第18話:亮の告白と、奏の秘密
翌日の朝。
施設の庭には柔らかい光が差し込み、ひかりの寝顔を照らしていた。
葵はベッドの隣でそっと手を握り、ひかりが目を覚ます前にそっと撫でた。
(昨日のこと……ひかりが入院しなくてよかった……でも、胸のざわつきはまだ消えない)
ひかりの小さな呼吸が、葵の胸に深く染み込む。
守らなければという決意と、亮や奏への揺れる感情が交錯し、胸が苦しくなる。
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その朝、亮がいつもより早く現れ、ひかりのキャリーを運んでいた。
「葵……話がある」
その声には、いつもより緊張が混ざっていた。
葵は少し驚きながらも、「うん、何?」と応える。
亮は目を逸らしながら、手に汗を握る。
「……その、俺……あの……」
亮は言葉を詰まらせる。
葵は胸がどきりとする。
(亮……なに? なんでそんなに緊張してるの?)
奏はその様子を遠くから見守り、静かに目を細める。
微かに胸の奥が痛む気配を葵は感じた。
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亮はひかりを見て、深呼吸をする。
「葵……俺……お前のこと、ずっと……大事に思ってる」
その言葉に、葵の心臓が跳ねた。
亮の不器用な告白。
今までの優しさや心配が、すべてこの一言に凝縮されていた。
「え……亮……」
葵は驚きと動揺で言葉が出ない。
「俺……ひかりだけじゃなくて、葵のことも……本当に大切で……」
亮は顔を赤くして視線を逸らす。
その瞬間、奏が静かに近づき、葵に向かって小さく笑う。
「亮……ありがとう。でも、葵の気持ちは葵自身が決めることだよ」
その言葉には温かさがあったが、どこか寂しさも含まれている。
葵は胸がぎゅっと締め付けられる。
(奏……なんでそんな顔してるの……)
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その日の午後、施設の裏庭で三人とひかりは散歩に出た。
ひかりは少しずつ元気を取り戻しており、葵の足元でゆっくり歩く。
亮は照れくさそうに、でもどこか楽しそうにひかりを見守る。
奏は静かに、でも鋭く葵と亮の様子を見つめている。
(奏……なんか知ってるのかな……)
葵は胸がざわつくのを感じた。
そのとき、ひかりが急に足を止め、草むらをじっと見つめる。
小さな猫が隠れていたのだ。
「ひかり……また?」
葵は駆け寄ろうとするが、亮が手を差し伸べる。
「葵、無理に近づくな。ひかりがびっくりする」
亮の不器用な優しさに、葵の胸はまたぎゅっとなる。
奏は静かに近づき、猫を優しく抱き上げる。
「大丈夫、ひかり。焦らなくていい」
ひかりは少し安心した様子で、葵の足元に寄り添った。
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その夜、施設の宿直室で、葵はひかりを抱きながら考えていた。
亮の告白、奏の微妙な表情、そしてひかりの小さな体調の変化。
(私……どうすればいいの……?
亮のことも、奏のことも大事……でも、ひかりがいるからこそ迷う……)
そのとき、奏が静かに葵の横に座った。
「葵……実は、ずっと言えなかったことがある」
葵は息を呑む。
奏が何を話すのか、胸が高鳴る。
「僕……昔から犬や動物が好きで、施設でボランティアを続けてきたんだけど……
その理由は、家族を失った寂しさからだった」
葵は驚きとともに、奏の瞳を見つめる。
「……寂しさ?」
奏は小さくうなずく。
「僕、ずっと心のどこかで、ひかりのような存在に支えられたくて……
だから、ひかりのことを大事にしながら、葵のことも守りたいと思ってしまう」
葵は胸が締め付けられるような痛みと温かさを同時に感じた。
(奏も……亮も……どっちも私を思ってくれてる……)
ひかりが膝で小さく鼻を鳴らす。
まるで「大丈夫だよ」と言うように寄り添う。
葵は深く息をつき、涙がぽろりとこぼれた。
「ありがとう……奏……亮……ひかり……」
その小さな声に、夜の静寂が柔らかく包まれる。
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その夜、三人とひかりの間に静かな絆が芽生えた。
亮の不器用な告白、奏の隠された想い、そしてひかりの存在。
この小さな奇跡のような日常は、
次の大きな試練に向かう前の、ほんの一瞬の静けさだった。
――胸の奥で揺れる感情は、
これからの物語をさらに深く、感動的に導いていく予感に満ちていた。




