其の十一
さて金が手に入った伴蔵、おみねの夫婦ですが、またもや悪知恵を働かせます。
それは、『すぐには引っ越さない』ということです。
真っ先に引っ越したら、白翁堂勇斎を筆頭とした長屋連中、村民たちにあらぬ疑いをかけられる。
なのでまずは噂を流しました。
「この村には妖が出るぞ! 二人組の女に気をつけろ! 見込まれたら取り殺されるぞ!!」
噂話に恐怖した村人が一人、また一人と村を去っていき、頃合いをみて夫婦も引っ越しました。
すでに百両という大金を持っているのです。働かなくても良いのですが、「何もしない」とまた、曰く付きの夫婦なのでは無いかという噂が立ちます。
なので「関口屋」というお店を出し商売を始めます。
草履や傘といった、腐らず管理の簡単なものを適当にと店内に並べていたのが、これが当たってしまいます。
たちまち旅人の間で人気店となってしまい、とても二人では店が回せないくらい繁盛してしまい、使用人を雇います。
人生とは不思議なものでして、「別に儲けたくない」というときに限って儲けてしまうものです。
三人でも回しきれない。また一人使用人を雇う。
四人でも五人でも回しきれない。どんどん使用人を雇う。
そして伴蔵に暇ができる頃には大きなお店になってしまいました。
さて、金もあり時間もある男が次にやることは、女を作ることです。
伴蔵は、「笹屋」という飲み屋の、「お国」という女性を特に贔屓にしました。
なんでも江戸から訳ありで田舎にやってきて、主人は足に大怪我を負ってるのだとか。
とにかくこれが良い女なので毎晩酒を飲みに行っては酌をさせる。
日毎、帰る時間が遅くなる。
しまいには家に帰らない日ができたりする……。
ある日の晩でございます。
伴蔵が、「つまらねえ寄合に行ってくる」と言って家を出ようとしてるときに、
妻のおみねは「今日も、お国とかいう女に酌してもらうのかい?」と聞きいたのであります。
伴蔵はヒヤっとします。
……そうです。知っていたのです。
浮気を疑ったおみねは、使用人の一人で伴蔵が馬を引かせていた「久蔵」に酒をたらふく飲ませ、
気を良くさせたところに主人が毎日毎日通っている店の名前を聞き出したのでありました。
そして笹屋という店の、お国という若い女性に毎晩五両あげて酌をさせていたという事実を聞いていたのでありました。
浮気がバレた伴蔵は、ここで開き直ります。
「俺を誰だと思ってんでい。天下の伴蔵さんだよ?表に出れば七人の敵と言われてる関口屋伴蔵さんだよ!?
文句があるならでてけ。でてけよ!」
見栄を切られたおみね。言い返します。
「あらそうですか。じゃあ出ていかせていただきます。……ただね、
『あたしの案で』儲けた百両!耳揃えて返しておくんなまし!!
返していただけないならそうね……ここいらでどんな噂話が立つかしらねえ!」