初めてのプロポーズ(最終話)
それを聞いて、一瞬頭の中が真っ白になった…
「先生、それはどういう事ですか…?」
僕はその言葉の意味をすぐには理解できなかった。
「まだはっきりとは…どこまでの記憶がないのかも…」
と医者は答えると、僕に妻がいる病室を伝えた。
僕は戸惑いながら妻がいる部屋へと向かった。
部屋の前まで来ると、一呼吸おいてから僕はそっと扉を開けた。
妻は起きていた。予想外だった…、とっさにでた言葉が
「調子はどう?」 だった。
すると妻は、
「新しい先生ですか?こんな遅くまで大変ですね…お陰様で。」
そう発した妻に僕は何も言えず、部屋を後にした…。
妻の記憶からは僕の存在は消えていた…。
夜の病院の待合室は暗く、静かだった。
ベンチが見える。
僕はそこに腰を下ろすと、自分が今までにしてきた妻への裏切りを思い返した。
罰が当たった…
今までの妻との思い出が頭の中を埋めつくす…。
もっと大切にしてあげていれば…
しばらくすると、足音が聞こえた。杉山か…。
「奥様が事故に遭われた時に持っていたようなのですが…」
と僕に何やら紙袋を手渡した。
僕はその袋を開けた。
誕生日ケ-キ…。
事故の衝撃だろう、その箱は無惨にも押し潰れ、中身が飛び出ていた。その袋の隅には「雅紀へ」と書かれた手紙が入っていた。
僕宛ての手紙だ。
僕はそれを開いた。
雅紀へ
お誕生日おめでとう。
雅紀の好きなチョコケ-キ。
ちょっと大きいから二人で食べきれるか心配…
色々喧嘩もするかもしれないけど、これからも仲良くしていこうね。
貴方に出会えて本当に幸せです。
恵美子より
眼の中が熱い……
泣いているのか…
そこからの行動はあまり覚えていない…
ただ気づくと、僕は妻の病室にいた。
「……僕と…結…婚して頂けませんか……?」何を言っているのだろう…。
身体全身が震えていた。
妻は何も言わなかった…
ただ僕の顔をじっと見つめ静かにうなづいた。
その頬に光るものが見えた。
妻にした初めてのプロポーズだった…。