第12話 迫力が足りませんの!
ライブが終わって1日が経った
未だに、あの余韻が頭から抜けない
あの体育館にいる観客全員、私たちのことを見ているということに
優越感……!
「朝から呆けた顔をするな」
隣にいた颯に突っ込まれ
「呆けてないもーん」と反抗する
そのまま部室に入ると
既に志保さんが機材の準備をしていた
「あら、芽衣さん、ごきげんよう」
「こんにちは志保さん!」
昨日、あんな無理やりアイドル部に入らされたのに
真面目に部活動するなんて、凄いなぁ
と思ってると、志保さんは颯を見て悲鳴をあげた
「ひやぁぁぁぁあ!?な、なんでこの神聖なアイドル部に男がいるんですの!?」
あ、そうか、颯の男姿みたことないんだ
パニックになってる志保さんを落ち着かせ
私が女装アイドルとして一緒に出て欲しかったと伝えた
「ま、まさかあのお方が男性だったなんて…少し抵抗はありますが、貴方達が納得しているのならば、あたくしも納得しますの」
よ、よかった
ここで男子はゲスー!とか言って追い出されなくて
「しかし、女装してまでアイドルをして、颯さんは何を目標にしてますの?」
志保さんの言葉に
「考えてなかったな……」とだけ呟いた
そんなこんなしてるうちに、真凜ちゃんやるんちゃんも合流して
最後に蓮ちゃんが来て、颯の話は流されてしまった
「蓮ちゃん遅かったね?」
「いやーバスケ部がうっさいんだよね。戻ってこないかって」
え、バスケ部に?
そっか、特待生なのに、ここにいるもんね
「よかったの?」
「あったりまえじゃん!芽衣と一緒じゃないと意味ないし!蛯沢にもまだ勝ててないし(ボソッ)」
蓮ちゃんがいいならいいけど……
「皆様、お揃いですね、今日はあたくしが特訓表を作りましたの!」
志保さんはそう言って特訓表を渡す
その中にはランニングやステップ練習など
どれも体力作りに関したものだった
「うわ……キツそう」と真凜ちゃんも嘆くし
蓮ちゃんは苦そうな顔をしてる
「うげ、なにこれ、運動しかねえじゃん」
「当たり前です!貴方達のライブは確かに魅力的ですが、迫力が足りないんですの!」
「だからって運動とか少年かよ」
「文句があるなら辞めても構いませんのよ?」
「なにぃ〜?」
「蓮ちゃん落ち着いて!一緒に頑張ろ、ね?」
「……芽衣が言うなら」
反抗的な蓮ちゃんを落ち着かせて
私達はグラウンドに出た
するとたまたま通りかかった亜希さんに出会った
スケッチを片手にサッカーをしてる生徒たちを眺めていた
私達に気づくなり、そのスケッチを閉じる
「やあやあアイドル部の諸君!今日は外で練習かい?」
「そうなんです!ランニングとか体力作りをしようとしてて、いい場所ありますかね?」
「それなら、この学校で1番運動神経のいい子を頼るといい!僕の知り合いだから、行ってみるかい?」
亜希さんの提案に賛同し
体育館に入った
そこにバスケしてる女性の一人を呼ぶ
筋肉質な体でめちゃくちゃスタイルいいな
「お、亜希パイセン!ちわ!なんか用すか?」
「この子達、アイドル部なんだけど、体力作りをしたいらしくてね、普段から特訓特訓言ってる君なら、なにかアドバイスを出せるんじゃないかと思ってさ」
「お!亜希パイセンが頼ってくれるなんて!分かりました!ヨシ、やるか!」
笑顔が豪快で、どちらかと言うと男っぽい人だな
と思ってると、私の後ろを見て「あっ!?」と指を指す
ん?と振り返ると、私の後ろに隠れていた蓮ちゃんがいた
あっ、そっか、ここバスケ部……
「お前!よくノコノコと顔出しやがったな!?」
「ひえ!?しょーがないじゃん!特訓のためなんだってー!」
「なるほどな、蓮はこの部活にいるのか……アイドルなんかやめて、さっさとバスケ部に戻ってこいよ!お前の才能ならオレとプロになれるぞ!?」
まだそんなに一緒にプレイしてないはずなのに
そんなに太鼓判押されるなんて
友達として鼻が高い……じゃなくて
このまま蓮ちゃんがいったらまずい!
