ep.8
「それでは失礼しますね」
僕は笹美さんをお風呂の中にゆっくりと下ろす。
チャプンッと笹美さんがお風呂に入る音がした。
「ひにゃっ⁉ つゅめたぃ‼」
そして同時に驚愕したような可愛らしい声が聞こえた。
「筋肉痛とは筋肉が炎症反応することです。時間経過でも治っていきますが、それでは数日かかります。筋肉を冷やすアイシングをすることで、治すことが可能です」
「それにしても、つめたいです……っ」
冷たさに慣れてきたのか、笹美さんは少し落ち着いたように息を吐いた。
「僕は次の用意をしておくので、浸かりながら筋肉に触っていてください。かなり楽になると思うので」
「わ、かりまし……たっ……んっ」
水が揺れる波の音。そして笹美さんの快楽を堪えるような声。
少しずつ効果がでているようで、笹美さんの筋肉から感謝の声が聞こえてきた気がした。
僕の筋肉がピクピクッと喜ぶ。
「最後はちゃんとお湯を浴びてください」
そう一言残して、僕は風呂場を後にした。
「……トレーナーとしてしっかりしないと」
次に僕はマッサージの準備にとりかかった。
自宅からストレッチに使うものを持ってきて、予備で買っていたマッサージマットを笹美さんのリビングで広げる。縦横がそれぞれ成人男性一人分くらいなので、スペースは足りる。顔の部分にはクッションを用意する。
マッサージ用のオイルと着替えを近くに置き、リラックス効果がある、香りが控えのアロマを焚いておく。発汗作用があるものを避けているのは、もう一度お風呂に入るとガス代がかかってしまうから。金銭に関してはあとで笹美さんと相談もしないといけない。
シャワーが流れる音が聞こえた。
準備が完了したので、軽く筋トレをしていると、シャワーの音が止まり、風呂場から笹美さんの驚くような声が聞こえてきた。
「国緒さん、大変ですっ⁉ 体が動きますっ⁉」
「それは良かったです。次はマッサージなので服を着て、リビングに来てください」
しばらくして、笹美さんがリビングにやってきた。ふんわりとした優しい色合いのパーカーと短パン。胸の部分にある犬の顔は、笹美さんの胸によって変顔のようになっている。
先ほどよりも、スッキリとした表情をしており、少しぎこちないが動けている。
笹見さんは敷いてあるマットに気づいた。
「これって、昨日の筋トレで敷いてあったマットですか?」
「動けるようになったとしても、筋肉痛は残っていますよね?」
「そ、そうですね。まだ少しだけ動きづらいですぅ………」
笹見さんが困ったような笑みを浮かべた。
僕はストレッチマットを指す。
「笹美さん、そこにうつ伏せで寝てもらってもいいですか?」
「こんな、感じ……ですかっ」
笹見さんがうつ伏せで寝転んだので、僕は笹美さんの腰を挟むように膝立ちをした。
「く、国緒さんっ⁉」
「下半身だけでは体のバランスが悪くなるので、上半身も多少はマッサージをさせてもらいます」
「そ、そうなんですか? だったら優しくお願いしますぅ……」
笹見さんは緊張と怯えが混じったように肩をすくめる。
僕は笹美さんの背中に両手を押し当てる。
「ふぅんっ……な、なんだか、あんまり痛くないです……?」
「鍛えていない筋肉はなるべく優しくしておくのがベストです」
体重をかけすぎないようにしながら、絶妙な力加減で背中を押していく。
肩の筋肉は凝り固まっていたが、押していくうちに少しずつほぐれていく。
「あぁ……気持ちいいですぅ……」
「それは良かったです。もう少し力を入れますね」
「あっ、そこはちょっと痛いっ……」
「腰ですね。Vtuberということは座っている時間が多いと思います。背中の筋肉を意識しておくだけでも、改善されますよ」
僕は指に入れる力を調節し、ツボを刺激していく。
「んぎゃっ……ま、まだ我慢できまっ、すぅ……っ」
笹見さんはクッションに顔をうずめた。乱れた呼吸をしながら、筋肉を震えさせている。
僕は喉が渇いてきたので唾を飲み込み、集中を継続する。
腰がほぐれてきたところで、僕は位置を後ろにずらす。
次は下半身の筋肉のマッサージだ。
「それでは筋肉痛の所をやっていきます。準備はよろしいですか?」
「も、もちろんですっ!」
僕は両手にぬるぬるとしたオイルを塗る。これは洗わずとも自然に肌に吸収されるもので、摩擦による肌の炎症を抑えるものだ。
笹見さんが穿いている短いズボンを少し捲り、お尻の付け根を両手で掴む。
「ひにゃっ⁉」
笹見さんは甘い声を出し、
「い、いだぁッいッ⁉」
そして悶絶した。
左右に体を揺らし、痛みを軽減しようとするが、その流れにそって力を込めていく。
笹美さんの筋肉が激しく動揺し、困惑と共に救いを訴えかけてくる。
「最初は痛いですが、慣れてくれば気持ちよくなってきます。ちょっとの辛抱です」
「そ、それにしてもッ、痛すぎッ……‼」
笹美さんは必死に堪えるように顔をうずめているクッションを掴む。
お尻の根元から太ももまでをしっかりと揉みしだく。
ビクッと反応する筋肉はとても感情を揺さぶられる。
「あっ……ち、ちょっとだけ、楽になってきました……」
笹美さんは次第に抵抗しなくなっていく。
太ももからふくらはぎへと流れるように揉んでいき、最後にはしっかりと足先までマッサージをする。押している筋肉の部位が変わるたび、笹美さんは見悶えたが、すぐに心地よさそうな声色になっていく。
「ふにやぁ……だんだんと気持ちよくなってきましたぁ……ごくらくですぅ……」
全体の筋肉がほぐれてきた。血が巡っていき、筋肉が成長していくのを感じる。
ああ、とてもいい。
この筋肉を永遠に触っていたい……と、そろそろ時間だ。
僕は心の内から湧き出る感情を抑えながら、ゆっくりと笹美さんの筋肉から手を離した。
僕は首にかけていたタオルで手のオイルを拭く。
「これでマッサージは終わりです。筋肉痛は軽減されましたか?」
「き、筋肉痛が治ってます⁉」
笹見さんは座ったまま伸びをして、気持ちよさそうに声を漏らした。