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愚痴ぐらいは聞いてやる。  作者: ミスター
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異世界人と異世界人

ここは王都の裏路地の一角、細々と営業する一軒のバー『ネリネ』

少々古めかしい内装の店内は朝だからか客は入っておらず店主が掃除をしている。

きれいに清掃されていく店内に2人の客が入ってきた。

ちなみに今日の飾りは愛斧のハンドアクス(貰い物錆びつきアリ)のようだ。


掃除をしているとドアの開く音が聞こえる。

「まだ開店前だ、出直してくれ」


「失礼します、ここは賢者の店でいいでしょうか?」

「うっわ!きったねー店だな~」


こちらの言ったことがまるで聞こえないといった様に入ってくる2人組。

失礼なことをぬかす男と礼儀正しい笑顔の綺麗な女だった。


女の方はきれいな銀髪で緑の瞳10人中8人は振り返るんじゃないかという美少女、一級品の魔法のローブを着けており神官の持つメイスを抱えていた。


男の方は黒髪黒目でイケメン。

仕立てのいいマントに、何だあれ?刃のない剣か?

鍔と柄は見事な造りだが鞘にいたっては剣の輪郭のみを残し何もない。

だから刃がないと分かったんだがあれは剣として機能するのか?

男女共に18歳くらいだろうか?


それはいい、あまり良くないがとりあえず置いておこう。

なにより注目すべき点は…


「学生服だと?」


「やっぱり!ほら言ったじゃないですか、ここが賢者様のお店なんですよ!」

「いやありえねえだろ、賢者ってもっとこうジジイで高い塔と森の中とかにいるもんだろ?なぁ、あんた『日本』って知ってるか?」


あぁ、学生服の地点でわかっていたがこいつも異世界人か…

「とりあえず自己紹介でもしないか?」


「俺は高田公一、この店の店主をしている。7年前にこちらに来た『日本人』だ」

そう名乗ると男は頷き女は唖然としていた。


「え、えぇとノエル・リーファ・シュタインバークです。聖女をやっています」

多少戸惑いながらも名乗るノエル、しかし聖女とはな。

聖女は神官職ではあるがかなり特殊だ、王都の聖誕教会で特殊な才能を持つ人族から選ばれ年齢は関係なくなることが可能で。

ここ200年は現れていないと依然、本で読んだ記憶がある。

そして最大の特徴は『儀式召喚』だ、20人以上の神官と聖女で行なう『異世界勇者召喚』。

魔王や世界の危機に対しての他人任せな切り札だ。


……そういえば常連の一人が聖女様は美人云々言っていた気がする。


「じゃあ次オレな、神守 天馬だ。1か月前にこのコーラリアに召喚された『勇者』だ!」

…元気がいいのは結構だ。

だが、名乗りとともに拳を天に掲げドヤ顔をするのはいかがなものか。


「なるほどね、じゃあ腰のそれは聖剣といったところか?」


「はい!天馬様しか使えない伝説の聖剣『ユニークス』です!」

「これ一本で剣、斧、槍、何でのござれのすげぇ剣なんだぜ!こうギュッと力を込めてバンッと創るんだ!」


なんともアホな説明で鞘から抜き実演してくれる勇者様。

そして人に教えるのはさぞ苦手であろう。

しかし、込められた力は本物で常連連中なんぞ一振りで粉砕できるであろうと思わせるほどの魔力を感じることができる。

この世界に来て初めて異世界チートを実感した一瞬だった。


「うん、凄いのは分かったから仕舞ってくれ。そのユニークスを見せに来たんじゃないんだろ?」

このままでは、店の中で振り回しかねない。

ノエルは止めるどころかキラキラした目で自分の『勇者様』を見ているし。

天馬は天馬でごきげんに、いくつも武器の形を口から擬音を発しながら創ってはとんでもない魔力をまき散らしている。


ハッと気づいたように、ノエルが切出す。

「あっそうでした、私たちこれから魔王退治の旅に出るんです。そこで賢者様のお力を御貸ししてもらえないかと思いギルドで聞いた『賢者の店』に来たんです!」


「そうそうギルドでなんかあったら賢者に聞けっていわれてよ!賢者っていうくらいだからおっさんは知識チートか?なら魔王の倒し方とかぱぱっと教えてくれよ!」


あれかギルドが原因か?体が治ったら採取クエストとか受けたいな~とか思って席を残したのが悪かったか…


この前も新米が賢者様って突っ込んできたし、おっさんに聞いたらかなり広まってるみたいだしな。

とりあえず…


「無理だ」


「はあ!?なんでだよ知識チートだろ!」

そういって睨んでくる天馬。


「チートなんぞない、そうだな天馬にわかりやすく言うとお前主人公、俺モブ」

自分で言っていて悲しくなってきた…


「『賢者』も少し違う正確には『初心者賢者』だこの知識はすべてこちらに来てから本を読み覚えたものだ、逆に言えば本さえ読めば誰でも覚えられる程度の知識しかない。ただこちらの人たちは貴族や王族以外本を読まないからそう呼ばれている」


そう、最近賢者、『賢者』と呼ばれているが俺は『初心者賢者』なのだ。


「で、ですがともに来てその知識を生かすということもできるはずです!」

「そうだぜ!おっさん!」


2人もいいこだなぁ


「ノエルの期待に添えなくてすまんが俺は以前冒険者時代に大怪我をしていてね、傷自体は治ってはいるんだがヤブだったらしく戦闘には耐えられんのだよ。それと天馬、俺はおっさんじゃない!」


まったくアレと一緒のされるとは…そんなに老けてるのか俺?

「まあ、そんなに暗い顔をするな俺としては同郷がこっちにいたってのが分かっただけでも嬉しいんだ」


「はい…」

「おう…」

いい子たちだな、少々天馬がおバカだが。


「そうだな、俺は一緒にはいけないが今度飲みに来ると良い。あまりいい酒は置いてないが精一杯もてなすよ」


「はい、必ず来ますね!」

「もちろんだぜ!まあ、今度来るときは魔王を倒した後だろうけどな!」

そういって天馬とノエルは笑いながら店を後にした。


今度会う日が楽しみだ。




その数年後魔王討伐がなされたと国中が大騒ぎになった。


「失礼します、ここは賢者の店でいいでしょうか?」

「おいーす、おっさん約束どうりのみに来たぜ!」


ノエルが初めて店に来た時を再現しているのに対し天馬は自由である。

パーティーメンバーも3人ほど増えたようだ。

さすが主人公、ハーレムパーティーである。


俺は苦笑しながら

「ようこそバー『ネリネ』へ」

2人に対し初めて店の名を告げるのだった。

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