俺と奴隷
ここは王都の裏路地の一角、細々と営業する一軒のバー『ネリネ』
今日も営業中である。
本日の飾りは愛剣のショートソード(安もの)らしい。
今の客の人数珍しくは5本の指で数えられないほど。
あくまで酒やつまみなどを注文する『客』であって、ココをたまり場にしているアホ共は実際もっといるのだが…
今日はたまたま、重なって来たらしい。
迷惑この上ない。
このアホ共、持ち込み禁止の店内で持参した酒とつまみで盛り上がるのだ。
実にたちが悪い。
ちなみに全員『冒険者』だ。
偶には注文しやがれ!
売り上げに貢献しろ!
はぁ、何をやってるんだ俺は…
「コウ!酒!」
「あっ、俺んトコもお願い」
「暇なら、カードでもするか?」
ニヤニヤ笑いながら、誘ってくる冒険者Aに
「注文するなら付き合ってやる」と返し注文を取りにテーブルへと向かう。
つれないねぇ、と仲間とカードを始めたようだ。
…注文する気は無いらしい、まぁ、何時ものことだ。
注文を聞き酒を届け、帰ったアホ共のかたずけに追われる。
割と忙しい時間を過ごしているとドアが開き新たな客が入った来た。
「今晩は、お忙しい中申し訳ありません。『カリュニス商会』からの使いできましたザルハと言う者です」
どうやら飲み客ではなく、カリュートからの使いらしい。
ふむ、確か…日本刀の『菊ノ嬢』を買ったときに運んできた店員さんだったか。
「こんな時間に『カリュニス商会』が一体どんな要件なんだ?もう店は閉まってるだろうに?」
「えぇ、それが私も詳しくは…ただ、『賢者様』のお力をお借りしたいと支店長が言っていまして。すぐ呼んでくるようにと」
カリュートがねぇ……何か面倒事か?
まさかあのお嬢さんの事じゃないだろうな?
そうだったら力にはなれんぞ俺。
しばらく考えていると断られると思ったのか、ザルハは慌ててこう言ってきた。
「もちろん店を仕舞えとは申しません!私『カリュニス商会』で経理の仕事と接客を学んでおりますのでご店主がご不在の間はこの私めが店番を務めさせていただくように支店長からも言付かっております。…どうでしょうか?」
もちろん行くことに否は無い。
しかし、いつもの『ネリネ』ならまだしも。
このアホ共集う魔窟にこんなひょろい人を置いて行っていいものか?
まあ、アイツらも一言掛ければ何とかなるか…
根は良いやつらだしな。
「わかった。あいつらに声掛けていく、コッチの用が長くなりそうなら。適当な所で店を閉めてくれ」
そう言って中に戻り常連やアホ共に声を掛けてから。
日本刀『菊ノ嬢』を腰に下げ店を出る。
店の外では馬車が待っていた。
カリュートは本当に急ぎのようだ。
ほどなくして『カリュニス商会』の裏手に着いた。
この裏手の方では奴隷も扱っているのだそうだ。
俺には縁のない所でもある。
カリュートはそこで待っていた。
「おお!よく来てくださいました、コウイチ殿!さあ!こちらへ!」
カリュートはすごい勢いで俺の手を引いていく。
「ちょ、ちょっと待てカリュート!急いでいるのは分かった。だが、説明ぐらいしてくれ」
流石に何の説明もなしに奴隷商館なんて連れてこられても困る。
あぁ、こちらの奴隷にはちゃんとした権利が存在する。
買った相手は飯を必ず与えねばならないし、不当な暴力や性的虐待も禁じられている。
破った場合は買った側が『奴隷』行き、だ。
「そうでしたな、実は仕入れた奴隷の中に10歳くらいの人族が居ましてな、これだけなら良かったのですが…」
10歳くらいの奴隷は子供ができない夫婦や老い先短い老人などに売れるそうだ。
こういった奴隷は家族として扱われるため、貧しい家は子供の幸せを願って売りに来るのだそうだ…
以前にカリュートから聞いたことを思い出し、
何とも言えない感じになっているとカリュートが続きを話し出す。
「…ご飯を食べないのですよ、何かに怯えているようで。同い年くらいの奴隷は居ませんし。こちらがしゃべり掛けても、うつむいて震えるばかり。このままでは倒れてしまいます!今は同じ部屋に今朝方入荷した『テイムモンスター』を入れて落ち着いていますが…どうしても心配で『賢者様』をお呼びしたのです」
俺は何でも屋じゃなんだが…
自分が奴隷落ちすることは考えてないカリュート。
しかし『テイムモンスター』か。
これは、捕獲され調教されたモンスターのことだ。
10歳児と一緒に入れる位だからアニマルセラピー程度だと思っておけばいいか。
「しかし、この時間だと寝てるんじゃないのか?その子」
「それが、ほとんど睡眠もとってないようで…」
飯も食わず、ほとんど寝てない…
早く会った方が良いな。
「案内してくれ。どうなるかは分からんが、やるだけやってみよう」
「ありがとうございます!では早速!こちらです!」
カリュートの案内で例の子の部屋の前まで来た。
そしてカリュートがドアをノックする。
「入りますよ」そう言ってドアを開けるのだが…
「ひっ」とか細く小さな悲鳴が聞こえた。
「また、食べてないのですね…」
食事のトレイを見て残念そうな顔をするカリュートだが…
10歳児、女の子だろう。
カリュートが動くたびにビクついている。
「うぅ、トカゲ怖いよ。ペロ何でわたしこんなとこに居るの?」
プルプル震えながらペロ(この子が付けたのか?)に抱き着く10歳児。
抵抗もなく抱き着かれているペロは…まて、『ラピッドウルフ』だと!?
