第19話:ひかりの危機と、二人の決意
翌日の午前中、施設に不穏な空気が漂っていた。
ひかりはいつも通り元気に見えたが、歩き方がわずかにぎこちない。
葵は胸の奥に小さな不安を抱えながら、ひかりの側に寄り添った。
(昨日よりも……少し足が……痛い?)
亮も気づき、ひかりの歩くペースに合わせながらつぶやく。
「やっぱり……昨日の散歩、ちょっと無理させたのかもな」
葵は小さく首を振る。
「そんなことないよ……でも、やっぱり無理はさせられないね」
奏も静かに、でも真剣な表情でひかりを見つめる。
「今日は無理せず、休ませよう」
その言葉に葵の胸はぎゅっと締め付けられた。
(ひかり……本当にごめんね……)
---
昼前、ひかりの体調はさらに悪化し、
小さな震えとともに息が荒くなる。
「葵……ひかり、大丈夫か?」
亮がひかりを抱き上げ、真剣な目で見る。
「痛がってる……やっぱり病院に行こう」
奏も静かにうなずき、リードを手に取る。
施設の中は緊張した空気で包まれ、
普段の明るい笑い声は消え、ひかりの小さな呼吸だけが響いた。
---
病院に到着し、獣医師がひかりを診察する。
「これは……捻挫ではありません。少し内部で炎症が出ています。
炎症が広がると足に負担がかかり、歩けなくなる可能性があります」
葵の胸はぎゅっと締め付けられ、涙が溢れそうになる。
亮が葵の手を握り、肩を叩いた。
「葵……大丈夫だ。ひかり、絶対に守るからな」
奏もひかりの体を優しく撫で、静かに声をかける。
「落ち着いて、葵。僕たちがそばにいる」
ひかりは小さく鼻を鳴らし、二人の手の中で体を委ねた。
葵は胸が熱くなる。
(亮も奏も……こんなに私を支えてくれるんだ……)
---
午後、ひかりは入院することになった。
葵はキャリーを抱き、涙をこらえながら手を握る。
「ひかり……ごめんね、私……守れなくて」
ひかりは小さく鳴き、葵の手を舐める。
亮は不器用に肩を抱き、耳を赤くしてつぶやく。
「俺が守れなかった……でも、次は絶対守る」
奏も静かに、でも力強く葵の手を握る。
「一緒に頑張ろう、葵。ひかりのために」
その瞬間、葵は深く息を吸い、決意を固めた。
(私……ひかりを守る。
亮も奏も、みんなの力を借りて、絶対に守る……!)
---
夜、施設の宿直室で、葵はひかりの入院先に電話をかける。
獣医師からの報告によると、ひかりは安定しており、点滴で炎症を抑えているとのことだった。
「ひかり……大丈夫なんだ……」
胸に温かいものが流れ込み、葵の目に涙があふれる。
亮が隣でそっと手を握る。
「ほら……泣いていいんだぞ。俺も、奏もいる」
奏も優しく微笑む。
「葵の涙も、ひかりのための強さだよ」
葵は二人の存在に胸が熱くなる。
(亮……奏……ありがとう……)
---
翌朝、ひかりの様子を見に病院へ向かう途中、葵は胸の中で問いかける。
(私……亮と奏、どちらの気持ちをどう受け止めればいいんだろう……
でも今は、ひかりの命が最優先……)
亮と奏は自然に葵の左右に並び、ひかりを見守る姿勢をとる。
その姿は、無言の決意のようであり、深い絆の証でもあった。
病院の個室に入ると、ひかりはベッドの上で小さく丸まっている。
葵はそっと抱き上げ、額を寄せる。
「ひかり……よく頑張ったね。もう怖くないよ、私がいるから」
ひかりは小さく鼻を鳴らし、安心したように目を閉じる。
亮も奏も、そっと手を添え、葵とひかりを取り囲む。
その瞬間、三人と一匹の絆が、言葉では表せない強さで結ばれた。
---
夜、施設に戻った葵はひかりのためにできることを考えながら、決意を胸にする。
(ひかりの命を守る……
そして、亮と奏の気持ちも大事にしながら、
私の心も少しずつ整理していこう……)
胸の中で揺れる感情、ひかりの命の重み、亮と奏の想い――
それらすべてが、次の大きな奇跡を呼ぶ伏線となる。




