弱き心で荒稼ぎ!
短編です。退職代行っていつの間にか世の中に浸透してましたよね。
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退職代行会社『マジムリ』、日本を代表する大企業だ。
退職代行というものが誕生してから数十年、利用する人は年々増え続け、代行業界の規模は拡大していった。
そんな中、マジムリは他の退職代行会社を吸収・子会社化し、業界を支配する存在となっていた。
「強羅さん、退職代行の依頼が来ましたよー」
「どんな案件?」
強羅はマジムリで働くサラリーマンだ。とは言っても強羅のようなマジムリの人間が自ら代行を行う事はほぼ無い。
「えーっと、新卒で入社した不動産会社を辞めたいので代行して欲しいらしくて、まだ23歳で貯金が無いので、5万以下でお願いしたいそうです」
「ちっ、貧乏人かよ。下のテキトーな会社にでも回しとけ」
大手退職代行であるマジムリは金払いの良い大きな案件しか扱わない。
依頼者からの報酬が高ければそれだけ質のいいサービスを提供するが、安ければ中抜きしつつ下請けに任せ、質の悪いサービスを提供する。
新規事業の出社代行や電話代行も同様だ。新規事業でノウハウが無いということもあってクレームが後を絶たないらしいが、そのクレームへの対応は子会社に丸投げしている。
そうやって自社の利益を最大限に、顧客へのサービスは最小限に抑え、今の地位を築いたのだ。
「最近は退職代行の依頼どんどん増えてますよねー、皆そんなに代行して欲しいんですかね」
部下の服部が暇そうにペンを回しながら話す。
「まぁな、今の若者なんてナヨナヨした奴ばっかだから、自分で退職を切り出す勇気もないんだろ」
「強羅さんは口悪いなぁ。まぁ、否定はできませんけどね。僕ももしここを退職することがあったら退職代行使おうかな」
「ばーか、客の情報なんて全部うちに筒抜けなんだからそう簡単にいかねぇよ」
マジムリは自社グループのサービスを利用した顧客情報を全て保管している。強羅自身はそれを見たことはないが、その情報がグレーなことに使われているという噂も聞く。恐らく上層部はその報酬をたんまり貰っているのだろう。
こうしてマジムリの天下は守られている。その天下のオフィスで、強羅は今日も楽で高給な仕事に勤しんでいた。
今月の給料で何を買おうか考えていた強羅の下に一本の電話がかかってきた。
「はい、退職代行マジムリの強羅と申します」
強羅はハキハキとした営業ボイスで電話に出る。
「突然すみません。私、退職代行モウダメの菊池と申します。御社子会社のココムリの社員の方が退職を申し出ておりますので、そのことに関するご連絡をさせていただきました」
退職代行モウダメ、マジムリ傘下以外の数少ない退職代行会社だ。
「あの、すみません。ここはマジムリの電話でして、ココムリの話はココムリに言ってもらえますか?」
「いやーココムリさんにも電話したんですけど、『親会社のマジムリの判断を仰がないとわからない』と言われてしまいまして」
「とにかく、こっちにはかけてこないでください!」
強羅は相手の言葉を遮って電話を切る。対応する価値のない電話だと判断したからだ。
「えーっと、すみません。少し待っていただけますか?」
強羅が電話を切った直後、背後から服部の話し声が聞こえた。どうやら外部から電話がかかってきたようだ。
「あの、強羅さん、なんか株主代行っていうのから電話がかかってきたんですけど……」
「……は?」
代行業界も多種多様になってきたが、株主代行なんてものは初めて聞いた。強羅は思わず聞き返してしまう。
「なんか、うちとうちの子会社の株を手放したいっていう人が大勢いるらしくて、ちょっと僕の手には負えなそうなんで代わってださいよ」
その時、オフィス中の電話が鳴り始めた。強羅の机の電話も再び鳴る。
助けを求める服部、慌ただしく動き始める同僚たち、鳴り続ける自身の電話、強羅は一瞬何が起こってるのか分からず混乱する。
「と、とりあえずそっちはお前が対応しろ!」
強羅は服部にそう言って自身の電話を取った。
「はい、マジムリの強羅です」
「私、退職代行モウダメの小林と申します。御社子会社のココムリの社員さんに関してのお話が」
先程とは別人だが、内容は同じだ。オフィスの様子を見ると他の同僚にかかってきた電話も、強羅や服部にかかってきたものと同じような内容らしい。
その日の午後、強羅達は一斉に退職しようとする子会社従業員と自社グループの株を手放そうとする株主及びその代行への対応に追われた。
一か月後、オフィスは伽藍洞となっていた。マジムリは倒産したのだ。
代行業者からの電話が鳴りやまなかったあの日、グループ内部の人間にマジムリの私欲に塗れた体制が暴露され、黒い噂についても報道された。
弱った人の心を利用し荒稼ぎする悪徳商売と評されたマジムリからは、顧客も出資元も離れ、存続が不可能となったのだ。
マジムリ没後、日本でほぼ唯一の潔白退職代行業者『モウダメ』は、事業を拡大し、退職代行の料金を徐々に引き上げていった。
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