ep.4
笹美さんが上体を起こそうとしたので、僕はそのまま仰向けでいるように伝える。
「最後にやるのはお尻を鍛えるヒップリフトです」
ヒップリフト。お尻を鍛える筋トレで、ヒップアップの効果から女性に人気の筋トレだ。
笹美さんの眉がピクッと反応した。
「わたしってお尻が大きいんですけど、筋トレしたらもっと大きくなりません?」
「大丈夫です。ヒップアップの効果があるので、引き締まって小さく見えるようになります。しかも、下半身の筋肉なので代謝もアップです」
「だったら、頑張ります!」
笹美さんは瞳を輝かせながら、期待するように見てきた。
僕は笹美さんにヒップリフトの体勢を説明する。
仰向けに寝た状態で、膝を立てて足裏をつける。膝を曲げたときの角度は九〇度くらいにして、足と足の間は少し開けておく。
笹美さんがヒップアップの姿勢になる。
「笹美さん、そのままお尻を上げてください」
「こんな感じですかっ……?」
先ほどのスクワットが効いているらしく、笹美さんは表情を強張らせながら、お尻を上げた。だが、お尻はほとんど上がっておらず、ストレッチマットとお尻には紙一枚ほどの間しかない。
「……笹美さん、ちょっと失礼しますね」
僕は笹美さんのお尻に触れる。
「ふにゃっ⁉」
片手に収まらないほどのお尻。ぷにょんっとした弾力があるお尻に力を込めると、大臀筋の感触があった。しっかりと効いているらしく、力が入っている。
「く、国緒さんっ、あんまり奥まで……いっ、やっ……そんなとこまでぇっ⁉」
僕は笹美さんの背中に手を伸ばし、ぐっと力を込める。
「ひにゃっ……せ、せなかは、だめ……んっ」
「背筋を伸ばして姿勢を良くしてください。スクワットのときに補助したような感じです」
笹美さんのお尻がぐっと上がったようになる。僕は笹美さんの背中から手を離した。
「笹美さんはかなり猫背ですね。Vtuberとなると、動画編集や撮影とかで事務作業が多いと思いますので、そういった日常生活から姿勢を意識していきましょう」
「……国緒さんってやっぱりVtuberが好きなんですか?」
「仕事の関係で覚えたんです。さて、ヒップリフトの姿勢も整ったので、お尻を上げ下げしてください。一五回くらい頑張りましょう」
笹美さんはお尻を上げたり下げたりしはじめる。しっかりと呼吸に合わせながら、筋肉を鍛えており、この短時間での成長したのが分かる。
笹美さんはお尻をぷるっと震えさせながら、ヒップリフトの回数を重ねていく。
少しだけ息を乱しながらも、若干の余裕が感じられる。
「い、意外と……楽かも、知れない……ですっ」
「ヒップリフトはじわじわと効いてくるので油断は禁物ですよ」
「油断はっ……してないですっ」
そう言いながらも、笹美さんは一四回まですんなりと終わらせた。
「笹美さん、最後はお尻をあげた状態で一分ほどキープしてください」
「わっ、わかり、ました……」
一五回目では、笹美さんはお尻を上げたまま耐えていた。
先ほどまでは余裕そうな面を浮かべていたが、次第に悶え苦しむように声を漏らし、表情を淫らに歪めていく。頬をつたっていく汗が首元まで流れていく。
「どうですか?」
「だいぶ、キツいです……でもっ、ちょっとだけ気持ちいいかも、です……っ!」
「そ、そうですか……⁉」
僕は目を見開いた。
ちょっとだけでも気持ちいいと思えるのは、筋トレ経験者でも少ない感性である。
このまま筋肉に好意を抱くようになれば、僕以上に筋肉を好きになるかもしれない。
動揺と興奮で震えだした筋肉をおさえながら、僕は笹美さんに告げる。
「時間が経ったので、お尻を下ろしても大丈夫です」
笹美さんはふぅと大きく息を吐きながら、お尻を下ろした。上体を起こし、近くにあるペットボトルの水を飲む。首元や脇などに汗が滴っており、タオルで軽く拭いた。
お尻に違和感があるのか、左右に揺れながら、体重をかけないようにしている。
「ほ、ほんとうにじわじわと効いてきました……!」
「それは良かったです。これも三セットしたいんですが、大丈夫ですか?」
「さ、最後なのでやりますっ!」
笹美さんは仰向けに寝転がると、ヒップリフトの姿勢になった。
二セット、三セットと段々とお尻が上がらなくなってきたので、僕は笹美さんのお尻や背中を押しながら補助をする。
ついでに大殿筋や背筋に触れながら、笹美さんの筋肉をたっぷりと味わう。触れるたびに敏感に反応し、ビクッと震えた。
「お尻が……割れちゃうっ……」
「元々お尻は割れています。それと呼吸のタイミングがずれてきているので、意識してください」
「はぁ……はぁ……お尻、もう、だめぇっ……⁉」
三セットが終わり、笹美さんはストレッチマットに体を預けた。仰向けのままでは限界まで鍛えたお尻に刺激がくるようで、横向きになった。
僕は笹美さんに拍手をする。
「今日の筋トレはこれで終わりです。本当によく頑張りました。お疲れさまです」
「はいっ、たくさん……がんばりました」
笹美さんは乱れていた呼吸が安定してきたのか、僕の方を見ながら可憐に微笑んだ。
汗が流れていることもあり、艶やかさもある笹美さん。そんな彼女に一瞬だけ筋肉以外の欲望を感じた気がした。
僕はキッチンに移動し、笹美さんに声をかけた。
「このあとはしっかりと栄養を補給してくださいね。それとプロテインですが……」
僕はチラリと時計を見て、そろそろお昼の時間帯であることを確認した。
「プロテインでお腹がいっぱいになるとお昼ご飯が食べれなくなるかもしれません。筋トレ後は美味しい物をたくさん食べて欲しいんですが、どうしますか?」
笹美さんは横になったまま声を大にして言った。
「お、お昼ご飯が食べたいです……!」
「分かりました。それではプロテインは次の機会にしましょう。何味が飲みたいとかありますか?」
「めちゃくちゃ甘いのがいいです」
笹見さんは顔だけ動かして返答した。僕は了承の旨を伝え、冷蔵庫から自分用のチョコ味のプロテインをとる。タンパク質を補給しながら、僕は笹美さんに近づき、手を伸ばす。
「では、明日からまた頑張りましょう」
「は、は~い」
と、笹美さんは返事をしたが、体は全く動かなかった。