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ステータスの具現化

久しぶりの投稿

「申し訳ありません。勇者様方の人数は四人の予定だったものなので……」


「いや、いいですよ。寧ろ、豪華な部屋の方が落ち着かないと思うし……」


「では、謁見の準備が整い次第お呼びしますので」


「あ、はい。解りました」


「それでは、失礼します……」


 トムは案内人が去った後、直ぐ様部屋に設置された鏡台の鏡を除き見る。

 そして、ログアウトしたにも関わらず盲目となったままである左目に“魔力”を込める。

 すると、先程まで黒かった瞳が深紅に染まり、その上に碧色の六芒星が浮かび上がる。

 これはゲーム内において、強化の魔眼・神格化を発動した時に現れるエフェクトであった。


「やはり……か。隻眼の状態が持続してるモンだからまさかとは思ったけどな。なら、こっちは…………?」

 左手の袖を一気に捲ると、トムの案の定、手首から肩に駈けて複雑な魔方陣が刻まれていた。


「古の大魔神の腕は健在か……」


 『古の大魔神の腕』とは、ドラゴンファンタジー24のグランドクエストにおいてのラスボスにあたる存在『上方の支配者メルキ・C・デス』の最終形態を両腕の部位破壊をした上で倒すと手に入れられる“魔法触媒”である。一度しか戦えないので、手に入れるチャンスも自然と一度限りとなる。

 魔法触媒としては随一の強力さを誇る古の大魔神の腕なのだが。そのシュールな見た目から、トムですら使う事を躊躇われていた。

 しかし、ある日、彼は隻眼を手に入れた時と同じようにミスを犯して左腕を部位欠損してしまう。その際に隻眼の時の経験によって機転を利かしたトムが古の大魔神の腕を腕の無くなった左肩の断面に合わせてみると、くっついてしまったのだ。その結果、古の大魔神の腕の能力は直接トムの身体と繋がったからか大幅に魔法触媒としての性能を上昇させたのだが、職業『破壊神』でいる限り装備欄から外せなくなったのだ。

 しかし、ポジティブなトムは折角なので、古の大魔神の腕の耐久度を活かした手法として、拳を使うスキル『神級体術』を習得したのであった。魔法触媒は武器扱いなので“付呪(エンチャント)”を掛ける事も出来る。そして、その状態で放たれる攻撃は凄まじく威力は高い。トムはプレイヤースキルは勿論の事、持てる能力を活かす事においてもずば抜けてセンスを持っていた。これもまた、愛のなせる業というべきか。


「流石に此所で“巨腕化”するのは御法度か……。なら次の確認は……『全防具召喚(コール・フルアームド)』」


 トムがそう言った瞬間、黒い靄が彼の足下から現れる。その靄は彼の身体中を覆っていき、やがて形がハッキリと整っていき漆黒のフルプレートアーマーとなる。


「良かったぁ~。これが出来なかったら、腕以外のアイテム類が全損になっちまうとこ『ベキッ』……ん?」


 物が軋む音が聞こえる。

 トムは発生源である下方向を恐る恐る覗く。

 すると、床には蜘蛛の巣状の模様がトムの足下を中心に描かれていた。簡潔に正体を述べると亀裂である。鎧の重量に床が耐えられなくなったのであろう。


「やっばぁ!『全防具返還リバース・フルアームド』!」


 トムがそう言うと、鎧は靄となって霧散し掻き消える。


「…………ふぅ。まあ、いい。よし、じゃあ『ステータス』!………………やっぱ無理かぁ…………。空間魔法を応用して汎用化させたっていう設定がある『コール』とは違ってステータスボードは恣意的だし、単純なゲームシステムだから設定という設定がないもんな……。そうか、設定の具現化か……!」


 あることに気付いたトムはハッとしたような表情を取る。


「取り敢えず、何らかのトラブルがあって俺は召喚に巻き込まれる筈だったけど。たまたまその時の俺はドラゴンファンタジーをログアウトする過程だった。その途中で召喚された事によって、現実とゲーム内の俺が曖昧になって融合したって訳か……。フフ、我ながら中二な解釈だな……。何か悲しくなったきちゃった……」


 トムは取り敢えず窓の外を見て世界がどのようになっているのか確かめた。


「中世西欧の王道を突っ走るような城下町の光景を生で見せてくれて有り難う……!召喚されるのも悪くない!」


 トムはこの世界に来て初めて違う世界に来た事を実感する。


「これって戻れないパターンなんだろうなぁ。…………ウォォォオオオオオオオオオオイ!!!!!新作出たらどうすんだよォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!」


 トムの頭に目眩が襲い掛かる。これから出るであろう『ドラゴンファンタジーシリーズ』の新作をプレイ出来ないというのは彼にとっては万死すら生温いとも思えるような苦行であった。


