其の十七
正解は、黒川孝介、今は婿入りいたしまして、相川孝介にございます。
飯島平左衛門の仇である「お国」と「宮野部源次郎」を探しており、今は江戸に店を構えている腕利きの人相見、
「白翁堂勇斎」の元に、仇討ちが成就するか占ってもらう道中の出来事でしたね。
大勢の同心に囲まれ戸惑っている孝介に、同心の一人が口を開きます。
「そのものをこちらに引き渡して頂きたい。物を盗み、人を殺めし罪人にございます」
伴蔵は咄嗟に持っていた合口を、呆然としている孝介の喉に押し付けて人質にしようとしましたが、
一方の孝介は「新陰流」の達人。自分の背後に回った伴蔵に対し、落ち着いて左肘を伴蔵のみぞおちに入れ、
伴蔵の腕をすり抜けると膝でもって金的を入れましてございます。
崩れ落ちる伴蔵。
「ひぃ!!!」
「貴様騙しよったな! 地獄に、落としてもらえ!!」
孝介は伴蔵を同心達の前につき飛ばしました。
これが、牡丹灯籠の主役の一人、伴蔵、その最期にございます。
孝介が、白翁堂勇斎の元に辿り着きました。
先客の女性が一人おりましたが、孝介の切羽詰まった顔を見て、順番を譲って頂きました。
「かたじけのうござる」と、孝介は好意にあやかりました。
孝介は、勇斎の元で手相を見てもらっております。
仇討ちが成就するか、そして、もう一つ、孝介は勇斎に占ってほしいことがございました。
勇斎は天眼鏡で孝介の人相をじっと見……
「安心しろ。強い心を持ち続け、途中いかなることがあっても挫けることのなければ、仇討ちは必ず叶う、と出ておる」
「…… ……ありがとう存じます」
「それと、もう一つあったな」
「はい。それがし、歳の頃4つにして母と生き別れております。
今一度、母に会うことは叶いますでしょうか……」
「ふむ」
勇斎は天眼鏡を覗き込み、ややあって……
「お?!」
と声を上げました。
「いかがなさりました?」
「面白いのう……いや、こんなことがあるのだのう……。
『今しがた会うた』と出ておる」
「『今しがた』……?」