俺と猫耳。
おっさんの名前と容姿を追加と多少の変更有。
ここは王都の裏路地の一角、細々と営業する一軒のバー。
少々古めかしい内装の店内は昼間だからか客は一人だけ。
店内はきれいに清掃されており、店主の冒険者時代の愛剣のショートソード(安もの)が飾られている。
店主いわく「なんかそれっぽいだろ?」だそうだ。
「ふぅ」
俺は高田 公一。
18歳の時にいわゆるトリップと言うやつでこの世界コーラリアに来たんだが…
こっちに来て7年。
最初は生きるため稼ぐため、と冒険者とかやっていたが、いろいろあって今はこの店「ネリネ」の店主だ。
ぜひマスターと呼んで欲しい。
客は誰も呼ばないが…。
飾ってある愛剣は日替わりで愛槍、愛斧、愛杖と変える。
愛剣以外もらい物だ。
なんでこんな話をしてるのかと言うと、まあ、現実逃避だ。
「でよ〜、コウ。その時のアイシャが可愛くてニャ!」
野太い声が店内に響く。
「おっさん、うちは愚痴や相談には乗るが惚気は受け付けてない。」
「まあいいじゃねえか、どうせ客もいないしニャそれともあれか僻みかニャ?」
「ああ、僻みでいいから一発殴らせろ。一番安い酒で何時間も惚気やがっていい加減ツケ払え!」
このおっさんの名前はディザスター・コールマン。
悲しいことに常連である。
ニヤつく顔がたまらなく似合わない。
一応冒険者である、顔に至ってはどこの盗賊の頭だと言いたくる。
どら猫の耳がついた、ゴリラに山賊の顔が付いているのを想像してくれればそれが『おっさん』だ。
意外と素直な性格と顔が合ってない。
俺の世界では【災害】なんて物騒な名前だが、コッチでは【誠実な男】を意味するらしい。
アイシャさんに対する姿勢は【誠実な男】と言ってもいいが、顔面は【災害】である。
「まあ落ち着け、そんなコウに相談だニャ」
キリっと擬音が付きそうなな真面目な顔をしおっさんが切り出す。
「なんだ、唐突に。あと顔が怖い」
…相談の内容は何となくわかった。
このおっさんひたすらに妻LOVEなのだから…
「相談の内容は…」
「もったいぶるなよ」
俺はおっさんのグラスを下げる。
「ちょっ!まだ飲んでるから!ゲフンッ、相談の内容は明日で結婚10年5か月目なんだニャ!何かいい贈り物をと思ってニャ!」
やっぱ、奥さん関係か…
ちなみにおっさんの奥さんの名前はアイシャさん。
金髪青眼のキツネ耳いわゆる獣族だ。
おっさんには勿体ないぐらいの美人で元ギルドの受付嬢、今はギルドで裏方をやってる。
おっさんの一目ぼれで必死こいて口説いたらしい。
夫婦仲は円満だがアイシャさんは真面目で、おっさんは金関係にだらしない。
アイシャさんは結構苦労しているらしい。
まあ、割とどうでもいい話だ。
ちなみに、ツケが貯まりすぎるとアイシャさんが払いに来てくれる。
ボコボコにしたおっさんを引きずって…
「プレゼントね〜 花束とかは?」
「それは、10年と4か月記念にやったニャ」
「一か月置きに記念日とか、もうすること無いんじゃないか?」
「それを相談しに来たんじゃないかニャ!なあ、『初心者賢者』さニャ〜?」
ふう、落ち着け俺。
ここでおっさんに殴りかかっても意味はない。
おっさんの冒険者ランクはC、熟練の冒険者だ。
かわって俺はランクDだ。
初心者ではないが熟練でもない、それ以前に22のときに大怪我を負いギルドに名前は残っているが実質引退している。
まあ、戦う才能なんぞ皆無だったからある意味ランクDを取れたのも奇跡に近い。
『初心者賢者』も冒険者時代ギルドや図書館にあったモンスターや採取関連の本を読み漁って覚えた知識に付けられた二つ名だ。
正直、初心者はいらない。賢者だけでいい。
…それは、それで恥ずかしいが。
まあ、物を知ってて女を知らないという意味の二重の称号だったんだが…。
ちなみにこの世界の人のほとんどが本を読まない、冒険者にいたっては読むより慣れろだ。
ギルドの人間や貴族と王族、あと商人なんかはちゃんと読むらしい。
「コウ大丈夫かニャ?」
「ん、すまない。それよりプレゼントだったな?」
「そう!アイシャのためなら多少の無茶だろうがやって見せるニャ!」
「食事でいいんじゃないか?」
「……?」
不思議そうな顔をして首をかしげるおっさん…
その顔でされても可愛くは無い。
「だから食事。たとえば王都ロイヤルホテルでディナーとか、20年記念とかなら指輪でもいいが。」
「おぉ〜、なるほど…って、さすがに高すぎるニャ!」
王都ロイヤルホテルまあ他国の要人や王族まで泊まるとんでもホテルだ。
「ならちょっち離れるが、コール湖のホテルは?あそこは飯も美味いし値段もおっさんなら問題ないだろ?」
コール湖、王都を中心に考え北東にある半日ほどで着ける美しい湖だ。
「それに、アイシャさん王都から出たことないだろ?ちょうどいいと思うんだが。」
この世界にハネムーンはない。
外にはモンスターがいるため結婚したら大体はその町から動かないのだ。
「お〜!さすが『初心者賢者』、コール湖に決定だニャ!」
「初心者賢者はやめろ!」
…なんか、適当に言ったら決定された。
彼女のいない俺に記念日の相談とかやめてください…
「まあ、決まったなら良いんだけどね。それといつも思ってたんだが…」
「なんだニヤ?」
「おっさんに猫耳はキツイ。それと語尾のニャはヤメロ。おっさん以外で聞いたこと無いぞそれ?」
「猫耳は生まれつきだ!語尾に関してはうちの村の習慣で昔の勇者さまが決めた有難いものだニャ!」
あぁ、昔の勇者さまはこんなおっさんまで使うと思わなかったんだろうな…
「そうか、いやすまない。どうしても気になってな?」
「気にしないニャ、この語尾をアイシャは可愛いって言ってくれるニャよ〜」
あ、惚気入りました。
ウダウダと惚気を披露していくおっさん。
いい加減ウザイ。
「そろそろ、帰るわアイシャも待ってるしさっそく伝えて明日はコール湖に出発だニャ!アイシャ待ってろニャ〜!!」
日が落ちてきたころやっと話を切り上げた。
まるで疾風!と言わん勢いで帰路につくおっさん。
「あっ、おいっ!またツケかよ…明日は出発よりも先にボコボコのおっさんが見れるかもな。…南無」
おっさんの末路を想像し静かに手を合わせる。
が、予想外にその日のうちにツケを払いに来たアイシャさんとボコボコにされ引きずられたおっさんが王都で目撃されたのだった。
アイシャさんはニコニコだったためよほど明日が楽しみなのだろう。
騒がしくてすまんが。
これが、俺の日常だ。