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愚痴ぐらいは聞いてやる。  作者: ミスター
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弟子と魔法使い

ここは王都の裏路地の一角、細々と営業する一軒のバー「ネリネ」

少々古めかしい内装の店内。

今日は定休日のため客は入っていない。

ちなみに今日の飾りは今から取り替える所のようだようだ。


「よし、こんな所か」

今日飾ったのは愛杖のロッド(お下がり品)だ。

飾り付けを終えると商人のカリュートから開店祝いでもらった鏡の前に行く。

鏡自体こちらでは高価な品だ。

今『ネリネ』にある鏡は30cmの20cmぐらいの大きさで髭を剃るときや身だしなみのチェックに使っている。

カリュート奮発しすぎだろう、へたしたらこの店より高い。


「少し髪が伸びてきたか…?」

絶対に割っちゃいけない値段の鏡に映った自分を観察してみる。

黒髪黒目に無精ひげ眉毛は太い、こちらに来る前は手入れもしてたんだがこのコーラリアに来てからはオシャレに気を回す余裕がなかった。

髪はある程度まで伸びたら自分で切るようにしているが最近はそれすらしていなかった。


「仕方ない切るか」


そう思い立ちナイフを手に取った所で客が来た。


「おしさしぶりですね、コウイチさん。ずいぶん大きくなって」

客人は俺の魔法の師匠ハリーナ・クラスだった。

「ハリーナ師匠、流石に1週間で大きくはなりませんし成長期もすぎました」


この師匠すこし天然が入っている、決してボケている訳ではない、はずだ。

「うふふ、そうねコウイチさんは大きいものね」


俺の身長は172cmまあそこそこだが、師匠は140cmあるかないか。

そう、俺が大きいのではなく師匠が小さいのだ。

師匠はなるで縁側で猫とお昼ねしているようなご婦人だが恰好は奇抜である。

黄色いローブの右下に赤いバラの刺繍をあつらえ、ザ・魔法使いといった風貌の黄色い大きめの三角帽子に虹色の羽を付けている。

ちなみに歳は82歳である。


「あら、まだその杖もっていたのね。懐かしいわぁ」

「えぇ、もう使いませんが捨てる理由にはならないですよ。思い出が詰まってますから。」

俺はナイフを握ったまま師匠と共に杖を見上げる。


魔法は杖が無くても使えるが、それは基本的に日常に使うような物で戦闘等に使う大規模な魔法や威力の高いものは杖を必要とする。



「そのナイフ、どうするの?」

「あぁ、今髪の毛を切ろうかと思いまして」


「ふふ、大分伸びてるものね。そうだ、久しぶりに私が切ってあげましょうか?」

そういえば弟子時代は他の兄弟弟子や孫の髪を切っていたな。


「それじゃあお願い出来ますか?」

「うふふふ、コウイチさんの髪を切るのはひさしぶりね」


店内の中央にイスを置き散髪を始める。

シャリ、シャリ、と小気味良い音が店内に響く。


「コウイチさん傷は大丈夫?『おまじない』を掛けてあげましょうか?」

『おまじない』とは俺が教えた『痛いの痛いの飛んでいけ』のことだ。

師匠がすると軽い擦り傷程度なら治ってしまう。

言葉とともに自然に魔力を使う魔法使いならではである。


「ええ、もう治りましたよ。あのヤブにかかった後の治療をしてくれたのはハリーナ師匠でしょう?」


そう、ヤブだけでは傷は治らなかった。

自分の事そっちのけで師匠が魔法で治してくれたのだ。

師匠は魔法使いとしては一流とはいえないらしいが師匠としては超一流である。


最も俺の魔法の実力は三流以下なのだが。

そんなダメな弟子を見捨てる事無く治療してくれた師匠には頭が上がらない。


「そうね、でも心配なものよ?貴方は孫のようなものなんですから」

「はい、ありがとうございます」


ですが心配のしすぎじゃないですか?

最近は一周間に一回は店に来るようになった。

うちによってから、お向かいの雑貨屋で店番のちびっ子と喋って帰るのが楽しみになっている。


そうこうしているうちに散髪は終わり。

かなりさっぱりとした。


「さあ、出来たわ。鏡で確認してね」


そう言われ鏡の前に立つ。

うん、相変わらずカッコいい。


カッコいい髪型なのだが俺には似合わない髪型である。

師匠は俺や兄弟弟子の髪を散髪するのが好きなのだが、必ずといっていいほどその人物に合わない髪型になるのが玉にきずである。


「うん、よく似合ってるわよ」


「あ、ありがとうございました」


「それじゃあ、そろそろおいとましますね」

「はい、お送り致します」


そういってお互いに店をでていく。

そしてハルーナ師匠を送り出し店内に戻ろうとした時、突然、師匠からの念話(魔法使いの連絡手段の一つ公一は受信はできるが発信は出来ない。)が届いた。


《あなたは今幸せ?》


……どうでしょうね、常連連中の相手だけでもずいぶん楽しいし出会いに関しては幸せなんでしょう。


とまあ言ってみたところで聞こえてはいないんでしょうが、師匠との出会いも幸せだったんだ。

まるで2人目のおばあちゃんみたいで温かかった。


なぜだろうか、もう会えない気がした。



その一週間ご師匠が亡くなったと聞いた。

それは満足した顔で逝ったそうだ。


その葬儀で兄弟弟子やお孫さんみんな泣いていた。


棺を覗き込むといつものように縁側で猫とお昼ねしているようなほのぼのとした笑顔で眠る師匠。


棺に師匠のお気に入りだった『てるてるぼうず』を入れる。

弟子入り中、雨が降った日に何気なく魔力を込めて作ったのを見て、

「かわいいわねぇ、それは何かしら?」


『てるてるぼうず』の事を説明して以来、師匠のお気に入りだった。

その後あちらの事も説明し、異世界の人間だという事も師匠だけが知っている。


あちらのおまじないの事も色々説明したし、その時の言葉は

「あらあら、コウイチさんの故郷には優しいおまじないが沢山有るのね」

と、嬉しそうに笑っていたのを思い出す。


この世界の『おまじない』は文字道理『お呪い』だ。

魔力が有るからか実際効力が出る分えぐい物が多い。


だからこそ俺の世界の『おまじない』がとても優しく聞こえたのだろう。



「今まで、ありがとうございました」


今までの全ての感謝お込めての言葉。

一礼して師匠の側を離れる。


しばらくは引きずりそうだ。


葬儀を終えた俺は師匠の念話を思い出す。


《あなたは今幸せ?》


アレは遺言だったのかもしれないな。


ハルーナ師匠、俺は今幸せですよ。

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