第6話:祖母の過去と勇気
夕暮れ時のキッチンには、温かい光が差し込んでいた。
葵は窓際の椅子に座り、祖母が湯気の立つ紅茶を差し出すのを待っていた。
「今日は、ちょっと話してみようかしらね」祖母の声は穏やかで、けれどどこか重みがあった。
葵は紅茶のカップを手に取り、深く息を吸う。香ばしい香りが心を落ち着かせる。
祖母は昔話を始めた。若いころ、彼女も孤独や恐怖と向き合い、助けを求められず迷った日々があったという。
「怖くても、踏み出さなきゃ何も変わらなかったのよ」
その言葉に、葵の胸がぎゅっと締め付けられる。孤独で怖がりな自分と、重ね合わせずにはいられなかった。
窓の外では、雨がまだかすかに残り、庭の木々に滴が光る。
臆病な犬は庭で小さく鼻を鳴らし、肩の上で安心した呼吸をしている。
葵は犬を抱きしめ、祖母の言葉を反芻する。
「怖いのは私だけじゃない…みんなもそうだったんだ」
祖母は続ける。「だから、人を信じて助け合うことが大事なのよ」
葵は心の中でつぶやく。「亮も奏も、犬も…みんな、勇気をくれる」
その思いが胸の奥で小さく膨らむ。心臓の鼓動が、希望のリズムと重なっているように感じられた。
夕食の支度をしながら、祖母は昔の話を具体的に語る。
火事で大切なものを失った経験、初めてのボランティアでの不安、そして小さな命との出会い。
その一つ一つが、今の葵の勇気に重なり、過去と現在が交錯する瞬間が生まれる。
葵は気づく。自分の中の恐怖や迷いは、経験と信頼、優しさによって少しずつ解けていくのだと。
犬の体温、紅茶の温もり、祖母の声――すべてが胸を温め、未来に向かう力を与えてくれる。
夜になり、葵は布団に入ると、今日の会話を反芻した。
「怖くても、踏み出す勇気を持とう」
心の中で小さく誓う。犬との日々、仲間との交流、そして祖母の教えが、自分を支える光になる。
窓の外には、まだかすかに雨の匂いが漂う。
庭の木々の葉に残った水滴が、夕焼けに照らされて金色に光る。
葵は目を閉じ、肩の犬を抱きしめる。
恐怖や孤独の中で芽生えた小さな勇気は、確かに胸の奥に根を下ろしていた。
「明日も、怖くても前に進もう」
そう心の中でつぶやくと、深い安堵と希望が体中に広がった。




