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第16話:揺れる三角関係と、ひかりの不調

午後の光が差し込む施設の庭は、柔らかい風と小鳥のさえずりに包まれていた。

葵はひかりを抱きながら、心の奥にざわつく感情を感じていた。


ひかりが選んでくれたこと――

嬉しさと安堵で胸がいっぱいになる一方、

亮と奏、二人への感情が、ますます複雑に絡み合っていた。


(私は……どうしてこんなに胸がドキドキするんだろう……)


ひかりが小さく鼻を鳴らし、葵の手をじっと見上げる。

その瞳に、無言の信頼と愛情が宿っている。


「ひかり……あなたのためなら、私は何だってできる」


そう胸でつぶやいた瞬間、ひかりが小さく震いた。


「ん……?」

葵が顔を近づけると、ひかりは少しだけ足をかばうように立っていた。


(え……どうしたの?)


亮が心配そうに駆け寄る。


「葵、ひかり、ちょっと足を見せろ」

亮の声に、葵は自然とひかりを抱き上げた。


ひかりは小さく鳴き、目を細める。


「……やっぱり、少し痛めてるな」

奏が優しく言う。


葵は胸がぎゅっと締めつけられた。

(ひかり……ごめん……昨日の散歩で無理させたかな……)


亮は悔しそうに拳を握った。

「俺が気づけば……」


「亮……あなたも悪くないよ」

葵が咳払いをして言う。


亮は顔を逸らし、もじもじしながら小さくつぶやく。

「……でも、心配だろ……普通……」


その言葉に、葵は胸が熱くなる。

亮の不器用な優しさが、ひかりだけでなく、葵にも向いていることに気づいた瞬間だった。


奏は静かに、でも少し痛々しそうに、葵の横顔を見つめる。

「亮……気持ちは分かるけど、葵のペースも大事にしてあげて」


その声に、葵は胸の奥で微妙に揺れるものを感じる。

亮の熱、奏の静、どちらも自分にとってかけがえのない存在だ。



---


その日の午後、三人とひかりは施設近くの川沿いを散歩することになった。

ひかりはゆっくりと歩き、時々立ち止まって草の匂いを嗅ぐ。


しかし、葵はふと違和感に気づく。

ひかりの足取りがいつもより慎重で、時折立ち止まっている。


(やっぱり……痛いのかな……)


葵はひかりを抱き上げようとした瞬間、亮が強く手を止める。


「葵、無理はダメだ!」

亮の声が少し震えている。


「でも……ひかりが動きたいみたいで」

葵は穏やかに答える。


「でも危ないだろ……俺が見てるから、俺と奏に任せろ」

亮はその目で、必死に葵を守りたいと訴えている。


葵の胸がぎゅっと痛む。

(亮……本当に心配してくれてるんだ……)


奏も優しく手を添えて言った。

「葵は安心して、ひかりのそばにいていいよ。僕たちが見守るから」


ひかりは二人の間で目をぱちぱちさせ、どちらに寄るか迷っている様子だった。



---


そのとき――

ひかりが急に小さく悲鳴を上げ、足をかばうようにしゃがみ込む。


「ひかり!? 大丈夫!」

葵は思わず駆け寄る。


亮も奏もすぐに手を伸ばす。

ひかりは小さく震え、息が荒い。


「……骨折じゃないけど、捻挫かもしれないな」

亮が診断する。


葵の胸がぎゅっと締め付けられる。

涙がぽろりとこぼれる。


(ひかり……ごめん……私が……)


亮が葵の肩に手を置いた。

「大丈夫だ、葵。ひかりは強い子だ」

不器用だけど確かな励まし。


奏も優しくひかりを抱き、穏やかに声をかける。

「焦らなくていいよ、ひかり。ゆっくり治そう」


三人とひかりが固まって立っている姿は、まるで一つの家族のようだった。



---


帰り道、夕暮れが川面に赤く映る。

ひかりは葵の腕に頭を預け、ゆっくり息をしている。


亮は少し離れて黙って見守り、

奏も静かに隣に立っている。


葵はひかりの温もりを胸に感じながら、ふと亮と奏の顔を見た。


(私は……どっちのことも大事に思ってる。

 でも、どうしたらいいか分からない……)


心が揺れ、涙があふれる。


ひかりが鼻先で葵の手をそっと押し、まるで「大丈夫」と言うように寄り添う。


その瞬間、葵は強く感じた。


(ひかりを守ることが、今は私のすべてだ)


そして、亮や奏の存在も、

私が大切にしなければならない光のように胸に響いた。



---


夜。

施設の裏庭で、三人とひかりは静かに座る。

空には星がちらほらと瞬き、ひかりは安らかに眠る。


葵は胸の中のざわつく感情を抱えながら、そっとひかりを抱きしめた。


(私の気持ちはまだ整理できない。

 でも、ひかりがここにいることが、何よりも幸せ……)


亮は少し離れて腕を組み、視線を葵に向ける。

奏も穏やかな表情で、でも心のどこかで緊張している。


この夜、三角関係の火種は静かに燃え始め、

ひかりの不調は、物語の大きな伏線として胸に刻まれた。


――そして、読者の涙腺を決定的に揺さぶる“神回”の予感が、静かに漂っていた。


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