第1話:雨音の孤独
雨の音が屋根を叩き、灰色の空が窓いっぱいに広がっていた。
葵は机に肘をつき、膝を抱えて外を見つめる。雨粒が頬を打ち、小さな痛みが孤独感を押し広げた。
祖母の台所での水音や茶碗を拭く音が微かに聞こえる。ほのかな温もりを感じながらも、胸の奥はまだ冷たい。
机の上には、幼いころの自分と亮の写真、そして小さな犬を抱く写真が並んでいた。
指先で写真の縁をなぞる。思い出すのは笑顔ばかりではない。孤独、迷い、恐怖。胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
窓の外、雨の合間にかすかに小さな鳴き声が響く。
「…誰の声?」
耳を澄ますと、かすかな震えのような音が混じる。胸がざわつき、思わず窓を開けたくなるが、外は冷たく、雨が吹き込んできた。
部屋の中を見渡す。祖母は洗い物に夢中で気づかない。小さな影が庭を横切ったように見えた気もする。
葵は息を止め、耳を澄ます。
もう一度、犬の小さな鳴き声。鼓動が早まる。胸の奥に、何かを求める衝動が湧き上がる。
夜、葵は夢の中で臆病な犬と向き合っていた。
犬は怯え、体を震わせ、逃げようとする。葵は手を差し伸べるが、怖くて踏み出せない。
心臓が跳ね、息が詰まる。涙が頬を伝う瞬間、ふと気づく。「怖くても、前に進まなきゃ…」
目が覚めると、胸に小さな決意が芽生えていた。
雨はまだ降っているが、窓の外の庭に、何か小さな光が差し込むような気がした。
鼓動が少しずつ落ち着く。けれど、胸の奥には、まだ名前も知らない存在への期待と不安が渦巻いている。
葵は布団を払い、立ち上がった。
「今日、あの子に会いに行こう」
小さな声で自分に言い聞かせる。外は冷たい雨のままだが、心の中にかすかな温もりが広がっていた。
鼓動に合わせて、雨音が心の奥でリズムを刻む――孤独と希望が交錯する朝の庭で。




