授業が終わって
今日も彼女の独壇場だった。
英語の授業である。
今日も彼女は積極的に挙手して、流麗な発音で答えるのであった。
彼女は、授業が終えた教員が後ろに歩いていくのを見送った。
「大森さん、あなたにとっては退屈でしょうけど、起きていて」
教員はそう言った。
少女は、眠そうに、頷いた。
「帰国子女なの?」
さつきは彼女を見上げて言った。自然と上目遣いになった。
彼女は戸惑ったように、うん、と言った。
「どこから来たの?アメリカ?」
さつきが続けた。やはり少女は、うん、と頷いた。
「そうなんだ、すごいね!」
さつきは、ホームルームに入っていった。
彼女の名前は、ガリバーと言った。無論仇名である。
最初のオリエンテーションでガリバー役を演じたがゆえに、彼女は六年間ガリバーと呼ばれるようになった。
しかしさつきは違った。さつきも背が高かったので、彼女をガリバーと呼ぶのには抵抗があって、下の名前にさんをつけて呼ぶことにした。
さつきは子供らしい、元気な娘だった。
優美を見つけると走っていって突き飛ばしたりしたが、優美はさつきの走ってくる足音で、ああ、今日も五月雨かと思うのであった。
五月雨さつき。彼女は、韻を踏んだ自分の名前を気に入っていた。




