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其の十




正解は、お露の父親である、飯島平左衛門のお屋敷にございます。


 追い出されたとは言え、勝手知ったる我が家です。

黒川孝介が婿養子に入る、相川新五兵衛の家に今後の事を話し合うため、飯島平左衛門が留守の間に部屋に入り、

百両を持って部屋から出ていくところを、側室の「お国」に見られたのでしたね。


さて、伴蔵、おみねの夫婦は大変な仕事を請け負ってしまいました。


 まず、おみねが部屋に篭って念仏ばかり唱えている新三郎に、「行水」を提案しますが、

新三郎は裸になりたくありません。というより、外にも出たく無いと申します。


そこで おみねが知恵を使いました。相手の弱みに漬け込む作戦です。


「あまりに体がけがれていると、『もののけ』がつくと聞き及びます」


『もののけ』。今の新三郎にとって最も切実な問題でございました。


新三郎は浴衣を脱ぎ、おみね に背中を流してもらうことにしました。


新三郎を部屋の外に追い出してからが、伴蔵の仕事でございます。


まずは言われた通り、「しまり」のふだを剥がし、


新三郎の脱いだ浴衣から金無垢の開運如来の銅像が入った小袋を探します。それと同じ大きさ、同じ重さの石を探してすり替えるまでが、ミッションでございます。


「おみねさん。ちと、強くこすりすぎじゃあ無いかね」


「あら、そうでらっしゃいます? 痛いです?」


「うん。痛いな」


「あら、そうでらっしゃいます? まだ痛いです?」


行水をしている新三郎が、「痛い」と言っている間は安全ということです。伴蔵は都合のいい大きさ、重さの石を見つけて小袋から金無垢の開運如来とすり替えますと、


「おおい おみね! 新三郎さんが痛がってるじゃねえか!『そろそろいいんじゃねえのかい?』」


「そうかね。『そろそろいいかね?』」


これが、二人で打ち合わせていたミッション達成の合図にございます。


「ああ、気持ちがよかった。さっぱりした。

 言われた通りにしてよかった。おみねさん ありがとう」


これが……萩原新三郎の最期の言葉となります。



夜も老けてまいりまして。


カラン…コロン…

二人がやってまいります。伴蔵は滞りなく、言いつけを守ったことを報告し、そして報酬を受け取りました。


「伴蔵さん…… ありがとう存じます。これで新三郎様のお側に行かれます。

 お嬢様……今夜はたっぷりと新三郎様に

 お 恨 み 申 し ま しょ う ね」



明くる日の朝にございます。


「新三郎! 新三郎!」


白翁堂勇斎はいつまでも起きてこない萩原新三郎を心配しておりました。


「入るぞ! 新三郎」


……ウッ!!

……と、部屋に入った瞬間に不吉なことが起きていることを察する勇斎。


寝ている新三郎の顔を覗き込めば、骨と皮だけ。


「何故だ!?金無垢の開運如来は肌身につけておる!なぜ死んだ……」と部屋の『しまり』に目をやれば、お札が剥がれている。


よく見れば開運如来の仏像の入っている小袋にも違和感がある……これは一体……?


「いかがなさりました勇斎さん。……や!! これは!!!」


後ろから伴蔵が白々しく驚いて部屋に入って来、勇斎と伴蔵の目があいます。




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