coda
Part1
1月1日6時54分、花園東公園にて
B:とりあえず、お兄さんは何故にひとりで正月一日の新宿片隅の公園で、カエルをホッピングしながら初日の出を拝んでたんです?
A:この時間なら誰もいないと思ったからです。君こそ突然「写真撮らせて!」って、こっち向かってくるから、フライデーか酔っ払いだと思ったよ。
B:あまい、あまーい。私の目は誤魔化せない!いつもニコニコはいよる通りすがりの黒猫は見た!のです。新年最初の一番暗い時間、イチョウの葉がひらひらと舞い降りる中、真顔でイケメンがカエルさんホッピングに跨って揺れているのを!ビシッ!
A:効果音まで言うんだ?あ、コーヒーありがとう。寒いね、さすがに。
B:そこ?まあいいです。さてはて、私が500円入れたのに、そっと150円の缶コーヒーを選んでくれたイケメンさん、暗がりで気がつきませんでしたが、この初日の出が昇り始めた薄明かり、あなたのそのご尊顔、確か見た覚えがあるのですよ、音楽家様。
A:初日の出を見ながら自販機缶コーヒーのエスコートを受ける音楽家様とやらは、世界でも僕ひとりなんだろうね。まあ、僕は、なんだろうね。今はその音楽家とやらなのかな。ちょっと君と会ったことも含めて、縁というか、あいつのいう必然に、僕も虚構の人物になったみたいな気分でさ。まあ、だから君と初日の出みたら変わるかな、なんて。
B:確かに日本中探しても、ホット飲んでる間は話に付き合っていいと言って、そこの自販機の缶コーヒーで文句を言わない大変著名な音楽家様はいらっしゃらないでしょう。こうしてエスコートを受けてくださるところもイケメンポイント高いです。
A:なんか、イケメン認定、緩い?
B:まさか!?3次元でイケメン認定は年間1人いるかいないかですよ!2次元はやはり、先輩の絵が別格です。ほらほら。このイケメン画、あなた様に似てません?唇のあたりと外骨格、肩甲骨からの線が特に。
A:ピンポイントかつこの上なく微妙だな。なんか、このイケメン画なら、あの男の方が似てるかな。
B:なんと!?このイケメン画に似ている男性とな?まじで?
A:と言っても夢なんだけどね。今日の初夢に出てきた男に似てる、かも?
B:音楽家様がニヤリとちょっと嫌らしく笑うことを知った今日この頃、意外とファニーなお人柄が見た目よりキュートでちょっとびっくりです。どうやら、カエルさんをホッピングさせるような夢でもご覧になりました?
A:しつこいな。まあ、そうなんだよね。君といい、まだ、なんか夢から覚めた夢の中にいるみたいに感じてる。
B:何やら壮大そうなお話の予感がビシバシ。なあに、こうして2025年の初めての太陽に照らされる仲、おひとつ素敵な夢物語でも、通りすがりの黒猫にお聞かせくださいな。
A:夢物語、なのかな。じゃあ、僕の初夢を聞いておくんなまし、ピエロさん。僕はその夢の中で、ある男として生きて死んだんだ。実体を持ったひとりの人間として一生を過ごし、確かに死んで、目を閉じた。どこまでも落ちてゆく中、どこかで聞いたことがある音楽が聞こえたと思ったら、僕はソファの上でTVを付けたまま眠っていたのを思い出して、また目が覚めた。
B:そして実感を確かめようとお外に出かけた、と。お近くにお住まいで?
A:俺はさ、そこの新宿高校の出身なんだよ。一炊の夢ってか、夢の中の男は今の僕の続きで、まあ、その男の生涯で大切だったことはいろいろあったんだけど。高校の教室の中から見た空が、あまりに青くてのっぺらしてたの。それが見たくて新宿御苑に来たんだけど公園開いてないし、駅は人が多すぎて耳が痛い。
B:リアル美貌の青空きたー!?で、夜明け前の新宿片隅でカエルさんに跨りホッピング、と。そこに痺れないし、憧れないけど、アバンギャルドなイケメンという称号を捧げましょう。で、この2025年最初の青空は如何です?
A:わかんない。でも見たことない気がする。あの時の僕は2030年まで生きていたから、2025年の初日の出も見たはずなんだけど。もう、記憶からこぼれ落ちていっているのかもしれない。
B:なーる。蝶々や虎になりました、よりは確かに枕借りたら見た夢に近そうですね。理想的でしたか?
A:華胥の夢、理想的かは、どうかな。だけど、その男として過ごした人生は幸せだったよ。後悔とか、やり残したこととか、そういうのはあったけど、その男は恵まれていた。
B:であれば、栄枯盛衰よりは幸せなお昼寝として、その理想に近づくようにこれから過ごされたらよろしいので?一度体験したなら、なぞればいいのだから難易度は下がるでしょうに。
A:人生ってさ、一回性だと思うんだよね。音楽もだけど、あの夢が正夢だとしたら、地球全体の偶然がある程度起こって、それが続いて僕が、あの男として表れるってことでしょ?まあ、知って、行動することで因果が変わるのかもしれないんだけど。
B:あくまで偶然性を前提にすれば、手触りのある指針が手に入ったなんて、さすがイケメン。神様からの初夢プレゼントもバッチリですね。うらやま!




