其の十三
おみねさんの通夜は滞りなく執り行われ、あっという間に初七日が過ぎました。
伴蔵が主人を務める「関口屋」の使用人の一人、「おます」が夏風邪を患ってしまいます。
「ウーン……ウーン……」と苦しそうです。
不憫に思った伴蔵は、使用人の一人「久蔵」に、医者を呼んでこさせます。
しかしこんな日に限って医者は見つかりませんでした。
久蔵は機転を利かせ、宿に泊まっている客の中から医者を探し出しました。
「突然のことで申し訳ない」
伴蔵は、久蔵が連れてきた医者に礼を言います。
「いえいえとんでもない。医者が呼ばれる時というのは大体が『突然のこと』にございます故…… ……オヤ」
このお医者様は、どうやら伴蔵の事を知ってるようでした。
「伴蔵さん……だよね。新三郎さんの長屋の伴蔵さんだよね!
覚えてますか? 山本志丈でございます」
この医者「山本志丈」は、萩原新三郎の家にたまに話をしにくる、お太鼓持ちのようなお調子者の医者でございました。
せっかく本人が『覚えてますか?』と言ったので、忘れてらっしゃる方のために申し上げますと、
萩原新三郎に「お露」さんを紹介したのがこの医者でございます。
「いやー凄いね! あなたこんな大きなお店持つようになったんだね!
イヤー新三郎亡くなった後、村はとんでもないことになったよねー。幽霊が出るとかなんとか!
あ、ちなみに私はね、
あの長屋であなたに一目会った時から、『この方はこのような場所で収まっているような方ではないな』と予感しておりました!」
「そのようなことは良いので……おますを診てやってはもらえませぬか」
「オオ、オオそうでした。そうでした」
伴蔵と志丈は、おますの部屋へ入りました。
「ウーン……、ウーン……」
「おやおやこれは苦しそうだね……どれどれ」と、志丈がおますの布団をめくろうとしたその時でした。
前触れもなく
ガバ!!!!!
……と目を見開いたおますが上半身を起こします。
ワア! とひっくり返る伴蔵と志丈。
「これこれ……病人がそんなに突然起きあがっちゃ駄目じゃないか……」
と志丈が申しますと……
まばたきもせず目を見開いたままの、おますが……
「山本先生……ご無沙汰しております……あたしね……そこの伴蔵に騙されて、殺されたんです。
…… 新三郎を殺して! 金無垢の開運如来の銅像を盗んだのは伴蔵!! お前だ!!!」