「あ、あの!蓮ちゃん、私とアイドルしたいって言ってくれて!彼女の意思を尊重して欲しいというか!」
「いしぃ?…………それもそうだな」
思った以上にすぐ納得されて
ズコッとずっこけそうになる
あれ、案外説得出来る人だったのかな
「うし!じゃあ特訓すっか!オレの名前は安藤光だ!よろしくな!」
光さんは自分の胸をドン!と叩き自己紹介してくれる
真っ直ぐで良い人そう、特訓楽しみだな
【20分後】
……否、地獄だ
体育館ということもあってシャトルランをした
そんなの高校でも最近やらないことおおくて
体力不足でなかなかいい結果出せなかった
最後は颯と蓮の一騎打ちになって
100を超えたけどまだ終わりが見えそうにない
「はぁ……はぁ……すごいね、あの二人」
一応3番目まで生き残った真凜ちゃんは
死にかけで私の隣に座った
反対の隣では既に志保さんが息絶えかけている
志保さんから特訓と言った割に
私と変わらないくらいの体力だったな
「蓮ちゃんは特待生だし、颯は唯一の男だからね、凄いよね〜」
「あたし……はぁ、はぁ……体力割と自信あったんだけどな」
そんな会話してると、光さんからストップがかかり
2人とも120の時点でその場に倒れ込んだ
すぐにるんちゃんと亜希さんが飲み物を渡しに行く
「颯……あんた…………手加減しろって……」
「手加減したら意味が無いだろう……ふぅ」
「お前らナイス根性だな!ライブってのは何時間もすることもあるんだろ?体力管理しっかりしろよ!」
そっか、この前のライブは総合でも30分くらいだったけど
何曲も歌うこともあるもんね
頑張らないとなぁ……
「しばらくは光君に特訓を頼んだらどうだい?結果はすぐにつくと思うよ」
「お、任せろ!オレにとっても特訓になるしな!」
光さんの特訓が続くのか
でも、アイドルになるためだもんね!
……でも……ちょっとだけ思ったことあるんだよね
「あの、光さんはアイドル興味無いですか?」
一瞬沈黙が過ぎったあと
大爆笑された
近くで聞いてたバスケのチームメイトまで笑っている
「おいおい芽衣!お前面白いな!どう見ても向いてないだろ!」
「そ、そうかな?私、光さんのアイドル見てみたいです!」
「オレに殆ど女の感情なんか残ってないぜ?」
「そんなの関係ありませんよ!どんな人でもアイドルはなれると思うんです!」
「…本気かよ?」
「はい!」
「無理だよ安藤さんじゃ!」「そうだよこんなガサツなのに」
「まともに歌とか歌えんの?」「そもそもファン減るって!」
メンバーが口々に言ってるのを見て
ちょっとだけ真顔だった光さんは
すぐにいつもの笑顔に戻る
「だよなぁ〜!つーことだ!悪いな芽衣!特訓はちゃんとしてやるからよ!」
「う、うん……」
なんだか少しだけ考えてくれてたような……
遮られた気がする
結局その日の特訓は終わってしまった
その日の夜
光さんの動きがどうしても気になり
モヤモヤしながらベットでうつ伏せになっていた
んーーーーーーこういう時は……
颯に電話してみよ!!!
出るかな出るかな……ニコール目で出た!
『なんだ』
「今大丈夫?」
『そんなに急用か?』
「光さんと亜希さんの事でね、モヤモヤしてたから……」
私がそう言うと
パタンと何かを閉じた音と
ブチッと何かを指した様な音が聞こえた
多分、話を聞きやすいように
読んでた本を閉じてイヤホンを付けてくれたんだろう
『誰だってアイドルになりたい訳でもないだろう。そんなに悩むことか?』
「そーーーなんだけどね、2人とも訳ありな気がして……」
『流石のお前でも気がついたか。小鳥遊先輩は間違いなく何かあるだろう。安藤先輩は環境のせいだろうな』
環境のせい?
そういえば、メンバーにも笑われてたな
『芽衣が俺を絶対にありえないと思ったアイドルに出来たように、あの二人も今までの経験で強く拒むようになったと推測した方が妥当だろうな』
な、なんか難しい言葉を並べてる
今までの経験か……
それもそう、経験だけだったら私だってアイドルをやってない
きっと2人も、それを超える何かを見つけてくれれば……
「ねぇ!安藤先輩にライブ見てもらおうよ!」
『……急だな。アイドルの魅力を伝えるには十分だが、勝機は薄いぞ』
「アイドルって、可愛いものもあれば超カッコイイのもあるじゃん!安藤先輩でもなれるってことを魅せてあげればいいんだよ!」
『……なるほどな、で?その歌詞を俺に作れと』
「お願ぁいママァ」
『……やってみよう。るんにも曲が余ってないか聞いてみる』
「ありがとう!楽しみにしてる!!」