思わず目をこすり、2度見した俺は間違ってないと思う。
『ラピッドウルフ』はランクCのモンスターだ。
基本的に群にはならず単体での行動を好む。
ラビッドウルフの討伐にはランクCの冒険者が10人駆り出され失敗することもあるのだ。
こいつはとにかく速い、とんでもなく。
気性が荒く、子供に抱き着かれて呑気にアクビをしてるような性格じゃなかったと思うんだが?
「カリュート少し出ようか?」
「はい?……わかりました。」
聞きたいこともできたし。
女の子に手を振ってから、部屋の外にでる。
「いつもあんな感じか?それと…あの『テイムモンスター』何かわかってるのか?」
少々咎める感じで問いただす。
「そうですね、何時も喋っているのは聞こえているようですが、こちらの言っている事が伝わっていないと言いますか…それと『テイムモンスター』ですがあれは山間部の村から送られてきたもので、今代の『勇者』様がテイムして村の資金の足しにするように言われたそうです。とてもおとなしいですし、巫女様が施した契約印も入っていますので安全かと…あぁ名前は『ネロ』だそうです」
天馬君、それは画家を目指す少年だ…
溜息をつきながら『ラピッドウルフ』について説明する。
顔を青くしてながら、あわてて部屋に戻ろうとするカリュートを止め。
女の子について聞いてみる。
「それが、どうも言葉を話せないようで。何を言っているのかさっぱりなのです」
この世界の言語は1つ。
そして俺は間違いなくあの子が話しているのを聞いた。
はぁ、……どうやらあの子は俺と『同じ』らしい。
俺はコッチに来た時から話して居たから気づなかったが『言語』はチートに入るのかね?
それは置いといて、今はあの子の事だな。
しかし7年間、話していない『日本語』だ果たして上手く話せるか?
まぁ、とりあえずあの子を安心させて飯を食わせるのが先決だな。
そう思い、ノックしドアに手をかける。
「入るよ?」
返事は小さな悲鳴で帰って来た…どうやら『日本語』ではなかったようだ。
カリュートも続いて入って来たので、例の子は『ペロ』に顔を埋めてしまった。
「アー、アーあー。あいうえお、かきくけこ…」
意識しての発声練習。
カリュートは聞き慣れない言葉に驚き。
少女は『ペロ』から顔を上げキョトンとした顔でコッチを見ている。
この子を少し見てみる。
どのくらい食べてないのだろうかなりやつれているし、目の下にはクマが出来ている…
黒い髪に黒い瞳、痛んだ髪は腰まで伸びている。
目はパッチリとしているため体形が戻れば、可愛いのではないかと思われる。
「あーうん。久しぶりに使うから意識しないと切り替わらないな。俺の言葉が分かるか?」
少女にとっても久方ぶりの『日本語』にコクコクと頷く事で返事を返して来た。
「そうか、お嬢ちゃんが日本人で良かったよ。外国語なんて話せないからな。自己紹介でもしようか?まずは俺からな、高田公一。この世界で、バー…お酒を出す店をやっている」
さ、次はお嬢ちゃんだと水を向ける。
「あの…鈴品鈴音です。10歳です」
同じ言葉を話せる相手がいて多少安心したのか、ホッとした様子だ。
とりあえず何か食べさせないとな。
「カリュート。ゼヌ麦は余っているか?」
「ゼヌ麦ですか?確かにありますがアレは家畜の餌ですよ?」
うん、コチラでは家畜の餌だろう。
だが!アレはこの世界で一番『米』に近いのだよ!
