其の十五
翌日、外も白々とした朝の関口屋の前でございます。
「御免! 拙者、宮野部源次郎と申す! 主人は御在宅か!」
山本志丈の言った通りにございました。
大声で刀を脇に刺したお侍さんが立っております。
「主人は御在宅か! 拙者、宮野部源次郎と申す!」
「はいはいはい……関口屋伴蔵でございます…… 」
「これはこれは……拙者、宮野部源次郎と申す。我が女房が、『格別なるお引き立て』を頂いたようで……」
『お前の不倫はわかってるぞ』という意味でございます。
「拙者、この度故あって、宇都宮の方に旅立つことに相成り候。手元不用意にて、旅金を少々いただい」
『お前のせいで、遠くまで旅に行かなきゃならないので、交通費ぐらいよこせ』という意味にございます。
「我が女房が、『格別なるお引き立て』をいただいたようで……」
源次郎は強調するようにもう一度述べました。
「へえ。それは大変でございやすね。幾らか包ませて頂きます」
そう言って伴蔵は金の入った小包を宮野部源次郎に渡しました。
「これはこれは失礼致す……拙者、この度故あって宇都宮の方に……わが女房が『格別なるお引き立て』を…… ……
なんだこれは?」
「へえ。二両にございます」
「……わが女房が! 格別なるお引き立てを……」
「へえ。ですので、二両にございます。道中の茶代くらいにはなりましょう」
「貴様ふざけているのか……我が女房が! 格別なるお引き立て……」
「うるせえやい!!」
突然、源次郎の目の色が変わります。
「格別なるお引き立て!? したよ! その金はロクに働けねえ『てめえ』のとこに行ってたんだろうが!」
さらに源次郎は刀をさしている源次郎に対して腕をまくり、
「ところでそっちは殿様やっちまったんだってな。自分が何しでかしたかわかってんのか。
江戸から相川孝介って忠義な男が、てめえのことを血眼になって探してるって、知らねえのか!?
そうじゃなくたって、てめえはお尋ね者だって自覚がねえのか!?
『宮野部源次郎と申す』だ? ……人の店のまえで、本名を堂々と名乗ってる場合か! このまぬけ!!」
「……おっしゃる通り」
人一人殺すだけでこうも変わるものなのでしょうか。
見事二両という金で宮野部源次郎を店の前から追い出した伴蔵にございます。
それを関口屋の中から見ていた山本志丈が、「よ!!悪党!!!」
大喜びにございます。
「……金無垢の開運如来の銅像、まだ江戸に隠してあるんだよ。俺についてきて一緒に掘るかい?山分けしようぜ」
「ついてくー!!」