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魔女とメリーさん(上)

「それで美夜先輩ったら、パンケーキに乗ってるアイスも一緒に食べようと頑張るんだけど、どうやってもアイスが落ちちゃって、口いっぱいに頬張りたいのにそれができなくて、どうしようって僕の方を見るの。その顔がまた可愛いんだよ。……ねえ、聞いてる?」


 自分に話していると思っていなかったのか、博己が不思議そうにこちらを見る。

 まさか、独り言だと思われていたのだろうか。

 心外だ。これは、もう一度最初から美夜先輩との思い出を語らなくては。


「その話、昨日も聞いたぞ」

「僕も聞いたー」


 意気込む僕に、晟一とセージュンの呆れた声がかかる。


「博己にはまだ話していなかったでしょ?」

「でしょ?じゃないよ。博己も昨日居たんだから聞こえてたよ。ねえ?」

「そうだな」


 セージュンが博己に聞くと、そんな当たり前のことを聞くな、というニュアンスが大いに含まれた返答がされた。

 何度も話したいんだから、しょうがない。

 まあ、美夜先輩の魅力が伝わっているなら、これで話すのは終わろう。

 僕がひとまず満足したのを察し、晟一とセージュンからため息がこぼれた。


「そういえば、潤は?来れないってメッセージ来てないよね?」


 セージュンに尋ねる。


「僕にもメッセージはきてないよ。もう少しで来るんじゃない?」


 その時、部室のドアが勢いよく開いた。潤だ。


「遅くなってごめーん!それより聞いてよ!メリーさんっているでしょ?あなたの後ろにいるのってやつ!そのメリーさんを呼び出す儀式?みたいなのが流行ってきているみたい!みんな知ってた?」


 と入ってくるなり、洪水のように言葉が流れてくる。

 それに慣れている僕らは、潤の言葉に返事する。


「メリーさんを呼び出す儀式?知らないなあ……。晟一は?」

「いや、俺も知らない」


 目線を博己に向けると、首を横に振った。博己も知らないようだ。


「僕も知らない。……女子の間だけで流行ってるんじゃない?」


 僕の言葉に、潤もカバンからペットボトルのジュースを取り出しながら「あー、そうかも」と頷く。


「どういう儀式なんだ」


 博己が読んでいた小説を閉じ、潤に尋ねる。

 ジュースを飲み終え、ペットボトルを机の上に置き、潤はその儀式の内容を話し始めた。


 ※


 えーっとね、メリーさんは知ってるよね?

 そう。あの「もしもし、私メリー」ってやつ。

 メリーさんって捨てられた人形が、持ち主を探し回って電話してくるってお話なんだけど、可哀想って思った子がメリーさんを呼んで遊んであげようって考えたみたいなの。

 これがその儀式の背景ね。

 で、その儀式なんだけど、5人でやるの。

 まず、5人がそれぞれ背を向けて輪になって、端末でグループ通話する。

 そして、「メリーさん、私はここよ」って5回唱える。

 メリーさんが来たら、背後に気配がして、電話からお返事が聞こえるって。

 来なかったら?それで儀式はお終い。

 電話でお話して、「メリーさん、さようなら」って5回唱えて、電話を切る。

 それで、この儀式はお終い。


 ※


「どうして、それでメリーさんが来てくれるんだろう」


 儀式の内容を聞いた素直な感想だった。

 晟一とセージュンも僕の言葉を聞いてうなずいている。


「んー、そこは怪談によくある、どうしてかわからない部分だから考えちゃダメなんだよ」


 そんなあやふやな。

 まあ、確かに怪談ってそういうところがある。


「背を向けて輪になるというのは、かごめかごめの反転したものだと考えることもできる。怪談の一つに童歌で遊んでいると、知らない子が増えているというものもある。そこに、メリーさんの電話の要素を追加したのだろう。それに、5という数字も少なくも多くもなく、その儀式を試すには適当な数字だろう」


 博己の話を聞くと、それなら少しは納得できそうだと思えてしまう。


「魔女先輩にも聞いてみた方がいいだろう」


 博己が僕の方を向き、言う。


「そうだね」


 ※


 学園で魔女と呼ばれる美夜先輩は、図書室の窓際、4人掛けデスクが並ぶ、その一番奥の席に座っている。

 その美夜先輩に、昨日聞いた【メリーさんを呼び出す儀式】のこと話した。


「麗ちゃん、その儀式、絶対やらないで」


 すごく真剣な表情で、言われた。


「この儀式は、危ないの。本当に来てしまう可能性がある」

「……来ても、帰ってもらえるみたいだよ?」

「その時はね」


 まさか、履歴からたどるように、メリーさんから電話がかかってくるのだろうか。


「一度、本物に関わってしまえば、その繋がりは簡単に消えてくれないわ」


「わかるでしょう?」と美夜先輩に言われる。

 僕は、そのことを身をもって知っている。


「文芸部のみんなにも、やらないように連絡した方がいいわね」


 その言葉を聞き、端末でみんなにメッセージを送る。


「メリーさんの最後は、どうなるか知ってる?」

「……後ろに現れて、襲われる?」

「そう。襲われたり、連れていかれたりする。変わったパターンだと、次のメリーさんになるなんてものもあるのよ」


 それは初耳だ。

 でも、幽霊や異形がその人に成り代わってしまう、という怪談は確かに耳にしたことはある。


「共通するのは、無事では済まないということよ」


 ※


 その日、潤が儀式に参加したとメッセージが来た。

 そして数日後、参加した友達が一人、行方不明になった。

読んでくださり、ありがとうございました。

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