俺はゼヌ麦を見つけたとき狂喜乱舞したものだ…
もっとも常連たちには『米料理』は不評だったがな。
「そこ何とか頼むよ、あれでこの前教えた、お粥を作って持って来てくれないか?俺は鈴音に、ここが何処だか説明しておく」
「おぉ!この子はスズネと言うのですか!可愛らしい名前ですな…この子にとっては辛い話かもしれませんがお願いします」
一度頭を下げ部屋を後にするカリュート。
「さてカリュートが…カリュートってのは今までいた鱗族の、あ~トカゲのおじさんの事だ。そのトカゲのおじさんが帰ってくるまでココの事を教えておこうと思うがいいかい?」
真剣な顔で「お願いします…」と『ペロ』を抱きしめたままお辞儀する鈴音。
まずはココが異世界であること、色んな種族が居る事、冒険者、モンスター。
物語のような世界で帰れない事…
そして…ココは奴隷商館であること。
いろいろと10歳児には重い話ばかりではあるが、涙を溜めながらもしっかりと聞いていた。
強い子だ…
話が終わりしばらくすると、鈴音はポツポツと自分の事を話し始めた。
「私、ずっと病院から出た事が無くて…外の世界に憧れてました。ずっと丈夫な体が欲しくて神様にお祈りしてたんです。そしたら夢の中で「丈夫な体をあげよう」って声がして嬉しくて飛び起きたら草原でした…」
それから草原を彷徨い、集落を見つけたそうだが言葉はわなかったが。
歓迎されたらしいし、宴にも参加したらしい。
…恐らくソコで食べ物に何か混ぜられたんだろう。
気づいたら奴隷商の馬車の中だったらしい。
田舎の集落では、たまにあるのだ。
生きるために迷い込んできた人を薬で眠らせて売るという事が…
送り込んだ『神様』もこの子を売った奴らもクソッタレだ。
しかし、食べ物と寝る事にトラウマでも持ったのか?
だとしたらカリュートは無駄足になるかもしれんな。
頼んだの俺だが。
「お待たせしました!お粥ですよ!」
素晴らしいタイミングだよカリュート。
「えっと…」
とまどいながらも深緑のトカゲさんを見る鈴音。
『ペロ』の尻尾を握ったままだが。
「鈴音のご飯を作って貰ってたんだよ、俺も一緒に食べるから少しでも食べてみないか?」
トラウマと言っても無意識下の恐怖だろう。
本人は分かっていないだろうが食事と睡眠に恐怖を感じているのは間違いない。
俺は精神科医じゃないんだがな…
しかし…あの『ラピッドウルフ』は置物じゃないよな?尻尾掴ませて無反応とは…まあ、いい。
「…はぃ…」
消え入りそうな声でだが、そう返事をしてくれた。
「ありがとうな」
俺と一緒で少し安心して食事ができたのか、『米』に似た物だったからか。
作ってきてもらったお粥を全て食べつくしてしまった。
良く食ったなと頭を撫ででやっていると、カリュートが話しかけてきた。
「コウイチ殿、どうでしょうかその子、スズネを買いませんか?」
何だって?
