできるな」
「人の意に介することのできない全ての外的要因の死に対しての事象を取り除いた場合、人は自然に生きる道を選び、一部例外を除き、人は自ら死を選ぶことはないだろう。故に、死ぬ意味はないということになる。人はすべからく生きる道を選ぶと言うことだ」
「死に対して人の意思がどうあろうと、意味が無いと言う事になるわけか……」
「全ての問題が解決できるならば、人間には結果として死が付きまとうと言うことだけになる。では、死と言うのは何だ? どういう意味だ?」
「んー、死ぬ意味……生物にとっての死ぬ意味か、その個に対しての死ぬ意味……」
「死にたいと願う奴などいない。もちろん、虐めや迫害を受けて傷つけられた人間は死にたくなるだろう。この世に絶望した人間もだな」
「だったら限りある資源を守る為か?」
「それは先ほども言ったただの結果であり、後付だ。だが、限りある資源と言うものさしで人を見たら、今の人間もまた、限りある資源を使って生きていると言うわけだがな」
「まぁな。人を構成する物質にも限界はあるわな」
「限界はあるとはいえ、物質と言う概念は0(ゼロ)にはならないが、0(ゼロ)に近い状態にはなる。人もまた違う形の物質になるだけだ」
「そうだな。物質は原子や分子まで分解されても最終的には違う形の物質として残るわな」
「だが話を戻そう。人としての物質には何故終わりがある? その終わりの指す意味は何だ? 不要な物を削り落とし、そこに残った物が本当の答えになる。死ななければ、全ての伝承や継承は守られ、偉人たちは世界の常識を変え続けてくれる。そしてお前が愛する者や、愛すべき世界を守り続けることができる。そして学者たちは死に対して考え続け、答えを見つけるはずだ」
「まぁな。死ななければそうなるわな。んー斉藤にとって、物質的な死と言うのは本当の死では無いと言う事になるのか?」
「考え方によってはそうともいえるが、根本的に違うともいえる。物質の死ではく、人としての死だからな。人の意思で生きると言う意味は、意味として大いに意味がある。だが、死ぬと言うことには何も意味が無いと思わないか?」
「こじつけっぽい感じもするが、意味として考えれば死に対しては何も意味はないな」
「だが人は死ぬ……そこに何らかの意味があり、俺は誰かの思惑を感じる」
「思惑ねぇ」
「なぁ、吉野。お前はあからさまな制約が人には多すぎると思わないか?」
「それは社会的ルール以外での制約って事か?」
「あぁそうだ。生きるための制約ってことだ」
「そう言った進化を遂げたと言うことだろうと言えばそれまでだが……」
「逆に、俺の思う進化も遂げれた可能性はないか? お前はそう思わないか?」
「人が死なない進化って事か……? 突拍子もない考えだが、確率としてその可能性は0ではなかったんだよな」
「人類がこのような進化を遂げることが誰かには分かっていた……いや、そのような進化を遂げさせられたとも言える。僕たちが見てる常識と言うのは一体なんだ? 誰が決めた? 誰も死を望んでいないのに何故死と言う概念が存在する? それを決めたのは一体誰だ?」
「だ、誰だよ……?」
「神だ」
「……神か」
「と言いたいところだが、宇宙人だと僕は睨んでいる」
「また突拍子も無い案だな! あれか? よく聞く胡散臭い話のあれか? 地球は宇宙人による実験場ってやつだろ?」
「プロジェクトU……」
「プロジェクトU? 突然なんだよ」
「ただ今をもってプロジェクトUを発動する!」
「だからプロジェクトUってなんだよ」
「プロジェクトUって言ったらプロジェクトUだろ?」
「プロジェクトUのUってなんだよ」
「UはuniverseのUでもあり、unidentifiedのUでもある」
「あ、あぁそうだな。そうだろうな……」
「これは、未知を探そう! プロジェクトなのだよ吉野助手」
「未知を探そうプロジェクト? っていつの間にか俺はお前の助手かよ」
「この世界は未知で溢れている!」
「おまっ、その台詞パクリじゃね? どこぞのハンターじゃね? どこぞのEじゃね?」
「イノベーションであり、オマージュだ。もしくはリスペクトとも言うな」
「物は言い様だな。で、実際問題どうすんだ? 宇宙人を探すってか?」
「あぁ、宇宙人が我等人類の歴史に介入したと言う事実を突き止め、何故死が僕たちに必要なのかも突き止める!」
「一般人の俺たちに何ができる? それに俺たちまだ学生だぜ?」
「居ないという証明ができれば、居るということに繋がる」
「まぁそうだけどさぁ……。じゃぁさ、死についてはどう調べるんだよ?」
「この事実を確認する為には誰かが死ぬしか方法がない」
「だよな……」
「と言うわけで、吉野助手。僕の検証のために一つ死んでくれないか?」
「なっ!? いやだよばかっ!! お前が死ねっ!!」
「えぇー、いいじゃんかよー親友だろ? 親友の為に命の一つや二つ掛けてくれよっ」
「ばーか、ばーかっ! ばぁぁかっ!!」
続く。続く。おそらく続く。