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ep.2

 

「あ、ありがとうございます~……!」


 笹美さんは涙目になりながら、何度も頭を下げてきた。


「それで、いつから筋トレをしたらいいですかね?」

「今日からですね」

「今日からですかっ⁉」


 笹美さんは一歩退き、驚いたように口を開いた。


「どれくらいの強度をできるのか知りたいですし、可能であればすぐにでもしたいんですけど、どうしますか?」

「むむむ……」


 笹美さんが頭を抱えて悩んでいる間、僕はノートパソコンを仕事部屋に戻しにいく。


 仕事部屋にある棚から、女性用の新品のトレーニングウェアを取り出して、リビングに戻ってくる。そのとき、キッチンにあった唐揚げが少し減っているのに気づいた。


 笹美さんはハムスターのようにほっぺたを膨らませながら、


「準備はおっけーでふゅっ!」


 ビシッと敬礼した。


 ……これからは食事についても、教えていかないといけないな。


 僕は笹美さんに新品のトレーニングウェアを渡す。


「これに着替えてください。女性用のトレーニングウェアです」

「も、もしかして彼女さんのやつですか?」

「トレーナーとして、トレーニングウェアは男女両方の予備を持っているんです」

「そうだったんですね。どこで着替えればいいですか?」

「仕事部屋なら違うサイズのやつもあるので、そこで着替えてください。廊下を進んで右側にある部屋です」


 笹美さんはもぐもぐしながら、リビングを後にした。

 僕はリビングを見渡し、筋トレをする準備をはじめた。


 ストレッチマットを敷き、ダンベルやバーベルなどを端に寄せる。

 プロテインとシェイカー。タオルと水入りペットボトルを用意し、いつでも栄養と水分を補給できるようにしておく。


 一通りの作業が終わると、


「く、国緒さ~ん⁉」


 笹美さんの恥ずかしがるような声が聞こえてきた。


「どうしましたか? サイズが小さいのはトレーニングウェアの特徴なので大丈夫ですよ」


 トレーニングウェアは普通の服のサイズよりも小さいことが多い。

 これはぴっちりと肌に密着させることで動きやすくなる効果がある。あと、筋肉がいつもより大きく見える。


「それにしても、恥ずかしいんですけど……」


 笹美さんは手で胸を隠すようにして、リビングにやってきた。

 トレーニングウェアである紺色のスポーツブラとスパッツを着ており、髪は後ろで一つ結びされている。


 豊満な胸はスポーツブラを着ていても存在感を放っており、深い谷間ができている。

 お尻と太ももによってはちきれそうなスパッツは、とてもむちむちである。


 笹美さんは自身を抱きしめるようにして、


「あんまり見ないでくださいっ……!」

「わかりました。頑張って善処します」


 でも、筋トレのときは見るだけじゃなくて触ったりもするんだけど……まあ、次第に慣れていくだろう。


 僕はストレッチマットを指しながら、説明をはじめた。


「まずはストレッチからはじめます。マットの上に座ってください」

「筋トレじゃないんですか?」

「体を整えずに筋トレをすると怪我する可能性が高くなるので、先にストレッチをします。ちなみにストレッチだけでもダイエットや快眠などの効果もありますよ」

「そうなんですかっ⁉ すぐにやりますっ‼」


 笹美さんはストレッチマットの上に尻をつけると、膝を伸ばして足をぶらぶらさせた。

 僕は笹美さんの背後に移動し、膝立ちをして構える。


「ストレッチは動的と静的の二つの種類があります。まずは静的ストレッチからやっていきます」

「せいてき? も、もしかしてえっちなストレッチのことですかっ⁉」

「性的じゃなくて静的です。筋肉をゆっくりと伸ばして、柔軟性を高めるストレッチです」


 笹美さんは不安そうな声色で、


「わたしって体がものすごく硬いんですけど、大丈夫ですか……?」

「もちろんです。そのために僕がいます」


 僕は笹美さんの背中に手をあてる。笹美さんが一瞬ビクッと反応した。


「まずは前屈からです。ゆっくりと息を吐いてください」


 僕は笹美さんの背中を押す。笹美さんはふぅ~と息を吐きながら、上半身を前に倒していく。足先が手に届いた瞬間、笹美さんの動きが止まる。


「こ、ここが限界です……!」

「なら、10秒ほどやってみましょう」


 僕は笹美さんに覆いかぶさるようにして、体全体で笹美さんの筋肉を伸ばす。

 笹美さんは動揺したような声色で言う。


「国緒さんっ⁉」

「僕のことではなく、筋肉に意識を向けてください」


 ストレッチをするときは手だけで背中を押すと圧力が集中してしまうので、体を使って全体に馴染ませるように力を分散させるのがコツだ。