「この子は言葉が通じませんし、どうやら安心してご飯を食べられるのはコウイチ殿だけのようです。このままココに置いておけばいずれ買い手も付かずに衰弱してしまいます…あくまで、そう!あくまで商人として!ですが。今現在のこの子の価値はショートソード1本にも届かないのです」
カリュートの言い方に苦笑が浮かぶ。
要は「早く買って、この子を幸せに!」である。
カリュート、商人らしくしようというのは分かるが…。
まずはその体全体からにじみ出る『心配です!』オーラを止めてからにしろ。
本当に、こいつは全く奴隷を扱うのには向いていない。
ただでさえ世話好きで、優しい奴なのだ。
実際買い手がつかなった奴隷を何人も自分で買い取り。
カリュート個人で経営している孤児院や私塾で雇ったり、育てたりしている。
もちろん『恩』を大事にする鱗族だ、何かしらの形で返してもらって要るらしいが。
この前孤児院の子供たちからもらった花飾りを、「あの子たちが作ってくれたんですよ!」と自慢げに見せてきた。
態々魔法で枯れないように処理してまで部屋に飾っている辺り。
もう、完全に趣味だろう。
その魔法処理で健康な奴隷が2人は買える。
ちなみに孤児院では『トカゲのいんちょさん』と子供たちに呼ばれている。
まあ、それは置いといて。
「そうだな、そこまで言うなら買ってもいいがその前に鈴音に確認しなきゃな」
「ええ、そうですね。ではお願いします!」
カリュートの中ではもう確定しているのだろう。
ニコニコと笑みを浮かべている…俺の所に来ても結構しんどいと思うがね。
鈴音にどう知るか聞いてみる。
「えと、お願いします?」
何故か疑問形で返し、『ペロ』の方をじっと見ている…
ペロはあくびを一つして鈴音を見返していた。
はぁ…わかったよ。
どうやら俺もお人好しのようだ。
鈴音を買ってからしばらくは店を休んで、言葉の勉強に空き時間を費やした。
鈴音は頭が良い、コッチの言語を1週間ほどで片言だが話せるようになったのだ。
体形も随分戻って今ではやつれていた頃を思い出せない程だ。
『丈夫な体』は伊達じゃない、3日ほどしっかり食べ、睡眠をとった結果。
髪は艶々、クマのあった顔も綺麗になり。
全体的にふっくらとして来た…
正直、日を追う毎に変わる鈴音を見て心配になるほどだった。
今ではすっかり『美幼女』だ。
食事は相変わらず俺と一緒じゃないと食べないが、寝るときは『ペロ』と一緒なら寝れるようになった。
そう、買っちゃったんです。
ラピッドウルフの『ネロ』もとい『ペロ』を…
正直鈴音だけなら問題なかったが、こいつがえらく高付いた…
流石『勇者様』ブランドの『巫女様』印だ。
今度のオークションの目玉に置くつもりだったらしいし。
現在、カリュートに日本円で6百万円近くの借金をしている…
まあ、番犬替わりと思うしかない。
今は鈴音の足元で寝ているが…
「で、ここは…」
カウンターで開店準備をしながら勉強を見てやる。
鈴音にはカウンター席は高いのか、足をプラプラ揺らしながら、安っい羊皮紙に書き取りの最中だ。
そんな時店のドアが開いた。
「久しぶりに開いとったからきてやったぞ?」
ゴンじぃだ。
「まだやってねえよ、準備中の札出てたろうが…」
「あぁあの札かい、ひっくり返して置いたから有難く思えよ?」
迷惑でしかない、何やってんの?このじじぃ。
「ん?その子はお前の子か?それに足元におるのは…」
ゴンじぃが『ペロ』を見て剣呑な雰囲気を帯びる。
ペロもそれに反応してか片目を開けゴンじぃを視界に捉えた。
その時。
「えと。お客さん?挨拶しなきゃダメだよね…」日本語でそう呟いたと思ったら。
「イラサイマセ?えと…ゴチュウモンハナンデスカ?…これで良いんだっけ?」
と最後は日本語で俺に聞いてきた。
「覚えたてにしては上出来だ。でも、それは挨拶じゃない。そして、まだ開店してないからこの爺さんは客じゃないよ」
そう言うとあわわと顔を赤くし。
しゃがみ込んでペロの体に顔をうずめてう~う~言ってる…
こうなると長いので、放置する。
剣呑な雰囲気は何処へやら、すっかり霧散してしまった。
ペロは慰めるように尻尾で鈴音の背中をポンポンと叩いているし。
ゴンじいは…何か和んでいた。
今ここに居るのは酒好きじじぃではなく。
以前見た孫の惚気をする孫バカだ。
「こんなかわいい子がコウの娘の訳がない!どこで攫ってきた!言わねば……わかっているな?」
怖!?…何気に失礼な事を言われた気がするが、気にしないでおこう。
正直こんな事で王族の覇気を見ることになるとは思わなかった。
このじじぃ本気すぎる。
さすがに王族を敵にしたくは無いので、仕方なく事情を話す。
