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第5話:友情と小さな事件

雨上がりの施設の庭には、まだ水たまりが点在していた。

臆病な犬は最初、柵の端で固まり、雨に濡れた毛を小刻みに震わせている。

葵は肩に犬を乗せ、そっと手を差し伸べる。亮と奏もその隣に立ち、三人の視線が犬に集まる。


「行こうか」葵が低く声をかけると、犬は一瞬躊躇したが、少しずつ前に進む。

庭を歩くたびに水たまりに足を取られ、犬は滑って転びそうになる。

「大丈夫!」亮が手を差し伸べ、葵も支えながら笑う。

犬は小さな鳴き声をあげながらも、二人の手に触れることで安心感を得る。


その瞬間、犬が勢いよく走り出した。

水たまりを蹴散らし、庭の小道を駆け回る。

葵は追いかけながら、思わず声をあげる。「待ってー!」

亮も奏も慌てて追うが、犬は楽しそうに跳ねながら水しぶきをあげる。


犬は突然、書類や小物の置かれたテーブルに突っ込み、紙がぐしゃりと散らばる。

仲間たちは驚き、思わず吹き出す。

「もう、何やってるの!」葵もつい笑い声をあげた。

緊張と笑いが交互に押し寄せ、庭は不思議な温かさに包まれる。


犬を無事に抱き上げると、仲間たちの距離も自然と縮まった。

亮が言う。「名前、そろそろ決める?」

葵は犬の瞳を見つめ、小さく頷く。「うん…でも一緒に考えようね」

奏も微笑む。犬の小さな体温と鼓動が、三人の心を柔らかくつないでいく。


午後、施設の中では犬たちが駆け回り、鳴き声と笑い声が交錯する。

臆病な犬も、少しずつ安心して体を預けるようになった。

葵は毛を乾かしながら深呼吸する。胸の奥に温かさが広がり、孤独だった朝の自分が遠い記憶のように感じられる。


夕方、庭の水たまりに夕陽が差し込み、犬の毛が金色に輝いた。

葵はそっと肩の犬を撫でる。「今日もよく頑張ったね」

亮と奏も隣で微笑み、静かにその光景を見守る。

言葉は必要ない。ただ、共有する時間が、心を確かに温める。


その夜、葵は布団に入り、今日の出来事を思い返す。

犬との小さな冒険、仲間たちとの協力、笑い合った瞬間。

胸の奥に、小さな光が残る。

「怖くても、一歩踏み出せば、誰かと心をつなげることができる」

その思いが、胸の中で確かに根を下ろした。


窓の外には、まだかすかに雨が残る。

水たまりに映る光、犬の小さな足音、仲間たちの笑い声――

すべてが交わり、孤独と希望が交錯する午後の庭で、葵は小さな決意を胸に抱いた。

「明日も、この子たちと一緒に頑張ろう」


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