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テントの中で

新学期開始のため、遅くなりました、すみません!


 テントにつくとアインスは古ぼけたコップに水をくみエクレとクレインに渡し、どこからか取り出した安っぽいお菓子を缶ごと出しクレインに渡す。テーブルなんぞここにはないのでクレインの膝がテーブル代わりだ。


「本当にたいしたおもてなしも出来ませんで……申し訳ない。何しろお茶なんて高級品、闘技場のしがない一兵のテントにはないもので。」

「そんなこと構いません。普段から正教徒として節制を心がけている身です。寧ろクッキーまで出していただいて……ありがたいです。ですが本当にお気遣いなく。私は今ただのエクレです。貴方が今アインスがただのアインスであるように……。」

「エクレさん……」


 背後にバラでも咲きそうなお嬢様と執事のような会話を横目に見ながらクレインは訴える。


「おーいお二人さん、良い雰囲気出してないで話先に進めてくれよ。早くしないとヤバイだろ。誰か呼びに来たらエクレのことどう説明すんだよ。」


 すでに飽きているクレインが早くしてくれとばかりにつまらなそうにガリガリクッキーをむさぼり食う。ただでさえ手にいれることが難しい貴重品をむげに扱われたアインス仕方なしに場の雰囲気を切り替えるようにコホンと一つ咳払いをする。


「では、何から話し始めましょうか……そうですね、自己紹介からでしょうか。私の名前はアインスといいます、そしてここでだらけている黒髪長髪の男がクレイン。18にもなるのに身長が170無いのが最近の悩みだそうです。」

「おいコラアインス! てめえ俺の身長は今関係ないだろ! それよりも早くしてくれよ。疲れたんだ、早く寝たい。」


 ボロい二段ベッドの上段にはしごも使わずに飛び乗り横になる。衝撃でギシリと軋むがクレインは全く気にしない。


「もう横になってるじゃ……はいはい、わかりましたよ、では始めますか。」

 そう言って語りだそうとしたアインスの耳元に近づき、こそこそと質問するクレイン。


「良いのか? エクレも一緒だぞ? 頭を使うことはアインスに任せてるけど、ばれたら不味いんじゃないのか?」


「ご心配なく。むしろばらさなくてはならないでしょう。彼女は恐らく第三王女、エクレーム・メィル・フォン・エンハンブレ様でしょう。そうですよね、エクレさん?」


「ええ、そうです。私の名前はエクレーム・メィル・フォン・エンハンブレ。エンハンブレ王国第三王女です。最も今そんなことは関係ないですね。私はそもそも王位継承権は持っていますが、今のところ私女王なんてなれるはずありませんし、なる気もありません。ただ治癒術が人より少しばかり優れている為に正教会の方々に祭り上げられてしまっている愚鈍な傀儡です。それよりも、私の質問にまだ答えてもらっていません。アインス、貴方は……」


 言いかけた言葉を手で制すと、「まずは現状確認から参りましょう。」と冷静に言い放つ。


 どうやらアインスは調子が戻ってきたようだ。いつものようにクィっと眼鏡をおしやると水を一口飲んでから冷静な声で語りだす。


「まずは現状確認ですね。王国内では現在あなた様が行方不明、もしくは死亡したと考えられているようです。お陰で第四王女派が急激に力を付けている様子です。国王様は病状が悪化したようで面会禁止となっていますが紛れもなくエリザベーティア王女の魔導師による呪術でしょう。第一王子の派閥にはそんなことできる人が技術的にもいませんし、何より王子が許しません。あの方は潔白ですからね……。他にも問題がいくつか起きているようです。スラムで連続誘拐事件が起きています。今のところ騎士連盟が警備を強化していますが……恐らく騎士連盟にどうこう出来る問題ではないでしょう。手紙に書いてあるやり口から"影潜水(シャドウスイミング)"を使ってきていると思われます。闇系統の第三魔術であるこれは使い手が限られており、上級の域に達するものでなければ使えません。犯人を特定するのが簡単かと思われますが、これには条件が……聞いてますか、クレイン君。」


 いつのまにかコクリコクリと船をこいでいたクレインをめざとく見つけると、まるで先生のような口調で叱る。


「だって俺頭悪いし。長い話聞きたくないし。結論から言ってくれ、何をすれば良い? エクレはこれからどうすれば良い? 参謀さん、早く早く策を授けてくれ。久しぶりに暴れられそうなにおいがプンプンするしな!」


 両の拳をぶつけ合わせ、気合いをいれる。潜入任務で力を抑え続けていたというのも有るのだろう。今までと見違えるような輝いた顔つきに変わっている。


「では……これからエクレが城に帰るのが良策と言えません。また、素性の知れないラブロのところに居続けるのも良くはない。ラブロの屋敷に王宮魔導師筆頭の“天体のプリエール”が入っていくことが何度もありました。恐らく繋がりがあります。一旦潜入任務を放棄し、城下町のギルド本部へ。アルフェリオからの連絡をそこで待つことにして、次の行動を決めます。姫さ……、エクレの質問はそこでこたえましょう……なにかご質問は? 無いようですね。夜になったら作戦開始です。」


 空気がピリピリとはりつめ、緊張感が漂う。

今はだいたい2時くらい……これから夜まで早くて4時間。作戦決行までまだかなりある。


「よっしわかった。とりあえず俺は食堂まで行ってちょっと食べもんもらってくる。アインス、お前重病人な。テントの中で寝とけ。じゃあ行ってくる。」


 パッとベッドから跳ね起きクルリと回転しながら地面に着地すると剣を背中に、短刀を腰にさすとすぐさま出ていった。


「良いのですか? 行ってしまわれましたけど。それにアルフェリオさんですか、彼に指示を仰がなくて良いのです?」


「ご心配なく、エクレさん。この場での指揮権は私にあります。それに今アルフェリオに連絡を取ろうとしたって取れないでしょうしね。王都は今大混乱のはずですよ。下町行方不明事件に隣国パッツィーロ帝国の軍事準備。エリザベーティア王女の暴走に継承者問題……数え上げればきりがない。王国宰相補佐の地位にいるアルフェリオ君には他の事に構う余裕なんてないです。ええ有ってたまるもんですか。私でさえ苦労したのに。そもそも……」


 その時テントの外からドタドタと重い音が響く。誰かが近づいていると感覚的に悟ったエクレは慌てて自分の世界に入ってしまっているアインスの肩を掴むと思いっきり揺り動かす。


「ア、アインスさん? アインスさん! 足音がします!」

 バサリと音をたてテントが開く。

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