ゲームしましょう! 後
お茶を飲みつつ、カードをめくる。手札はそこまで良いものではない。エクレは覚えたての知識を動員し、どうカードを出すべきか考えた。アインスは賢いし、言い出しっぺのクレインは慣れているのがわかる。出来れば勝ちたい。
「まって、待ってくださいクレイン! それ嘘です! 2じゃないです!」
「残念だったなエクレ! 見ろ!」
裏返されたカードはスペードの2。場に有るカードを全て手持ちにすることになったエクレは残念そうに札を見つめた。
大貴族より嘘つきの方がどうやらエクレには馴染みがあるものだったようだ。カノンが戻ってくるまでの暇潰しなのだが、それ以上に楽しめてそうだ。
わいわいとカードをめくる部屋の窓辺に下り立った鳩が存在を主張する。アインスが窓辺により、鳩を肩にのせると鳩はくわえていた手紙をその手のひらに落とした。
「ご苦労様です。えっと……ジャンヌでしたっけ、毎度お疲れさまですね。少し待ってていただけますか?」
ジャンヌと呼ばれた鳩は肩から降り立つと、窓辺に止まって身繕いを始めた。
「アインス、アルフェリオからだろ? 何だって?」
「……とうとう騎士団と魔術ギルドが揉め事を起こしたようですよ。城ではにらみ合いだそうです。面白いですねぇ。エクレをのけ者にしての第一王子と第四王女の王位争いですか。その関連で裏ギルドに連絡がいってそうなので気を付けるようにとのアルフェリオ君からのお達しです。後ラブロはアルフェリオ君に言われてエクレを闘技場に居させたようですよ。……全く流石は先見のアルフェリオですか。手が早い。」
「にらみ合い!? エリザベーティアとお兄様がそんなことを始めるはずが……だって二人ともとっても仲が良いんですよ!? 一緒に仲良くお茶を飲んだりしたことだって……」
「恐らく取り巻き達がやらかしたんでしょう。エリザベーティア様はまだ14歳。取り巻き達をいさめるのは難しい。第一王子も優しいお方ですからね……そこまでなれてはいないはずです。」
「……なあ、アインス、それってエクレが戻りにくくなったってことか?」
「ええ、今戻ってはにらみ合いが三つ巴になるだけです。ああ、先手を打ってカノンに調べておいてもらってよかったですね……」
「何をだよ?」
「不審な馬車の噂ですよ。先程からカノンが居ないのは調べものに出ていってもらってるんですよ。帰ってきてから報告と一緒に詳しく話しますね。」
談笑に戻った時、ガシャンと一階の窓ガラスが割れた音が響いた。続いてカノンの「逃げてみんな!」という鋭い声。
「これは……このマナは……大型魔術の発動地点になってしまっていますね。今解除しますから、私の番飛ばしてください。あ、次は2からですよエクレ。」
「え? あ、はい。」
「何やってんのさ!? 逃げなきゃ巻き込まれ……」
「カノンー、安心しろ、アインスに任せときゃ大丈夫だ。上がってこいよ、トランプやろうぜ。」
大型魔術の発動地点になっているにも関わらず、のんきな声で対抗魔術を組み立てるアインス。クレインも慣れた様子で気にも止めずにカードを出していった。一階にいたカノンは次々と解除されていく魔方陣を見つめ、呆れ果てた。
「なんですかこれ……簡単すぎます。地属性の魔術ですか。これをこうして……ふむふむ成る程。クレイン君、終わりました。今から加わっても?」
「ああ、次13だから。……アインス、それダウト。」
「……何でばれたんですかね。」
場にあったカードを手持ちにいれると出しやすいように並べかえた。エクレが1を宣言しながらカードを出す。クレインの負けになったところで一回中断し、紅茶を飲みつつクッキーをつまんだ。ようやく正気を取り戻したカノンが一階から階段を飛ばしながら上がってきた。
「よ、お帰りカノン。なぁアインス、これからどうするんだ?」
「カノンを加えてもう一勝負したら出掛けましょう。難しい話は馬車の中ででも。さあ、次は何します? エクレ、希望はありますか?」
アインスが優しい声でエクレに声をかけると、エクレは泣きそうな声でうつむきながら話始めた。
「……楽しいですね、皆でこうしてゲームをするのは。はじめてです、こんなに、楽しいのは……お城をよくわからない形で出てきましたが、それがよかったです。ラブロと……アルフェリオ様には感謝ですね。……本当に、今楽しいです。ありがとうございます、クレイン、アインス。カノンにも感謝ですね。」
寂しげな、それでいて楽しげな笑みを浮かべエクレは微笑んだ。
「良いっての、そんな深く考えんなって。どうせ俺たちはアルフェリオの手の上で踊らされているだけなんだからよ。なあアインス。」
「そうですね、恐らくはあの人に聞けば全てわかるんでしょうね……本当に化け物じみています。ところでこのクッキー美味しいですね。何処のですか?」
「マーレ・サイアンって王都に最近できたとこ。ケーキや綺麗な飴とかいっぱいあったんだ。今度みんなでいこうぜ。……エクレも一緒にな。」
「……はい!」
エクレは泣きそうな顔で微笑んで、大きな声で返事をした。あふれでる感情は今までになく膨大で、止められなくて、でもそれが幸せだった。
読んでくれてありがとうございます! これから忙しくなるので、月一更新になりそうです……。すみません!