 笹美さんは顔を真っ赤にしながら、小さく頷いた。僕は笹美さんに密着しながら、笹美さんの体が少しずつ熱くなっていくのを感じた。


「あの……ちょっと……」

「息を吐きながら伸ばしてください。吸うときは少し緩めるときです」

「は、はいっ……わかりま、した……んっ」


 恥ずかしがっているのもあるだろうが、筋肉が目を覚ましたのが分かる。刺激による活性化がはじまったのだ。


 笹美さんは苦悶の声を漏らしながら、


「く、国緒さんっ……まだ、ですかっ⁉」

「もう大丈夫です。息を吸いながら、体を上げてください」


 僕は笹美さんの呼吸に合わせて、ゆっくりと上体を元に戻していく。


 体はほどほどに柔らかかったし、綺麗なフォームでやれていた。継続していければ笹美さんは柔軟な筋肉を手に入れることができるだろう。


 僕は笹美さんの肩に手を置き、満面の笑みで告げた。


「それではもう一セットいきますよ」

「ま、まだやるんですか⁉」

「もちろんです。むしろこれからが本番です」


 僕は笹美さんとストレッチを続ける。


 先ほどのような前屈だけでなく、開脚をした前屈で太ももや腰を伸ばしたり、足の裏と裏をあわせたあぐらのようなポーズで股関節の可動域を広げたり、下半身をメインにしたストレッチをする。


 僕が笹美さんの筋肉を伸ばしながら、笹美さんの筋肉を直で堪能する。


 筋肉量はまだ足りないけれど、体幹の部分はしっかりと軸が鍛えられている。しかも、呼吸をするタイミングが完璧だ。


 笹美さんは筋肉を伸ばされるたびに声を漏らしていた。


「もう無理ですっ! 体がちぎれちゃいますっ‼」

「そんな簡単に体はちぎれません。次は足を開いてください」

「そ、そんな恥ずかしいところをっ……ひ、開くだなんて……きゃっ⁉」

「開脚前屈です」

「あ、あしがビクビクしちゃ、うっ……」

「今度は足裏を合わせてあぐらに近いポーズをとってください」

「ふぅ、んっ……こ、この状態って……?」

「では、股関節を広げていきますね」

「んぎゃっ⁉」


 一通りの静的ストレッチが終わると、僕は笹美さんから離れて立ち上がる。


 笹美さんの体には汗が流れており、少しばかり息が荒くなっていた。頬は火照ったように熱くなっており、肩がわずかに上下している。


 僕は笹美さんに手を伸ばす。


「次は動的ストレッチです」

「は、はぁいっ」


 笹美さんが僕の手を使って立ちあがる。


「本来であれば、筋トレをする前は動的ストレッチだけでいいんですが、笹美さんの筋肉を知るために静的ストレッチをやらせていただきました」

「な、なるほど……?」

「ようするに、笹美さんの筋肉はかなり良いということです」

「あ、ありがとうございます!」


 僕は寝室からスマホをとってくると、とある動画を再生した。


「それでは動的ストレッチをはじめます」


 笹美さんは動画の音を聞いて、きょとんとした顔を浮かべる。


「これって、ラジオ体操……?」

「はい、ラジオ体操です。動的ストレッチは筋肉を動かしてほぐし、運動に備えるために行うものです。その点、ラジオ体操はとても優れています」

「私も小さいころにやったことがあります!」


 笹美さんは大きな胸を揺らしながら、ドヤ顔を浮かべた。


 僕は笹美さんとラジオ体操を開始した。軽快なBGMと共に運動の指示が流れる。

 腕を回したり、腰を左右に捻じったり、足を上下に動かしたり。全身の筋肉に反動をつけながら動かす。僕は笹美さんの筋肉に触れながら、意識する部分を説明する。


 笹美さんは先ほどよりも余裕そうな声色で、


「こ、これは意外と大丈夫そうですっ!」

「笹美さん、もう少し反動をつけてください。筋肉を温めないと怪我してしまうので」

「むぅ……手厳しいです」

「筋肉には厳しくいくのが正しいんです」


 しばらくしてラジオ体操が終わり、僕は笹美さんの体から手を離した。


「どうですか? 少しは変化がありますか?」

「なんだか体がぽかぽかします……」


 笹美さんは手を団扇のようにして顔や胸の間を扇いでいた。

 そして一瞬だけふらっと足取りが悪くなる。


「はい、これを飲んでください」


 僕は用意していたペットボトルとスポーツタオルを笹美さんに渡す。


「えっ、あっ、ありがとうございますっ!」

「少しでも具合が悪くなったりしたら、遠慮なく教えてくださいね」


 僕は微笑を浮かべながら、笹美さんの緊張を解くように伝える。

 笹美さんは「ひ、ひゃいっ」と返事をした後、ペットボトルの水をぐびっと飲んだ。


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