買い物とお嬢様。
ここは王都の裏路地の一角、細々と営業する一軒のバー『ネリネ』
少々古めかしい内装の店はきれいに清掃されている。
昼間だからか暇そうに店主が店から出てきた。
本日の飾りは愛剣のショートソード(安もの)らしい。
「…たまには買い物でも行くか」
そう思いつき一度大きく伸びをして、店を閉める。
王都の中心街へと足を向ける。
目指すはカリュートの店。
新しく飾る変わり種の武器(安物)でもあればいいな。
そう思いつつ足をはこぶ。
中心街に近づくとガヤガヤと喧騒が聞こえてきた。
「相変わらずにぎやかな所だ」
なんとなしに屋台を冷やかしながら歩いていく。
屋台で買い食いするほどの余裕はない。
武器?武器は趣味だ。
何せファンタジーな世界だ実用は無理だが観賞用にと思ってもいいじゃないか。
まあ、実際買ったのは愛剣のみであとは貰い物だが。
どうやら目的の店についたようだ。
『カリュニス商会 王都支部』
カリュニス。
俺はあった事はないがカリュートの父親らしい。
一代で商会までにした傑物、とカリュートは言っていた。
そこの支部長を務めるのがカリュートだ。
ちなみに本部は麟族の国の龍国にある。
「邪魔するぞ」
そういって商会のドアを開ける。
「じゃあ帰ってください」
「……」
なぜか帰れと言われてしまった。
というか誰だこの子は。
明らかに人族で、この店に来るような客層には見えない。
この商会は人族以外の御用達だ。
使うのはよほどの変わり者か、俺のように個人的に伝手を持っている奴ぐらいだ。
一般の人族は、差別。
というには少々語弊があるが敬遠しているのは確かだ。
それにこの御嬢さん、貴族だろう。
見た目は赤い髪に青い瞳。
目鼻立ちはすっきりと整っている。
多少そばかすが有るが十分チャームポイントとして見れる。
年のころは10歳くらいか?
衣服は貴族のそれだ、赤を基調にしたドレスに、宝石(おそらくガーネットか?)をあしらった、意匠凝った銀のネックレスをしている。
どれだけ赤が好きなんだこの御嬢さん…
「あ~初対面でいきなり帰れはないだろう?それに俺はここのカリュートに用があってきたんだ」
「あら、ならばやはり邪魔ですわ。カリュート様はわたくしと今からお父様にご挨拶に行くのですから」
「……は?」
まて、ちょっとまて。
どういう事?『お父様にご挨拶』ってあれか結婚的前のご挨拶的な何かか?
政略結婚?
いやありえない。
いくらカリュートの父親が一代でこの商会を築いたとしても人種の壁はデカイ。
それ以前に年齢が足りてないだろう、この世界『コーラリア』の成人年齢は13歳だ。
それに貴族と他種族は基本相いれないといってもいい。
大昔の戦争の歴史がまだ本や文献として残っているため、本を読む貴族はそれを引きずる奴が多いのだ。
流石に王族ともなると0ではないにしろ、差別はかなり少ない。
この多くの種族が集まる王都で、王が差別なんぞしてたらあっという間に反乱だからな。
とりあえず御嬢さんに貴族かどうか確認しなきゃな。
「なぁ、聞きたいんだが御嬢さん貴族かい?」
「へぇ、なかなか目端は利くようですわね。ええそうですわ、わたくしの名前はクリハーミュ・フォン・ミーゼリア。そう!ミーゼリア侯爵家の次女ですわ!」
どやっ!と素晴らしいドヤ顔を披露してくれたクリハーミュ。
頭が痛くなってきた……
しかし名乗られたからには、名乗るのが礼儀とこちらも名乗る。
「俺は高田公一、裏路地でバー『ネリネ』の店主をやってる」
「へぇ、あなたが『賢者』でしたの」
違う『賢者』じゃない『初心者賢者』だ。
訂正しようと口を開いたところで2人の待ち人カリュートが姿を現したのだった。