ep.14
後日。笹美さんの配信はめちゃくちゃバズった。
配信が終わった直後は、いつもより好評ぐらいだったが、時間が経つにつれて成果は如実に表れた。
本配信は五〇万再生を超え、笹美さんが切り抜いて編集した動画は百万回再生を超えた。
美少女Vtuberがセンシティブボイスを連発しながら、ガチな筋トレをするというのが話題となり、登録者は一〇万人を突破した。
その影響もあり、笹美さんは筋トレ配信をメインにするようになった。元々やっていたゲームや雑談の配信はサブチャンネルでしているようだ。
一週間が経った現在も、笹美さんはしっかりと筋トレ配信をしている。
早朝。笹美さんは首にかけたタオルで額の汗を拭いながら、カメラに向かって微笑みを浮かべる。隣にいる僕はカメラに映らないように傍で見ていた。
「そ、それではみなさ~ん。ま、またねぇ~……」
チャット欄では労いと称賛の言葉で溢れていた。笹美さんは配信を切る。
ゲーミングチェアに座り、力が抜けたように息を吐く。
僕は持っていたプロテインを渡した。
「お疲れさまです、笹美さん」
「あ、ありがとうございますぅ……ぷはっ~、美味いっ!」
笹美さんはプロテインを飲むと、画面を見ながら作業を始めた。配信を切り抜いて、それを動画に編集したり、SNSにチャンネルの宣伝をしたり、忙しそうに手を動かす。
朝から筋トレ配信をするようになって数日。笹美さんは一度もサボることなく配信をしていた。
しかも、笹美さんの筋肉はかなり成長していた。
くびれができているし、筋肉の形もうっすらとみえはじめている。無駄な脂肪も減ってきており、筋トレの動きにもキレがでている。体脂肪率は二〇%を切っており、体重も二キロほど減っているはずだ。
「ありがとうございます、笹美さん。笹美さんのおかげでトレーナーとして成長できた気がします」
笹美さんは椅子を回してこちらを振り返ると、恥ずかしそうに微笑みながら言う。
「こちらこそですぅ……ぼっちだったわたしにこんなに仲良くできる人ができるなんて、思ってもみなかったのですぅ……」
この短期間で、僕と笹美さんは家の鍵を交換したり、食料品や筋トレ器具を買いに行ったりして、親交が深まった。トレーナーとしては大事なことあり、信頼関係によって筋トレの効果にも差がでてくるので、仲良くなれたのはとても嬉しい。
そんなとき、ピコンッと笹美さんのスマホから通知音が鳴った。
「あれ? SNSのアカウントにDMがきてます……」
笹美さんがスマホを持ってしばらく指をポチポチと動かしていると、突然、驚いたように声を張り上げた。
「えええっ⁉」
「どうしたんですか?」
「あの有名Vtuberの宇摩依伽さんから、コラボ依頼が来てるのです⁉」
笹美さんはゲーミングチェアから立ち上がり、嬉しそうにスマホを見せてくる。
画面には、悪魔っぽい角と羽と尾を生やし、ゴスロリっぽい服装の美少女アバターが映っていた。僕は知らなかったので尋ねてみる。
「宇摩依伽さんはどんなVtuberなんですか?」
「超大手事務所に所属している、毒舌娘系Vtuberですぅ‼」
笹美さんが色々と説明してくれた。
ワールド。Vtuber時代を創設した事務所の一つであり、現在一〇〇〇人を超えるライバーが所属しているらしい。また、アイドルや芸人、プロゲーマーや落語家など、幅広い職種を兼ね備えているようだ。倍率は一万倍以上とされており、笹美さんも過去に落ちたことがあるみたい。
笹美さんは興奮したように早口で語る。
「コンプラギリギリを責めた際どい発言と、大人も泣いて土下座するほどの論破力。そんな傲慢な性格でありながら、どこか憎めないメスガキムーブをする彼女は登録者一〇〇万人を超える大人気Vtuberなのです!」
「そんなに有名なんですね」
「そうなのです! さっそくコラボOKの返信するのですっ!」
笹美さんは返信し終えると、
「あとは日程と場所を事務所の社長と相談するのです」
ヘッドホンをした笹美さんはパソコンの画面を操作し、電話アプリを起動した。コール音が数回鳴り、画面が電話のマークに切り替わった。
しばらく話をする笹美さん。興奮が抑えられないようで、声色がいつもより高い。
五分足らずで笹美さんはヘッドホンを外し、電話を切った。
「承諾を得ました。それと事務所の一室をとったので、国緒さんも一緒に来てくださいっ」
僕は少し考えて、笹美さんに尋ねた。
「僕との関係がバレたら炎上しないですか?」
もし、笹美さんの配信で僕が一緒にいるとバレてしまったら、かなりマズいことになる気がする。家だから色々と誤魔化せた部分もあるが、第三者がいる空間では、筋トレを教えることは難しい。
「一室を貸し切ったので、コラボ当日は事務所のスタッフさんたちは入ってこれないのです。それと伽さんには国緒さんはスタッフやマネージャーみたいな人と説明するので誤魔化せると思うのです」
と、真剣な表情で語る笹美さん。
「……分かりました。せっかくですので、コラボするときの筋トレも考えておきますね」
「い、いつもありがとうございますぅ!」
笹美さんはいつものような人懐っこい笑顔を浮かべた。




