あなたのために、ぼくのために
「おつかれー。寒かったよね」
「ああ。お邪魔するね」
靴が多い?
「あれ?誰かいるの?」
「あ、うん。先輩。今日は大事な相談があるから君も呼んでって。ごめん。騙し討ちした」
「別にそうなら、そう言ってくれればいいよ。来ないから」
「やっぱ、そういうじゃない?だから内緒にしてた。でもごめん。代わりにご飯たっぷり食べてって。あ、お風呂もどうぞ」
「いや、上げ膳据え膳は嬉しいけど、別に怒ってないよ。それで、先輩は?」
「せんぱーい!きましたー!」
「はーい。こっちもできるよー。今流行りのおにぎらず風おにぎりー。具がたっぷりなやつを作ってるから!」
ため息ついた感じを出しながら「はい」とつまみの入った袋を渡す。
「えっ!?ちょっと、本気で手が冷たい!」
「ん?ああ、もう雪、降ってるよ」
「そうなの?玄関につっ立ってないで早く中に入って、温まって。あ、鍵閉めてね」
お風呂ー、とあいつは中に入って行った。
先輩が来ていたのか。いろいろな仕事をしてはどれも素晴らしい成果を納めている、どこか眠たい目をした先輩は、仕事は厳しいがどこかなんでも許してくれそうな優しさがあり、憎めない。
あいつの紹介で知り合ったし、あいつの学校の先輩だ。あいつが懐いているのは当然なんだが、3人だと少し疎外感があって気に入らない。尊敬はしている。言う必要がないから、言わない。
今日はその人からのお呼ばれらしい。そのままとりあえずと風呂に入らされる。冷え切っていたのか、お湯が痛い。髪がボサボサになっていたのを、手櫛で解かす。こいつの家のシャンプーはなかなかいい。匂いもいいし、髪がするするになる。
勝手知ったる他人の家。バスタオルを勝手に借りる。前に泊まった時の下着が洗ってあるからそれを身につける。別宅で上げ膳据え膳。待っているのは小洒落た野郎、と。