其の十九
一方、表で待っている五郎三郎と孝介。
母、おりえがあまりにも時間がかかっており、だんだんと不自然に感じたので様子を見に家に入りました。
そこには……合口で自らの手首を切ったおりえが血まみれで倒れておりました……
「母上!!」
孝介と五郎三郎は駆け寄ります。おりえはかろうじて、まだ息があるようでした。
「孝介……申し訳ありません……申し訳ありません……
私というおんなは、『樋口屋五兵衛』さんに本当に良くしていただきました……
出戻りの分際なのに、あれほど優しくしていただいたのは初めてのことでした……その五兵衛さんに……
わたしは何一つお返しができなかった……!
例え賊でも、例え人殺しでも、お国は五兵衛さんの娘にございます。申し訳ありません……」
「母上……母上!!」
孝介の目頭が熱くなっていくのを察して、五郎三郎は孝介に声をかけます。
「行ってください! 孝介さん! ここは任せて行ってください!!
あんなものは妹でもなんでもない! どうか本懐を遂げてください!」
「……!! ………かたじけない!!」
孝介は涙を堪え、勝手口から走り去りました。
源次郎の足が悪くなければ間に合わなかったでしょうな。
川渡しの船が目前。片方は足を引きずりながら歩いている二人組に向け……
「宮野部源次郎!樋口屋国!!……殿の、仇!!!」
自分の父親の血を吸い、飯島平左衛門の手の温もりの宿る『菊正宗』。
孝介は上段の構えで二人に突進し……滅多切りでございました。