第二話 大きな傷
その時私は、泣くことしか出来なかった。
彼の抱えているモノ全てを知りたいだけなのに、彼は、千君はなにも言わない。
「千君は、どうして私と付き合ってるの?」
柚花の問いに千は申し訳なさそうに俯いた。
「他に好きな人がいるんでしょ…。」
柚花の問いに千はゆっくりと口を開いた。
「ふっ切れた…つもりだったんだ。だけど、やっぱり忘れられなくて…。気持ちを隠すように長袖を着て。これは身勝手な俺の自己防衛。なのに柚花さんも傷つけて…。」
そう言って千は長袖を捲くった。そこにあったのは、まるでナイフの様な鋭い刃物で切り裂かれたような大きな古い傷跡。
柚花は目を大きく見開いて…言葉を失った。
「これは五年前、ある人を庇って出来た傷なんだ。いつも傍にいたのに、沢山のモノを失ってから自分の気持ちに気が付いた。彼女から逃げる様に距離をおいて、彼女が失ったモノから目を背けたんだ。」
「そんなに好きならなんで逃げたりするの?好きだって言ってあげればいいじゃない。その人は千君のこと、好きだったかも知れないじゃない。」
柚花は必死に声を出した。泣いているのを悟られないように。自然に。
「花は俺を好きじゃない。俺は花を好きでいちゃいけない!この想いに気付いちゃ駄目だったんだ。初めから俺の失恋は決まってた。」
「好きになったらいけない人なんて…」
柚花はどうしていいのか解らなかった。千が取り乱すのを見るのは初めてで、『好きになったらいけない人なんていない。』そういうのが精一杯だったのに、千はそれを遮った。
「花は、俺の妹だよ。」