説明はかなり端折るが…
「親なしで言葉も話せず、奴隷にな…ふむ、まだ隠していることもありそうじゃが。まあよい。さて、名前は何というんだね?」
ゴンじぃは、しゃがみ込んでユックリと鈴音に話しかけた。
ニコニコと笑顔のゴンじぃに、俺は物凄い違和感を感じ目を逸らす…
やっとの事で顔をあげた鈴音はゴンじぃの顔を見上げて、今度こそ!と気合を入れる。
「ス、スズシナ・スズネ、デス!」
「スズシナか、スズちゃんじゃの~!」
ウンウン、と満足気に頷くゴンじぃ。
それは苗字だと突っ込みたいが、両方『鈴』なので黙っていた。
「よし!わしがスズちゃんにプレゼントをしてやろう!…おいコウ。スズちゃんはココで働くんか?」
「ん?本人も乗り気だしそのつもりだが…そう睨まないでくれ、無茶はさせんよ。簡単な注文を取りに行かせるとか、軽い物を運ばせるとかだから。それに強いボディーガードがいるんだこの店に来る客で一人で勝てるのはイーナぐらいだろうさ」
「だろうな…こいつ本当に『ラピッドウルフ』か?あんな大人しい奴、初めて見たぞ。まあいい、わしはプレゼントの準備があるからこれで行くが。夜には来るから開けとくようにの?」
そう言って、鈴音に手を振って帰って行った…
結局何しに来たんだ?あのじじぃ。
そして夜、久々に開いていたからか常連やアホ共が集いだした…
だが、何時ものような喧騒ではなく多少毛色が違うようだ。
「スズちゃ~ん!こっちに注文取りに来て~!」
イーナが鈴音を呼んでいる。
最初はペロに警戒して槍を向けそうになっていたのがウソのようだ。
「バッカもんが!わしが最初に決まっとろうが!!」
孫バカも来ていた。
「えと、どうしよう?」
オロオロする鈴音を見てほんわかしてる常連やアホ共。
鈴音には注文されない限り客に近づかないように言ってある。
「はあ、鈴音。ゴンじぃの所に行ってきな。本を貰った礼もまだ言ってないだろ?」
そうだった!とゴンじぃの方へ走っていく鈴音を見てからイーナの注文を取りに行く。
イーナは多少むくれては居たがそのあとは何時ものやり取りだった。
気になってじじぃの方を見てみると。
鈴音の笑顔にデレデレの孫バカが居た…
あぁ、じじぃのプレゼントだが。
とても新しい『本』だった、しかもすべて紙に書かれた高級品の筈なのだが…内容は幼児から大人まで使う『言葉の使い方』だった。
しかも書かれて1時間と経ってない。
ページの隅に急いで作った時に落ちたのか、インクが染みていた。
あのじじぃ帰ってから『本』を作らせやがった…
流石王族、権力の無駄使いだ。
そこたら中から鈴音を呼ぶ『スズちゃんコール』がする中1人の客が入って来た。
「おい~っす!イチ。のみに来たぜ1人だけど」
バカ1名追加です。
「グレドか、いらっしゃい。適当に床にでも座ってくれ」
「いや、そこはカウンターを進め……」
ん?グレドが鈴音を見て固まっている。
イカンな、またレニアに何か吹き込まれるかもしれん。
先に説明して置くか?
そう思って口を開こうとした矢先、グレドが声を発した。
「……可憐だ」
は?こいつは今何て言った?
「可憐だ。おいイチ!あの子の名前は何てんだ?教えてくれ!」
「2回も言うな、嫌でも認識してしまっただろうが……そして、上気した顔を近づけるな。殴りたくなるだろう?イケメンが」
「殴られたら教えてくれるのか!」
そんなことは言ってない。
「必死すぎるぞ、自分で聞けばいいだろう?」
「だって、お前…恥ずかしいだろ?」
そう言って照れながら頭を掻くグレド…正直、友人を辞めたくなった瞬間である。
溜息を1つ付いてこいつに鈴音の名前を教えていいのか本気で考えた。
結局店内に鳴り響く『スズちゃんコール』で気づかれた訳だが…
それからという物、グレドは帰って来る頻度が年2回から半年3回とかなり多くなったし。
来るたびに辺境の珍しい花を魔法処理して鈴音にプレゼントしている…
最近は…「のみ来たぜ!お義父さん!」などと抜かして『ネリネ』の客全体に睨まれている。
まあ、鈴音から「…コウお父さん」と呼ばれたときは不覚にも涙が出たが…
とりあえず、グレド。
娘(まさか子持ちになるとはな)が欲しくばこの俺…
とペロそして常連、その他もろもろを倒してからにしろ!
……鈴音が嫁に行くときは苦労しそうだな、貰い手が。
実はこの話を最後にしばらく「愚痴ぐらいは聞いてやる」をお休みさせていただきます。
新しくファンタジーものを書いていて俺には同時に2個とか器用な事が出来ないことがわかりました。
本当にすいません。
できれば新しい物も読んでいただけると嬉しいです。
by、ミスター