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将才

 ヒョウは幼少の頃、雪の国の南方に位置する”霧の国”の幼年学校に留学していたことがあった。その学校には雪の国の東の隣国・風の国からの留学生として、ナギも在籍していた。


 2人は同い年であり、同窓で学ぶことになった。どちらも生国では武門の名家の出であり、将来を嘱望(しょくぼう)されていたのだ。


 仲はあまりよくなかった。背が低くいつも眠たげな眼をしているナギを、いい加減な奴だとヒョウは蔑んでいた。ナギはナギで、長身で貴公子然としたヒョウのことを、キザな坊ちゃんと疎んじていた節がある。


 霧の国は雪の国から見れば南方だが、大陸全体の中ではやや北寄りに位置する。彼の国でも冬になれば、ヒョウの故郷ほどではないにしろ雪が降り積もった。


 そうなると幼い生徒たちは、宿舎に(こも)ってなどいられない。白い息を吐きながら中庭に飛び出し、いくつかの組に分かれ雪合戦に興じたのだった。むろん、ヒョウやナギも例外ではない。


 この雪合戦において、ナギは無敵だった。普段の茫洋(ぼうよう)とした仮面を投げ捨て、躍動した。単に投擲(とうてき)がうまかったり身体能力が高い、というのではない。作戦を練り、仲間たちに指示を出し、自分の組を勝利に導くのが実に巧みだった。


 幼少にして、指揮官の才を開花させていたのである。


 ナギのいる組は、常に連戦連勝だった。どのような組み合わせになっても彼はいつの間にか大将におさまり、即席の部下と化した子供たちを手足のように操った。


 雪を固めて堅牢な防壁を築きあげたかと思えば、敵の組の弱い部分を看破しそこに集中的に雪玉を投げさせ敵陣を突き崩す。


 特にナギが好んだのが、速攻と奇襲だった。風で雪煙(ゆきけむり)が舞う時など、それに紛れて奇襲攻撃をかけるなどということはしょっちゅうだった。


 ヒョウはそんなナギの活躍が面白くなかった。元々蔑んでいた相手だし、将来軍人を志す少年として彼も自分の将才には自負を抱いていた。まして雪の国の出でありながら雪合戦で他国人に遅れをとっては、立つ瀬がないではないか!


 対抗意識に駆られた彼は、意識して常にナギとは敵対する側の組に入り、彼を打ち負かすべく奮闘した。しかしついに、一度も勝てなかった。


 ある時など雪玉の応酬をしてる最中、ナギ陣営が築いた防壁の一部が崩れかかってるのを発見した。あそこから侵入して敵陣を内部から突き崩せる! 千載一遇の機会だと思ったヒョウは数人の仲間を連れて素早く防壁のひび割れた箇所に近づくと、打ち壊して一気に防壁の内側に突入した。


 しかしそれはナギが仕掛けた、巧妙な罠だった。


 敵陣に突入するや、防壁の内側に身を潜めていたナギ陣営の子供たちから雪玉の集中攻撃を受け、ヒョウと仲間たちは文字通り打ちのめされたのだった。ナギは見事敵を意中の場所におびき寄せ、待ち伏せによって大打撃を与えることに成功したのである。


 痛みと冷たさに屈し雪上に倒れ伏したヒョウに、大将のナギが近づいてきた。


「これ以上、無駄な努力はやめることだね」


 やはり眠たげな顔にうっすら笑みを浮かべながら、ナギはヒョウを見下ろしてくる。


「俺には戦の神がついているんだ。君たちがどうあがこうが、一生勝てないよ」


 さも当然のことのように言い放った。


 ……この時の屈辱を、今もヒョウは忘れられない。たかが子供の遊び、と割り切ることなどできない。軍人の、将の卵として、自分は戦に完膚なきまでに負けたのだ!


 以来、ヒョウは胸中に打倒ナギの信念を燃やし続けている。隣国出身のあの男とは、いずれ戦場で雌雄を決する日が必ずくるはずだと、固く信じていた。あるいはそれは、強烈な願望だったかもしれない。


 彼にとってナギこそおのれの人生に立ちはだかった、越えねばならない壁だった。

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