其の七
翌早朝の事にございます。
「新三郎!新三郎!」
勇斎は寝ている新三郎を起こします。
突然上がり込んできた勇斎に戸惑う新三郎。
勇斎は、天眼鏡で新三郎の人相を見ます。……
「……思った通りだ。死相が出てる。お前さんこのままじゃ一ヶ月ともたないよ」
何を言い出すんだと戸惑う新三郎に勇斎は続けます。
「昨日の女は?誰だ」
「昨日の女?」
勇斎は、勝手に部屋を覗き見したことを謝りつつも、新三郎に問いただします。
新三郎は観念し、お露とお米の事。そして自分はお露と婚約したことを打ち明けます。
「とんでもない!!」
おもわず勇斎は声を上げます。
「いいか。あれは人間じゃない」
「人間じゃないと申すのは……?」
「『さんさき村』に住んでるって?そんな場所に住んでるわけがない。行ってみろ。小さい村だ。1日もあれば回れる」
勇斎にそう言われ、さんさき村を歩く新左衛門。確かにお米、お露などという方は住んでおりませんでした。
ふと、引き寄せられるよにさんさき村の寺に拠りますと、
無縁仏がございました。新三郎は嫌な予感がし、そこに書いてある名前を辿っていくと一番新しい箇所に、
「露、米」とございました。何かの間違いだと思いましたが、ふと脇に目をやると、
見覚えのある牡丹の灯籠が……
ウワアアアア!
新三郎は勇斎に助けを求めました。
「俺じゃあどうにもできん。紹介状を書いてやるから新幡随院と言う寺の『良石』と言う和尚を訪ねろ。
彼なら何とかしてくれるかもしれん」
言われるがままに良石和尚を訪ねる新三郎。
和尚は紹介状を読み終えると、
「白翁堂勇斎先生は拙僧の耳にまで届く素晴らしい人相見にござります。拙僧にできることは……
まず、金無垢の開運如来をお貸しします。これを懐に入れて、肌身離さず持っていてください。
金無垢でございます。大変高価なものですので差し上げられません。決して無くさぬよう。
それからお部屋の隙間という隙間にお札をお貼りください。
そして時間があれば念仏をお唱えください。それさえ守れば、貴方の寿命は回復することでしょう」
それからというもの、新三郎の生活は一変いたしました。
良石和尚の言い付けを守り、部屋中の「しきり」、隙間にお札を貼り、開運如来を小さな袋に入れて首から下げ、常に念仏を唱えるようになりました。
夜も老けた頃です。
カラン……コロン……
二人分の下駄の音が新三郎の家の前で立ち止まりました。
新三郎は祈る気持ちで念仏を唱えます。
外から、声が聞こえてまいりました。
「お米や。新三郎はどうして開けてくれないの?」
「お嬢様……新三郎様はどうやらお心変わりされたようにございます。お諦めください」
外から、お露の泣く声が聞こえます。
「いやだ…… いやだよ……私は諦めないよ……」