賢者?と新米。
ここは王都の裏路地の一角、細々と営業する一軒のバー「ネリネ」
少々古めかしい内装の店内は夜だからか客は多少うるさい程度は入っているようだ。
きれいに清掃されていた店内も、今は客の飲み残しや騒ぐおっさんで綺麗とは言えない。
今日の飾りは愛槍のロングスピア(貰い物)のようだ。
酒やつまみを出し終わり、ようやく一息ついた公一。
この後は皿洗いだな、と思いながら唯一使える水系統の魔法で氷と水を作り口に含む。
その時だった。
突然入口のドアが開き一人の冒険者が入ってきた。
「賢者様のお店はここですか!」
「ブッボ!?」
水を吹きだす公一、賢者と聞いて笑い転げる常連ども。
「???」
わかってない顔をする冒険者。
なかなかにカオスであった。
「で?」
とりあえず、落ち着いた頃(俺が)話を聞いてみることにした。
「いきなり賢者様とはどういうことだ?」
「あ、はい!このお店にどんなことも知ってる賢者様が居るってギルドに言われて。」
「あ~、まあ人違いじゃないのか?俺はランクDだしもう引退してるようなもんだぞ?」
「えっとでも、アイシャさんって言う人からここの店主さんがそうだってききましたよ?」
「なにっ!アイシャだとぅ!貴様アイシャとどうゆう関係だニャ!!さあ、はけ!隠すとたmへぶっ!」
「おっさんうるさい。」
いつの間にか近くに来ていたおっさんがわめき、俺は近くにあった安酒のビンをおっさんの口に突っ込んだ。
「おっさんはとりあえずそれ飲んでこれをボスコのおっさんに。俺が聞いといてやるから、な?」
そういうとおっさんは「ニャんで俺が…」と言いながらも安酒片手にテーブルに酒を届けに行く。
なんだかんだで素直なおっさんだ。
しかしその姿は盗賊が客を脅しているようにしか見えない。
「まあ、とりあえず賢者かどうかは別にして俺が店主の高田公一だ。」
「あ、僕はセシル・リーマスです!」
そう元気よく名乗るセシル。
歳は14、5か見た目から新米臭が漂うほどの中性的な童顔と、まるで今日買いましたと言えば納得できる傷のないレザーアーマ。
腰に帯びたレイピアだけは安物しか使わない(使えない)俺でも分かるほどの意匠を凝らした物なのがアンバランスだ。
「で、セシル。俺は賢者じゃないが多少のアドバイスくらいはできる、というかそれしかできん。」
俺の知識は所詮本に載ってる程度のものだ。
要は本さえ読めば誰でも分かる程度のもの。
情報は力だとまではいわないが、こっちの住人も多少なりと読めばいいと思う。
じゃなきゃ書いた人が可哀想すぎる。
「はい!お願いします!」
…なんだろうこの素直さは。
なんか心配になるレベルじゃないか?
「あ~、とりあえず問題はなんなのか教えてもらわにゃアドバイスもできないぞ?」
「実は僕5日前に冒険者登録したばかりでして、今日採取クエストを初めて受けたんです!」
「採取か…ん?なんで4日も空いたんだ?初日に受ければよかっただろうに。」
「…ギルド登録の後受けようと思ったんですけどほかの冒険者さんたちにお使いを頼まれたり、宿で巻き割りを頼まれたりしてナアナアに…なんか、断れないんですよね。」
そういって苦笑を浮かべるセシル、なんか冒険者に向いてない気がするんだが…。
「冒険者に向いてないのは自覚しています。ランクもEのままかもしれません、ですがやりたいんです!自分の力で生活したいんです!」
自分の力で生活?この世界は13歳で成人と見られる。
そのほとんどが自分の力で生活している。
セシルの歳にもなってそれがないということはよほどの富豪か貴族以外はない。
「まあ、いいか」
とりあえず流すことにする、本題は採取のアドバイスだ。
「?」
「気にするな、とりあえず何の採取を受けたんだ?」
「え~とですねぇ、薬草20束ですね!」
…なんで薬草?アドバイス要らんだろう?
まあ、いいか。
「薬草な、覚えやすい形だしギルドに言えば絵付きの木札を貸し出してくれる。後は根っこごと引き抜かず葉の部分のみをナイフで切り落とすようにすれば次から採取ポイントとして使える。それと道具袋とは別に採取用の袋を持つことを進めるよ」
「とまあ、採取クエストの基本を言ってみたんだが、そこで飲んでる冒険者様たちは面倒だからと根っこごとぶち抜いてくるから採取ポイントを作っても無駄になるかもしれんが」
視線を客の方へ向けるとほぼ全員が視線を逸らしている。
注文がないと思ったら盗み聞きしていたようだ。
実際、俺が冒険者のころ作った採取ポイントが軒並みなくなるという事もあった。
「うぅ、採取って意外と難しいんですね…。」
「…なあ、セシルは貴族だろ?」
「あ、はい!すごいです言ってないのに、さすが賢者様です!」
なぜだ。
貴族はそれこそ上流階級にふさわしくかなりの教養をされる。
それが何でこんな残念な子に?
あぁ、だから冒険者なのか。冒険者は基本脳筋である。
「僕兄妹の中でも特に出来が悪くて、得意なのはこのレイピアだけなんです。今使ってるのもお爺様のお下がりなんですけど。」
あぁ、どうりででも明らかに一級品なんですけどそのレイピア。
「まぁ、セシルのお家事情に突っ込む気はないがクエストが成功したら一度顔を見せに来てくれ。」
「はい!必ず来ますね!ご馳走様でした!」
そういってセシルは夜の路地裏に消えていった。
「あいつ、なんか頼んだっけ?」
それから2日後セシルが笑顔で報告に来た。
「ばっちりでしたよ!賢者様!!」
その手には根こそぎ抜かれた薬草が握られていた。
「…よかったね」
脳筋め。