「ナナナナナナナナナ何としてでも帰らなくちゃァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


 気が動転したトムは部屋中を転がり回る。

 すると、突然ドアがノックされる。


「……ゴホンッ。謁見の準備でも整ったのかな?……はいはーい。今開けますねー」


 トムは一旦自分を落ち着かせた後、すぐに両開きのドアまで駆けつけノブを捻って押した。それと同時に、何かがドアとドアの間に滑り込むように差し出された。

 それは直剣の刃の先端であった。


「はいぃ!?」


 トムは目の前の状況を認識する為に一瞬硬直する。その間に刃先はトムの右肩にまで接近する。そして、刃先はトムと間髪を挟むだけの距離にまで肉薄する。

 それを見かねたトムは、取り敢えず危ないので刃先を掴んで止めた。

 向こう側にとっては、それが意外だったのか素っ頓狂な声をあげて相手は驚愕する。


「な、何だとぉ!?」


 トムに剣を振り下ろしてきたきたのは、顔を隠し全身を黒尽くめの服装で統一した長身の者であった。


「え、えー。何だとぉとか言われてもこっちが困るんですけど?え、ちょ、マジでどうなってるですか!?」


「チッ」


 このままの状態では不利と悟ったのか、距離をとるために剣を振るってトムの拘束を解こうとする。

 しかし、剣を掴んだ状態のトムの手がそれを許さなかった。


「な!…くっ……」


「あ、すんません」


 得物を必死に引っ張ってる状態の相手を慮るのも億劫だったトムは、そのまま手を離す。当然、相手は本気で剣を引いていたものなので、いきなり向こう側からの力が無くなって釣り合いが取れなくなった今、後ろに勢いよくたたらを踏む他なかった。そして、無様に背後の壁にぶつかる。


「ぐっ……」


 頭でも打ったのか相手はそのまま崩れ落ちた後、立ち上がることはなかった。


「なっ!?どうしたというのだ、『ダガー』!」


 倒れた男の横合いからもう一人の男の声が驚愕して掛けられる。

 どうやら、相手は一人だけではないらしいと、トムは気付く。

 そして、彼は徐に半開きとなっていたドアを全開になるように押し開けた。

 開けた視界の中に入ってきたのは、倒れた男も含めて二人の黒尽くめの集団であった。


「ちっ。奴め、不意打ちだというのにミスを犯しやがって……!」


 男はトムを見つめながら徒手で構える。


「ん?すまないんだけどさ……どういう状況なの、これ?」


 それに対して男は素っ気なく返す。


「その言葉、暗殺者が冥土の土産を対象にくれてやるとでも思ってか!」


 男は言葉を言い終える前にトムへと殴りかかった。凄まじい動体視力でそれを見切ったトムは、高い敏捷値の恩恵である強化された反射神経と身軽さによってノータイムで身体を男の背後まで身体を持っていく。

 そして、男が拳を振り切る前に、それを掴み、それなりに鋭い拳打から発生した(けい)(運動エネルギー)のベクトルを()懸かった繊細さで下方向に転じる。男はトムの凄まじい体術の片鱗すら認識する暇すらもなくに廊下の床に叩きつけられる。


「が……っ……」


 トムが今行ったのは合気や化勁と呼ばれるような柔術の類いの体術である。

 神級体術の恩恵は何も拳打に限らない。柔術の他にも、縮地法といった特殊な歩法や変幻自在な重心の移動による効率的な回避術などもある。

 先程の男の背後に回った際の歩法も神級体術の恩恵である。


「スパコンのバックアップは無いけども、体術系スキルは健在、と……。この状態なら究極の剣もまた健在か……」


 しかし、これほどの恵まれた力を得ようともトムの心は満たされなかった。


「出来ればドラゴンファンタジーの世界に来たかった……」


 というか、トムにとってはステータスを引き継がなくても良いからあちら側に行きたいところである。

 トムが好きなのはファンタジーではなく、あくまでもドラゴンファンタジーなのである。本当の話、ドラゴンファンタジー以外のファンタジーに興味なんて屁ほどもなかった。

 その上、故郷の世界から放り出されてしまった故にトムの意気は消沈の極み。

 だが、トムは割と立ち直りの早い少年。


「いや!こういう事象があるってことはもしかしたらあっちの世界にも行けるかもしれないって訳だ!むしろプラスな話じゃないか!」


 トムは決意する。

 ドラゴンファンタジーの世界に行く為にも、家族に会う為にも、まずはこの世界からの脱出手段が必要がある。彼はそれを手に入れる為にこの世界を探求することを決意した。


「こうなったら城になんて留まっていられない!早速……」


「ハッ……これは一体……!」


「でぃてぃ!?」


 トムが決意を胸に城の壁を破壊しようとした瞬間、彼の背後から驚きの声がかかる。思わず、跳び退るトム。

 そこにいたのは先程の黒い装束をまとった王女の妹君であった。


「んん……」


(どうしたもんかな……。やっぱり安全に事は終わらせたいんだよなぁ……。でも、精神魔法もってないから選択肢限られるんだよなぁ……。まあ良いか。うん、決めた。普通にこの子は……)


 長いようで一瞬の思案の末にトムの頭に浮かんだ思考は物騒なことこの上なかった。


(――殺そう。どうせ異世界の人だし)


 トムは密かに人差し指を親指で押さえて第三関節を鳴らした。

ちなみに浪人決定

悲しいなぁ(^ω^)

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